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6 - preparedness

めっちゃ休んですみません。文章が浮かばなかったんです。

許して。

「……ふーん?これを前の奴と混ぜれば良いのか?」

「……あの、やっぱり止めときませんか」

「は?今更何言ってんだお前は」

白衣の男二人組が、一つの小瓶を前に話し合っていた。

「アレを信じるのは危険だと思います。我々は我々で研究を続けるべきではないでしょうか」

「なんだお前、怖気付いたのか?向こうだって散々釘刺されてんだから大丈夫だろ」

不安を溢す男には目もくれず、強気な男は小瓶を揺らして弄んでいる。

「それにこいつの成分分析だってとっくにされてる。特に問題は無かったってさ」

「……そうですか」

男は俯いたまま、呟くように返した。

流石にその様子に気付いた男が、一旦小瓶を置いて話し出す。

「……あのなぁ、俺等だけで出来ることだったらとっくにそうしてんだよ。いつまで経っても実績出さないからこうなったんだろ?」

「……はい」

「それになぁ、アレは存在自体タブーみたいなもんなんだから、実質俺らだけの実績だぞ」

俯いたままの男が、ほんの少し拳を握り締める力を強くした。

「……そうですね」

「上も実績が欲しいんだろ、会社として」

吐き捨てるようにその台詞を言うと、男は小瓶を持って席を立つ。

拳を握り締めたままの男が、暫く立ち尽くしていた。



「……カメラとかは無い……けど、そこ、人いるよね」

啓が双眼鏡を下ろし、正門の少し奥を指差す。

工場の入り口には守衛所と思われる小屋があり、ガラスの窓の向こうに1人分の人影が見えている。

「だな。でも、他に入ろうにも、この高さじゃあなあ……」

魁人がそう呟きつつ、工場の外郭を眺める。

異様に高いわけでもないが、子供が道具無しで登るには高さも構造も難しい。

手をかけられるような窪みもなく、この壁を越えることは簡単ではなさそうだった。

「うーん……そうすると、あそこをどうにか突破するしかねえな」

しかし正門以外に入り口が無いとなると、守衛所の前を通ることは避けられない。

「どうにかして気を逸らさせるか……?」

「無理矢理行くしかねえんじゃね?」

「馬鹿、そんなことして中で追い詰められたらどうするの」

「そりゃそうだけどさあ……」

何らかの方法で守衛の気を逸らすことが可能であれば、その手を取らない他ない。

だが今手持ちに役立ちそうな道具は無い。その辺の石でも拾って投げてもいいかもしれないが。


漣はこの辺りで撃たれて死んだのだ。

仮に本当に此処が関係しているとすれば、銃器が何処にあってもおかしくはない。

例えば、この守衛所の中に。


「……無理矢理行くのもありかもしれないな」

「えっ!?お兄ちゃん、本気……?」

「ああ、当然滅茶苦茶危険だけどな。こっそり行こうとしてバレるよりマシかもしれない」

勿論、どちらの手段を取ろうと危険であることに変わりはない。

だがその後の被害を考えれば、『先手必勝』の文字は自ずと浮かぶ。

本当なら誰も傷つかずに終わる事が望ましいのだが。既に傷つくどころか命を失っている者がいる。

どうせ今回だけの話ではないのだろう。報いを受けるべき時が来たというだけだ。

「無理矢理って、相手を気にせず走っていくってことでいいのか?」

「いや、それじゃ単純すぎる。ちょっと抵抗あるかもしれないけど、聞いてくれるか」


短く一通り話し終える。皆が一瞬黙るが、拓がすぐに口を開いた。

「……お前マジで言ってんのか」

「大マジだ」

「いや、できなくはないとは思うけど……駿は良いのかよ」

拓が駿に話を振るが、駿は考え込むように黙って俯いている。

「駿……」

海が不安そうに声を掛けようとするも、その先の言葉が見つからない。

しかしその声に揺らいだのか、駿が少し顔をあげる。

「……やってみよう」

「マジかよ!?」

「だ、大丈夫なの?」

「危ないときはお前らが助けてくれるんだろ」

そう返すも、駿の声はどことなく震えている。

「……ありがとな、駿」

「ちゃんと援護してくれよ」

苦笑しながら駿が言った。


「こっちは準備オッケーだよ」

「私はそんなに準備することないからもう終わってるけど」

「お、俺も……多分」

皆の声を聴き、駿に目を向ける。駿はただ黙って靴のテープを強めに締めている。

テープを締めては貼り直し、と数回繰り返していたが、その内その繰り返しをやめて靴をじっと見つめていた。

「……駿、お前が良ければ始めるぞ」

声は届いていただろうが、駿は暫く靴を見つめていた。

そして十数秒経ち、目を閉じて大きく深呼吸すると、顔をあげた。

「……OK」

その声を聞き届け、皆の方を向く。

「始めよう」

各々が違う顔持ちをしつつ、それでも同時に頷いた。


夕暮れ時。守衛業務も交代の時間が近づいている。

この仕事もそろそろ慣れが生じてきたが、それでも未だに違和感は残る。

今まで一度たりとも自分が背後の壁に掛けられた『それ』を使うことは無かった。

この先も無いと信じたいが、それは不審者が侵入する場面に自分が立ち会っていないという意味になる。

つい先日の事を考えれば、自分にその番が回ってくることもあり得ないことではないのだ。

だがどうせ今日も変わらない日常を終えることになる。人生などそんなものだ。

今日も一日が終わって行く。また変わらぬ明日が近づいてくる。

足音が近づいてくる。駆けるような音。

「……ん?」

違和感に気づいた瞬間、窓越しに目の前を何かが高速で横切った。

すぐに身を乗り出し、その先を目で追う。

人影のような物に見えた。

だがその瞬間、目前に砂煙のようなものが上がる。

「ちょっ……!」

この辺りに砂は無い。誰かが砂状のものを投げたのだ。

だが優先すべきは侵入した人影だ。煙に目をやられつつ、何とか目を開いて人影を追う。

身を屈めて凄い速度で走っている。確かに人間だ。

「きっ、君っ!止まりなさい!」

声は届いただろうか。だが奴が止まる気配はない。

「やるしかない……!」

背後の壁に手を伸ばし、『それ』を手に取る。

すぐに守衛所の扉を開け外に飛び出した。

平穏な日常など簡単に崩壊するのだと、その瞬間身をもって認識した。

次回は2018/10/30(火) 19:00に投稿する予定です。

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