5 - wound
作者が完全に体調を崩してしまい更新が困難な状況にありました。
皆様どうか風邪にはお気をつけください。
15分ぐらいに一口水飲むのが結構効果あるらしいです。すごいね。
その重さを手放しかけていた場の空気が、一瞬にして凍りついた。
拳銃を突きつけられた拓は恐怖のあまり小刻みに震えている。
1度目にしたとは言えど、人に、それも友人に突きつけられている武器をいざ目の当たりにしてしまうと、恐怖が込み上げてくる。
喫茶店の時が止まっていた。
「……まあ、今回の場合は恐らく同じことをしても情報は得られなかったかと思われますが。それでも、覚えておいて損はありませんよ」
そう語りつつ、拓に突きつけた拳銃を素早く下げ、腰のあたりのホルダーに差した。
「すみませんね拓さん、怖がらせてしまって」
「あ、え、えと、は、う、た、弾とか、入って、入ってたりとか、いや、えっと、入ってたん、ですか」
「ええ。見ますか」
呂律の回らない拓に郁はいたって冷静に返し、腰から再度拳銃を取り出すとマガジンを引き抜いた。
「こちらですね。ここに弾が詰まっています」
マガジンを机に置き、弾の見えている部分を指さす。
「うわ……」
「本物か……?」
「ええ。撃ちませんけど」
郁はマガジンを回収し、再び拳銃に装着した。
「……ただ、皆さんには射撃練習もしていただこうかと考えています。人を撃つことは無いと信じたいですが、カメラ等の破壊には有用ですから」
郁が淡々と告げる。
魁斗が眉をひそめ、口を開く。
「……どうしても、やらなければなりませんか」
「できれば、ですね。強制はしませんが」
「俺は少し考えさせてください」
郁と目を合わせず下を向いたまま、ほぼ間髪入れずにそう答えた。
「あ……うん、僕もまだちょっと覚悟とか……自信無いし」
「お、俺も……」
「俺もだ」
「私も……」
魁斗のその発言にさらに怖じ気づいてしまったのか、次々と郁の申し出を断っていく。
「……そうですか」
残念そうな声を出す郁の顔はよく見えず、その真意を汲み取ることはできなかった。
「気が変わればお声掛けください」
「すみません」
魁斗も申し訳なさそうな声で返す。
微妙な空気が、店内を包み込んでいた。
帰り道。
「……なあ魁斗」
「ん?」
話を切り出したのは拓だった。
「やっぱり、受けた方が良かったんじゃねえのかな、あれ」
「……かなあ」
「拓、お前単純に銃触りたいだけだろ」
駿が鋭く突っ込むが、普段のふざけ合いの時と違い真剣さが語調ににじみ出ていた。
「まあ、それはそうだけど……でも、確かに覚えて損はないと思うっていうか」
「建前じゃないよな?」
「建前って言われてもわかんねえし、嘘ついてるわけじゃじゃねえよ!」
厳しく詰め寄る駿に触発されたのか、拓も次第に語気が荒くなっていく。
「本当にわかってんのか?あれで簡単に人が死ぬんだぞ!」
「わかってるよ!突きつけられた時すげえ怖かった!だけどさ!」
「けどじゃねえ!銃をもったら今度はお前が殺す側になるかも……!」
「駿っ!!!!!」
突然、今までに無いほどの剣幕で魁斗が一喝した。
あまりに唐突な出来事に駿も拓も、何も喋っていなかった啓も海も固まってしまう。
「……ちょっとお前ら先に帰ってろ。駿と話してから帰る」
「……でも」
「いいから」
珍しく強い口調の魁斗に圧され、駿を除く皆が何も言わずに帰って行ってしまった。
「……なんかすまん」
皆がその場から居なくなり少し時間が経ってから、駿が重々しく口を開いた。
「いや、良いんだ。むしろ駿みたいに考えるのが普通なんだよ」
「……例え役立つとは分かってても、人を殺せる道具を持ちたくない」
「俺も同感だよ」
「えっ」
駿は魁斗が拓の肩を持っていると思っていたのか、魁斗の返事に驚いた。
「……俺もさ、この先もこの活動は続けるつもりだけど。人殺しにはなりたくない」
どこか他意を含むような口調で魁斗が言う。
「確かに役立ちはする。確実に強みになる。でもさ、あり得ないとは思うんだけど、絶対に無いと思うし、思いたいけど」
何度も念押しし、1度大きく間を開けてから魁斗が口を開く。
「……もし、人に向けて引き金を引いちゃったら、って思うと、さ。怖いんだ」
「魁斗……」
駿は不安げな目で魁斗のことを見つめている。
「たった少し、何かの間違いとか、気の迷いとかで引き金を引いた瞬間に、何かが崩れる気がするんだ。当然、人を殺したって言う事実もついて回るけど、それ以上に、何かが」
駿は何も言わず魁斗の話を聞いている。
「もちろん、撃ったら絶対死ぬって訳じゃ無いと思う。それでも、傷を作ったのは自分になる訳でさ」
魁斗は近くの壁に寄りかかり、斜め下を向いて話し続ける。
「そうはなりたくない。絶対。……でも」
「……わかるよ」
言葉を飲んだ魁斗を気遣い、駿が同情する。
「……今日はもう帰ろう。急な話だったし、取り乱してごめんな」
「それはこっちの台詞だ」
微妙な雰囲気を残しつつも、二人はまた帰路についたのだった。
その翌日。
自室でのんびりとしつつも、郁の提案のことが頭から離れず脱力しきれない時を過ごしていた。
特にすることも無く、この先の計画でも立てようかとベッドから起き上がった、その時だった。
「お兄ちゃんっ!ちょっと!!!」
海がリビングで叫んだ。
「どうしたー!?」
蜘蛛か何かが出たのだろうか。
「テレビ見て!早く!」
「テレビ……?」
何か嫌な予感がし、咄嗟に飛び起き階段を駆け降りる。
「これって……!」
海がテレビの画面を指差している。ニュース番組のようだ。
テロップには『速報 30代男性撃たれる 被害者は行方不明者か』と表示されていた。
「……嘘だろ……?」
被害者の写真が画面に写る。
名前と年齢が同時に表示される。
そこに写っていたのは。
『無職 沼尻 漣 さん (36)』
つい昨日確かに顔を合わせた、漣の写真だった。
次回は2018/10/12(金) 19:00に投稿します。
今回は後日譚はありません。次回から6になります。




