第1話
全知全能の神。
そんなものは存在しない。
完璧なものなどこの世にはない。
それでも人はそれを求める。
それでいつしかできた偶像が神であると俺は思った。
だが神は決して偶像などでは無かった。
存在したのだ。
今、目の前に。
「君が望むものはなんだい?」
神の声が聞こえる。
真っ白い何もない空間でその声の主は俺に尋ねてきた。
俺の望むもの。
今の俺に必要なものは、
「俺は——————」
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「めんどくせぇ」
俺は教室の天井を見てそう呟いた。
「いきなりどうしたの? ケンちゃん」
そう言ったのは幼馴染の七峰 琴葉。
ずっとガキの頃からの付き合いでもう10数年は連んでいる。
いつもポニーテールで耳上に葉っぱデザインのヘアピンをつけている。
「なんでガッコなんて来なきゃなんねーんだよ。勉強なんてチラッと教科書読めばすぐわかんだろ」
するとやれやれと言った表情で琴葉は言った。
「はーぁ、いいよねケンちゃんは。見た目完全に金髪の不良で実際不良なのに全国模試ブッチギリの一位なんて。後目つき悪い。私なんてこの学年でも下から3番目なんだよ!」
最後の方語尾が強まったのは今回のテストでこっ酷く親にお叱りを受けたからだそうだ。
そして目つきが悪いのはほっとけ。
「知らねーよ。つかそれは流石に馬鹿すぎんだろこのアンポンタン」
「女の子にアンポンタンは感心しないぞ。ケン」
後ろから美声が聞こえた。
聞き慣れたらそうでもないが、初めてだと声優が吹き替えでもしてるんじゃないかと言うくらい綺麗な声だ。
こいつは獅子島 蓮。校内1のイケメンヤローで幼馴染だ。
天パ、二重、目元のほくろ、長身、美声、美肌、その他とイケメン要素をふんだんにつぎ込んだ俳優も逃げ出す超イケメンだ。
「蓮よお、だってこいつあんだけ教えてやったのに順位1コしか上がってないんだぜ?」
「ははっ、それはお前の教え方の問題でもあるんじゃないのか? というかさっきからずっと見られてるぞ」
「見られてんのはおめーら2人だよ」
この2人は、学園三大美男美女のうち2人なのだ。
ちなみに俺はこの2人とつるんでいるお陰で学園七不思議の一つにカウントされている。
三大美男女と一緒にいるあいつやばくね? 的な感じで。
それはいいとして確かに視線は感じる。
こういう時は大体3択だ。
1. こんなのがなんで琴葉さんと一緒なんだ!(いわゆる琴葉の親衛隊)
2. こんなのがなんで蓮様と一緒なの!(いわゆる蓮のファンクラブ)
3. 表出ろや(いつか返り討ちにしたヤンキーども)
まーなんと素晴らしいラインナップ。
涙が出そう。
3はしょうがない。
この見た目のせいで一人の時はノンストップでヤンキーやヤクザ連中が喧嘩売って来るから返り討ちにしてるせいだ。
しかし言いたい。
1.2に関しては俺は無実だ。
信じてくれ。
「ねぇ、琴葉ちゃん。この後俺らとカラオケ行かね?」
む、なんだこいつ?
