6 - cooperate
リアルの方が忙しすぎて全然予定通りに更新できてないのですが、だからと言って予定を初めから先延ばしにしてしまうと多分自分が怠けてもっと遅くなるのでこのままにします。
更新予定は目安ぐらいに思っていただけると嬉しいです。ごめんなさい。
ノックの音が響く。
「入れよ」
ドアが開けられる。いつもの黒服の男が立っていた。
「進捗は如何でしょうか」
「終わったよ」
少し食い気味に返してやる。
「そちらですか」
特に驚いた様子も見せず、作業台の上にある小包を確認し言った。
つまらない。
「ああそうだよ。これで満足か」
小包の横に予め置いておいた小瓶を取り上げる。
「そちらの詳細については私は存じ上げません」
「……はぁ?それでずっとお前だけ来てたのかよ」
「仕事ですので」
感情の起伏も見せずただ淡々と返答する黒服の男。
面白くない。
「……例えば俺が、これを劇薬と入れ替えてたとしてら?お前も責任を問われるんじゃないのか?」
「そうなればあなたの居場所が無くなるだけです」
「俺はお前がどうかって話をしてるんだよ」
「存じ上げません」
「……つまんねえなお前」
姿勢も表情も態度も何一つ変えず、まるで定型文でも用意されているかのような返答をし続ける。
もう、飽きた。
「ほら、これ持ってけよ」
小包を乱暴に差し出すと、黒服の男は丁寧な動作でそれを受け取った。
「では、引き続きよろしくお願いいたします」
それだけ告げると黒服の男は部屋を出てドアを閉めた。
「……はぁ」
椅子に深く寄りかかる。少し椅子のきしむ音がした。
「あれじゃまるで、頭の悪いアンドロイドだな」
パソコンの画面を見る。
前から作業自体は進んでいるものの、まだ遠い。
「……そうは、させないからな」
自然と口から漏れ出た言葉だった。
「『諏訪製薬』って、あの……?」
啓が驚きを隠しきれない様子で聞き返した。
「ああ。あの『諏訪製薬』だよ」
「え?は?『諏訪製薬』ってなんだよ、なんか有名な所なのか?」
拓は『諏訪製薬』のことは知らないようだった。
駿は言葉を発していないが、恐らく知っている。
海も言葉を発さないが、疑問符を浮かべた顔をしていた。
「拓、お前風邪引いたことあるか?」
「なんだそれ馬鹿にしすぎだろ、流石にあるわ!」
「『KK錠』って飲んだか?」
「KK……?あ、あれか!飲んだことあるな」
「それ作ってるところ」
「……ええええぇ!?!?」
諏訪製薬は5年程前にできた、比較的新しい製薬会社だ。
初めに開発された総合感冒薬、『KK錠』が「他の薬よりもよく効く」と噂になり、爆発的に売れ出した。
それから『KK錠』を宣伝するテレビCMもよく流れるようになり、瞬く間に有名企業となった。
しかしそれ以降に開発される薬はそれほど売れず、それ以上の発展を見せないまま時間だけが過ぎたのだった。
ただし現在でも『KK錠』を含む薬の数々は販売されており、一般的な薬局なら大体どこでも置いてあるのが見かけられる。
『KK錠』のブームが過ぎてからはその名が世間に上がることは殆ど無かったのだった。
「でも魁人、そんな有名な会社の本社って、ここの近くにあるの?」
「いや、本社はずっと遠い。今回行くのは工場の方だ」
「また工場か」
駿が突っ込む。確かに、潜入先に工場が多い。
「……待てよ」
「どうした?」
「いや、今じゃなくていいか。気になったことがあったんだけど、後で調べるよ」
「後でって……何か別に急ぐことでもなければ今でもいいんじゃないの?」
「急ぐことならある。皆が良ければ潜入する日を今日にしたい」
「はぁ!?」
流石に拓が驚き声をあげてしまう。
「まずいか……?予定があるとかだったら別の日に回すけど」
「い、いや、別に予定とかないけど……流石に急すぎるだろ」
「それはそうなんだけどな、沼尻さんが殺されてからまだそんなに時間経ってないだろ」
漣が亡くなり、それが報道されたのは日付的に言えば一昨日の事だ。
恐らくその前日の晩に殺されているだろうから、事件からは今日の晩で3日になる。
「警察の現場検証とかは今日終わってんだよ。そこの道はもう普通に通れた。だけどまだ犯人の調査が本格的に始まってない」
「じゃあそれ終わってからでいいじゃねーかよ」
「……向こうは何か隠してるかもしれない。沼尻さんが調べようとしたのが『諏訪製薬』で間違いないのなら、警察の捜査が入ったらもうそれに近づくチャンスは無くなるかもしれない」
「秘密そのもの捨てちゃうってこと?」
「ああ。誰かに、特に警察なんかに見つかる前に、な」
とりあえず納得はしてくれたのか、それ以上彼らが何か言うことは無かった。
だがやはり気乗りしないようで、まだどこか不安げな表情を見せている。
それもそうだろう。
今まではただの『遊び』だと、まだ言い聞かせることもできていたのかもしれない。
だが少しずつ、それでも明らかに、『遊び』では済まされない範囲に近づき始めている。それに皆気付いているのだ。
――俺は彼等を騙している。
なんだか急に罪悪感が込み上げてきた。
こんなことをさせるつもりは無かった筈だった。
いや、少し考えればわかることだった筈なのだが。
――まだ、彼等は引き返せるかもしれない。
彼等を、これ以上汚す必要もない。
彼等が望まないのなら、付き合わせる必要もないのだ。
「……急でごめんな。嫌だったら全然、やめてもらっても――」
「やろうぜ!今日の夜、行ってみようぜ」
……ああ。
「まあもう、ムンポも入っちゃったし。なんかできる気がする」
……そうか。
「別にやることが大きく変わるわけでも無い。相手がちょっと怖いだけだ。やってみよう」
……こいつらは。
「……みんなやるなら、私も頑張る」
もう、ほとんど手遅れだ。
「……そっか」
「なんだよ、なんかまだ不満なのか?」
「いや、皆やってくれるんだな、って」
「当たり前だろ!なんてったって、俺らは『C.T.』だもんな!」
その言葉が、やけに強く胸に刺さった。
本当に何か鋭利な物で刺されているのかと誤認するぐらい、強い衝撃だった。
「……ああ、そうだな」
力なく、そう返すしかなかった。
夕暮れの町、4人の少年と1人の少女が自転車を走らせる。
昨晩降った雨が残した水溜まりを跳ねさせては、通り道に輝きを散らして行く。
時折何か会話を交わしつつ、茜に染まった道を走り去って行く。
そうして彼等は一つの団地に差し掛かると、空いている駐輪場を見つけ、そこに自転車を止めていく。
それから彼等は歩いて行き、1つの大きな工場の前で立ち止まる。
正門の入り口には、『諏訪製薬』と大きく書かれていた。
彼等の『遊び』が、また始まろうとしていた。
次回は2018/10/24(水) 19:00に投稿します。




