5 - mall
喫茶店の裏口には10人程が乗れそうな大きな車が用意されていた。
店員の男は先に回り発車の準備をしている。後部座席へのドアは既に開いていた。
啓がおずおずと車の中を覗き込み、運転席に男の姿を確認する。
「あ、あの……もう乗って大丈夫ですか?」
「どうぞ」
男は振り向きそれだけ淡々と答えるとすぐに前を向き、また準備を再開した。
「失礼しまーす……」
啓は忍び込むかのように静かに車に乗り込み、それに続き4人も乗り込む。
海が魁人の服の袖をくいくいと引っ張る。
「ねえお兄ちゃん、皆に行き先伝えないの」
「ああそうか、俺らしか聞いてないのか」
魁人は懐から一枚の紙を取り出して広げると、啓たちに見せて話し始めた。
「今日行くのはショッピングモールの『ムーンサイドポート』で」
「ムンポかよ……」
『ムーンサイドポート』は新泉町外の施設であり、魁人達の住む場所よりは北西にずれた位置にある。
子供から高齢者まで人気のあるショッピングモールであり、日中は近隣の住民のみならず遠方の客も集まりごった返している。
特に子供たちからは『ムンポ』と略されて呼ばれることも多く、多少遠距離ではあるが親しみのある施設である。
「で、今回はいわゆるターゲットがいる。こいつな」
魁人が見せている紙に印刷されている顔写真の部分を指さす。
無愛想な顔をした40代半ばの男だった。
「沼尻 漣。ムーンサイドポートの裏方の仕事をしてるらしい」
「裏方ってことは普段は出てこないってこと?」
「ああ。だから今回は従業員専用スペースに侵入して、こいつと話をすることが目的になる」
「そんなん普通に呼べばいいじゃんかよ、なんでわざわざ侵入するんだ?」
拓が首を傾げて腕を組む。
いつの間にか車は発進しており、軽い揺れが彼等を襲う。
「あくまで、裏方の仕事をしてる『らしい』なんだよ。この意味、わかるか?」
「じれってえな、わかんねえよ、教えろ」
「……いないことになってるのか?」
少し声を荒げる拓をよそに、駿が閃いたように言う。
「そういうことだ。とっくに郁さんが電話して確かめてるけど、『そんな人はいない』って言われたんだとさ」
「じゃあほんとにいないんじゃねえの?」
「郁さんは凄い情報屋だよ、間違えないって……」
「郁さんが調べた情報が合ってれば、今日も裏方の仕事をしてるはずだ」
「……でも、何ていうか、そんな匿われてる感じの人、普通に会えるのかな」
海が不安げに訊く。拓は『匿われる』の意味が解っていないらしい。
「さあな。それこそ上手くやらないとダメだろ」
「うーん……なんか怖いな……」
「まあまずはやってみないと分かんねえからな。ただ、今まで以上に気を付けて行けよ」
魁人のその言葉に4人は自然と頷く。
隣を行き交う車の音が鳴り止まなかった。
休日らしい賑わいを見せる大きな施設。
連続して車が出入りしていく中に、その車がいる。
駐車場の入り口の坂を上って行き、内部の駐車場へと入っていく。
出口に近い場所にその車がゆっくりと入り、エンジンをかけたまま止まる。
開けられたドアから、5人の少年少女が出てくる。
子供達がドアを閉めて男に一礼すると、車は再び発進し、さっさと出て行ってしまった。
1人の少年が残りの4人の方に向かい、口を開く。
「……よし、作戦開始だ」
次回は2018/09/25(火) 19:00に更新します。
2日空きます。すいません。




