6 - crossing
もうなんか不定期更新でも良いんじゃねえかってぐらい休んでます。ごめんなさい。
鳴り響く警報音。
ドア越しに薄く聞こえる警告メッセージ。
始まった。
恐らく奴等はその内実験も開発も全て放棄し逃げ出すだろう。
こうなれば後は此方のものだ。
雑踏とまで行くかはわからないが、どさくさに紛れて抜け出す事など容易だろう。
此処とももうおさらばだ。
そうと決まれば此処を出る準備をしなくてはならないが、持ち出したい物はそう多くない。
実験用具はそもそも此処の物だし、何か成果を挙げたわけでもない。
画面の消えているコンピューターを横目に見る。
持ち出すのはこれだけで十分だ。
カバーを外し、隠して差しておいた小さなメモリーカードを引き抜く。
それを懐にしまい、椅子に深く座る。
後は機を待つのみ。
早く終わってしまえ。
走る。
ただ逃げる。
当てなどない。捕まらないように逃げる。
階段の看板が指し示していた方向へ向きを変える。
皆もついてきている。
誰かも追いかけてきている。
駿が集団を飛び抜け、一足先へ出る。
「何処へ向かえばいい!?」
「とりあえず階段を目指す!」
「分かった!」
それだけ聞くと駿は一気に速度を上げ、あっという間に離れて行ってしまった。
何とか追いついている海が魁人の横に並ぼうと速度を上げる。
「ねえっ、お兄ちゃんっ!」
「どうした!?」
「さっきの放送、なんか、変じゃっ、なかったっ!?」
逃げ始めた瞬間に流れた放送の内容を思い出す。
『実験室』という単語が入っていた気がする。あの周辺に実験室があったのだろうか。
いや、それよりも、侵入者がいることに対しての放送があの形になるのだろうか。
危険な連絡、特に今回のような場合、侵入者本人に放送の内容がバレてはまずい状況のとき、内部の者同士にしか伝わらない形で放送を流すこともあるらしい。
だがそのような偽の放送に『緊急事態』という言葉を入れるだろうか。
確かにそこまで考えると違和感の残る内容だったかもしれない。
しかし、館内に鳴り響いている警報音と何者かに追われている状況が冷静な思考をかき乱してしまう。
「そうかもしれねえけど、今は逃げるしか……!」
角を曲がる。前方に上下に続く階段が見えた。
下り階段に、一瞬だけ駿の姿が見えた。
「とりあえず下に逃げるぞ!」
駿の後を追うように階段を下って行く。
地下は一階分しかないようだが、やけに段数が多い。
とにかく下へ走る。まだ追われている。
地下一階に辿り着く。一階と同じ様な質素な廊下が続いている。
先の方に曲がり角が見えた。あの先に逃げれば隠れられる場所でもあるだろう。
そう思い走り抜けようとしたその時、曲がり角の先から駿が現れた。
「ダメだ!向こうから人が来る!」
「は……?」
後ろからは誰かが追いかけてきている。
曲がり角の先にも誰かがいる。
挟まれている。
「おいどうすんだよ!」
「魁人!」
「お兄ちゃん!」
万事休す。そんな言葉が脳裏を過った。
その瞬間だった。
後方、廊下に面していたドアが開けられた。
その中から出てきたのは、白衣を着た――
――魁人達の誰よりも背の低い、男の子だった。
「……へ?」
「あ?なんだお前ら」
更なる追手には見えない。それどころか、事情すら理解していないようにも見える。
階段側はドアで遮られており、追手の姿は見えない。
曲がり角の方からはまだ誰も来ていない。
……賭けてみるか。
「わりい!入るぞ!」
わざと男の子のいるドアに向かい、走って行く。
男の子が訝しげにこちらを見ていたが、その表情はやがて悪戯っぽい笑みに変わった。
「面白そうじゃねえか。来いよ」
想定していない答えだった。
だがこれはこれで好都合かもしれない。向こうの誘いに乗ってみることにした。
「えっ!?マ、マジかよ!?」
「いいからとにかく来い!」
困惑する啓達を無理矢理引き連れ、男の子の誘うままに部屋の中へと入った。
全員が入室したところで男の子がゆっくりとドアを閉める。
「お前らが誰なのかは知らねえけど、どうせ此処のもんじゃねえんだろ?」
「だったら何なんだよ」
「手伝ってやるよ。お前らが何しに此処に来たのかは知らねえけど――
――此処はもう、終わりだ」
次回は2018/11/14(水) 19:00を目安に投稿します。




