5 - invade
数分その場で待機してみたものの、誰かが入ってくる様子はなかった。
「どうしよう魁人……」
「そうだな……」
少し冷静になって考えてみる。
普段ならば『作戦失敗』と託けて強制的に終了させることもできた。
だが今回は違う。郁からの依頼という形で来ているのだ。
直接的に作戦の失敗に繋がったミスではない。作戦は続行可能だ。
「……一旦出て皆と一緒に入った方がいいかな?」
啓は若干怖気づいているように見える。失敗したのは自分ではないとはいえ、その可能性を感じ始めたのだろう。
だが、今後の事を考えてもそれは得策ではない。ならば。
「……いや、俺らだけで先に進もう」
「えっ!?本気!?」
確かに啓にとっては予期していなかった答えなのだろう、明らかに動揺している。
「ああ。先に皆と合流して動くよりは、少人数で進んだ方がいい。ここはあんまり大人数で動くと危ない」
「うーん……たしかに言われてみればここに5人は狭いよね……」
今は偶然2人分身を隠せる場所があったから良かったものの、これにあと3人を加えて隠すのはほぼ不可能だ。
この先も同じような廊下が続いているのかはわからないが、仮にそうだったとすると5人で同時に行動するのはリスクが大きい。
一旦引いてその旨を皆に伝えることも一手ではあるが、数分経過してしまった今、彼らは別行動をとっている可能性がある。
さらに言えば一度引いてしまえば再度侵入する必要があり、それが全て安全に済むとも限らない。
特に、声からして発見されていたのは拓だ。拓は2度目に見つかったら流石に何かを疑われるだろう。
普通のショッピングモールならば疑われるのは悪戯の類だろうが、此処では違う。
此処には隠そうとしているものがある。内部の全ての人間が把握しているとは限らずとも、それについて用心深くなっている者が多少いてもおかしくはない。
だとすればあまり危険な行動はとれない。
皆を危険に晒す訳にはいかない。
「……それに、あっちには海も駿もいる。何とかなるさ」
「……そうだね」
啓は納得してくれたようだった。どこか諦めたような表情とも取れるが。
「そうと決まれば動こう。向こうに連絡ができないのは痛いけど、二手に分かれたと思えばまだマシだ」
「どこかで会っちゃうかもしれないけどね」
「そうなったらそれはその時でまた考えよう」
箱の山の陰から慎重に顔を出し、周囲を確認する。
人影はない。音もない。
「……よし、出るぞ」
啓に合図し、ゆっくりとその場を離れた。
狭い廊下が暫く続いた。
いくらかに分岐しているようだが、基本的には裏側の連絡通路でしかないため分岐先は殆ど表に出る扉に繋がっている。
分岐点の近くには小さな倉庫の入り口のような扉がいくつもあった。
中に人が常駐するような場所はなく、ただ狭い物置にぎっしりと備品が詰まっているだけだった。
監視カメラは設置されておらず、時折従業員の気配を察知したが物陰や倉庫に隠れることで難を逃れた。
啓は魁人の行動にぴったりと息を合わせついて来ている。
このまま進めばこちらの問題は特に無いだろう。
だがやはり気になるのは拓、駿、海の3人がどうしているかだ。せめて連絡でも取れるようにしておけばよかったのだが。
そうこうしているうちに、廊下の終わりが見えた。
一枚の扉がある。この先は広い空間になっているようだ。
慎重にその扉を開ける。
大きなトラックが何台か並んでいた。
ガレージのような空間なのだろうか、シャッターは閉じているがトラックの搬入口のようになっている。
人影は見当たらない。この時間帯では使っていないのだろうか。
その場に足を踏み入れる。
壁際にいくつかの扉が見える。今自分達が出た扉は廊下に繋がっていたが、他も全て廊下に繋がるのだろうか。
よく見渡すと、1つだけ扉の形状が違うものがある。
何も言わず、ゆっくりとそこへ近づいていく。啓もキョロキョロと周囲を見渡しながらついて来ていた。
扉の近くにプレートがある。『STAFF ROOM』と書かれている。
ドアノブに手を伸ばした、その時。
ドアの窓越しに、人影が見えた。
こちらに近づいてくる。
「離れろ」と啓に無言で合図を出し、咄嗟にトラックの陰に隠れる。
ドアが開かれる。
会話が聞こえてくる。
「じゃあ」
「すみません、いつもお世話になってしまって」
「いえいえ。それにしても本当大変ですよね――
――沼尻さん」
次回は2018/09/29(土) 19:00に投稿します。




