6 - independence
過去に書いた部分の変更を行ってしまいました。
具体的には「5 - wound」にて、沼尻 漣の死因が刺殺→射殺になっています。
申し訳ございません。
後今回は作者が投稿忘れて寝てました。ごめんなさい。
週末明けだと言うのに、浮かない顔で彼等は登校していた。
あのニュースを全員がそれぞれに見ており、電話で話し合った。
一瞬見えかけたかもしれない光を、一瞬にして失った。
彼等にとっては大げさすぎる表現かもしれないが。
彼等にとっては玩具を一つ失っただけなのかもしれないが。
そうだとしても、明らかに気が沈んでいることは確かだった。
顔を合わせても、言葉を交わしても、なんとなく素っ気ないものになる。
別に彼等自身に非がある訳でも無いし、それを彼等は自覚しているのだが。
それだけ、ショックが大きかったのだ。
この世界で、毎日どれだけの生命が消えているのだろう。
1つも消えない日が、1日でもあったのだろうか。
多分、無かっただろう。
それでも気付けなかったのは、それだけ新しい生命が生まれるからかもしれない。
数が少なくなっていることに気が付けないからかもしれない。
だけど、それよりも。
「自分達とは関係ない」という意識が、どこかにある。
「自分の住む世界と違う場所での出来事」だという認識が、どこかにある。
だから、いくら人が無残に死のうが、凄惨に殺されようが。
その一瞬、一時ぐらいは気に掛けるかもしれないけれど。
少し経てば、平然と自らの生命のみを全うしようとするのだ。
だから多分、その出来事が「自分の世界」の中で起きてしまえば。
意識したくなくても、目に入れたくなくても。
ずっとその事実が自分の周りから離れなくなってしまう。
それもいつか薄れてしまうのかもしれないけど、確実にその者の精神に刻み付けていく。
そうしてやっと、それが自分と関係ない事ではなかったと気付くのだ。
今日もきっと、生命が消えていく。
確かに自分の居る、この世界で。
ぎこちない1日を過ごし、学校生活を終える。
一度家に帰り、特に何の打ち合わせもなく、いつものように魁人の家へと向かう。
一番乗りになった拓がレンガ裏に隠してある鍵を使い、先に家に入る。
続いて啓、駿が家に上がり、少し遅れて魁人が帰ってくる。
玄関の様子を見るに、海も今日は既に帰宅している。だがリビングにはいない。
味気のない、それでも無難な会話を少し交わす。
それでもまだ、違和感の残る空気が漂っている。
余りにも居心地の悪い空間に耐え切れず、啓が帰宅しようかと腰を上げかけた、その時だった。
「……魁人、あの事だけどさ」
拓が切り出した。
「……沼尻さんの事か」
「うん。俺らには関係無いのかもしれないけどさ。俺、やっぱ気になっちゃって」
「関係……無くは、ないよな。それに気になるのも当然だよ」
拓は俯いたままだった。
「……郁さんなら、何か分かるんじゃないかって」
「確かになあ」
郁の事だ。誰かからの提供かもしれないし、郁自身で集めた情報かもしれないが、何か知っていてもおかしくはない。
「……だが、あいつは情報『屋』なんだろ?ただで聞けるとは思えない」
駿の言う通りだ。それなりの対価を要求される可能性もある。
それはお金かもしれないし、あるいは仕事の類かもしれない。
「そうかもしれないけどさ、でも、気になるじゃんか。それに教えてくれるかもしれないんだろ」
「それはそうだけど……」
駿も折れかかっている。駿自身、気になる気持ちが抑えきれないのだろう。
啓もずっと俯いたまま何も話そうとしない。どちらの肩を持とうとしているかは分からないが強くは言えず、それでも気になってはいるのだろう。
だが。
「……いや、やめとこう」
「えっ」
拓は魁人が提案に乗ると想定していたのだろう。思わず声をあげてしまっていた。
「郁さんにも郁さんの事情があるだろうし、ずっと頼るわけにはいかないだろ」
「で、でも……うん……」
どうにか反論しようとするも、言葉が出ない。有効な言い訳が思いつかないのだろう。
だが、魁人は「知ること」を否定するつもりではない。
「それにさ、俺ら、スパイなんだろ?
自分達で探すのも、ありなんじゃないのか」
「……!」
その言葉に、皆が一斉に顔をあげた。
「そうか……そうだよな……!」
「でも魁人、当て、あるの?」
「いや、これから探すつもりだけど」
「それはそっか、そうだよね。あはは」
啓が気の抜けた笑いを返した。
「とりあえず、今は流石に情報が無さすぎる。俺が責任持って色々調べてみるから、少し待っててくれ」
「分かった!」
「うん、よろしく」
「……頼んだ」
彼等は早々に荷物をまとめて帰宅した。今できることがないと分かったとはいえ、待ち遠しいのだろう。
玄関で彼等を見送り、ドアの鍵を閉める。
「……そこにいるんだろ、海」
誰もいないはずの階段の方へ向けて声をかけた。
「……本当にやるの?」
恐る恐るといった様に海が顔を出す。
「怖いか」
「だって、撃ち殺されてる人の事を調べるって……もしかしたら私たちも……」
「大丈夫だよ、そんなことにはならない」
「いつもだったらそうかもしれないけど、今回は私たち関係ある話でしょ」
「……大丈夫。危険な目には合わせないから。俺を信じてくれ」
何かを訴えたそうな目のまま、魁人の事を見つめる。
「……ねえ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「これ、本当に、遊びなんだよね……?」
魁人は顔色一つ変えなかった。
代わりに、口も一切動かせなかった。
答えられなかった。
ただ黙って、そこに立っていた。
「色々調べてみたよ」
翌日の放課後、彼等は再び魁人の家に集まった。
昨日と同じ順番で魁人の家に上がり、最後に家に戻ってきた魁人が報告をしながら身支度を済ませていく。
昨日と違うのは、リビングに海がいることだった。
「沼尻さんが殺された方法は射殺。だけど、犯行現場と犯人の目撃情報は無い」
リビングに入るなりランドセルを下し、壁に立てかける。
「銃声を聞いた人もいるし、すぐに近くを見た人もいる。だけど見つかってない」
ランドセルの蓋を開け、洗濯物を取り出す。
「沼尻さんが殺された場所はある大きな建物の近く。警察も疑ってるかもしれないけど、まだ動いたっていう情報が無い」
一度リビングから離れて風呂場へ行き、洗濯物を洗濯籠に放り投げ、リビングに戻ってくる。
「沼尻さんは恐らくそこを調査しようとした。調査する理由が何かしらあったんだと思う」
ランドセルから連絡書類を取り出して机の上に揃えて置く。
「調べられたのはここまで。今回は、その建物に侵入して、色々情報を探ってみよう」
ランドセルの蓋を閉めると、一度間を置いてから皆の方を向いて口を開いた。
「……今回の侵入先は、『諏訪製薬』だ」
次回は2018/10/19(金) 19:00に投稿します。