いつもの親衛隊と思っていたら何かと琴葉を誘っては振られてる石田 亮介だった。
そろそろ、琴葉も困り出す頃だろうと思う。
なんせもうちょっかいかけてきて一ヶ月なのだ。
「ね、ね!」
「ごめんね、石田くん。今日はちょっと……」
困った顔で琴葉はいつも通り断ろうとした。
だが、逃がさんとばかりに石田は琴葉の腕を掴んだ。
「いいから来いよ。同じ理由を一ヶ月なんて馬鹿だねぇ。流石に嘘ってわかるよ。さ、いこう」
下卑た笑みを浮かべる。
石田が琴葉の腕を強引に引っ張ろうとした。
流石にこれは許容出来ない。
俺は琴葉の腕を軽く回してすり抜けさせた。
「失せろ」
「てめ……」
ちょっかいかけたばかりか警告も無視。
これにはムカついたので、外でヤンキー連中にもしないくらいマジで睨んでみる。
「ィヒ……」
案の定ビビって帰っていった。
「ケッ、胸くそ悪りぃ」
「流石だケン。見事な殺気だったよ」
「ありがとよ、師範代」
ちなみにこいつは俺が習っている剣道の師範代である。
剣道は恐ろしいほどに強く、出た大会では基本的に全て優勝している。
今のところ俺は奴に勝てていない。
実力は近いらしいがそう言われてずっと勝てないままだ。
「こ、怖かったよぉ」
琴葉がしがみついて来る。
やめて、俺が睨まれる。親衛隊約300人に。あいつらお前のことになるとゾンビみたいに追いかけんだよ。
一刻も早く離さなければ。
しかし、無下に引き剥がすのも悪いので、
「ほら、そろそろ春が来んぞ。席つけ」
「うん!」
ててて、と効果音がなりそうな感じで席に向かっていった。
「やれやれ、お前は本当に琴葉には甘いね」
蓮はそう言って席に戻った。
「うっせ」
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「はーい、HR始めますよぉ」
このなんとなくほんわかしたような雰囲気の女性は俺たちの担任の宇喜多 春だ。
そのほんわかした雰囲気が女子に、胸部にぶら下げてる脂肪の塊で男子に、強烈な人気を誇る教師である。
「きりーつ、気をつけ、礼」
ホームが終わったら帰れる……
轟ッ、と
巨大な音が教室に鳴り響いた。
「何!? 地震!?」
「うわ、なんだ!」
「警報ッ、警報は!?」
案の定のパニック。
そして、
「ケンちゃん!」
「ケン!」
琴葉と蓮は俺の席まで来ていた。
何故に、というか、
「お前ら動くとあぶねーぞ……うっ……」
突如教室に光が差し込む。
皆急に静まり返り、時間が止まったような気がした。
その刹那、
俺たちは知らない場所にいた。
「なっ、どこだここ」
「何もねぇ……」
「怖いよ……」
どうやら俺のクラスの連中だけがここに飛ばされたらしい。
「琴葉! 蓮!」
辺りを見渡すがいな……
「いた! ケンちゃん!」
いた!
琴葉は蓮と一緒だったようだ。
「お前ら無事か」
「どうやら俺たちのクラスの人間だけここに呼ばれたようだね。先生もいたよ」
「春も? まあいい。蓮、これどう思う?」
「すまないが俺にもわからない」
「だよな」
何故こうなったのかわからない。
考えなければならない。
だが考えてわかるもんでもないと思えた。
これは完全に人知を超えている。
俺たちが頭を抱えている時、叫び声が聞こえた。
「うおおおお!!!! これが異世界なのカ! すごいオ。これからはぼぼぼ僕の時代ダ! でゅふふふ!」
異世界か俺も聞いたことくらいはあった。
今異世界に行く内容の小説やアニメがたくさんあるらしい。
あの生粋のオタク、中本 来栖朱が言うから間違いなくそれ関係だ。
「異世界か、ケッくだらね。と言いたいとこだがありえねーとは言い切れねーよな。なんせこの状況だ。神様でも出て来んじゃねーの?」
———出てきたよ
全員が突然聞こえた声に方を向いた。
しかしそこには何もなく、真っ白い空間が広がるだけだった。
「誰だ!」
俺は声の主にそう問う。
———おやおや君がいったんじゃないかな僕は神だ。
その一言で一瞬にしてざわめきが起こった。
「そうかい。じゃあ神とやらこの状況をさっさと説明しろ」
———君、敬語とか使えないの? もう少し神を敬おうとは思わないかなぁ。ひょっとして馬鹿なのかな?
「生憎俺が馬鹿だったら日本の高校生大体馬鹿になる。ま、間違っちゃないけどよ。俺も含めてな」
すると、声の主がふふっと笑っていた。
———面白いね。君名前は?
「俺は聖……」
———聖 賢、か。聖賢ねぇ。でも確かにその頭脳は人間離れしている。
名前知ってんのかよ、と毒づくが意味はないだろう。
———さて、お喋りはここまでだ。本題に入ろう。君たちがどうして呼ばれたか、だ。
神はこう告げた。
———君たちには僕が治める世界を救ってもらう。テンプレだろう?
2018年8月13日 誤字を修正しました。