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5 - commission

「何なんだろうな、せっかくの休みにまたここに呼ぶなんてさ」

「さあな」

昼下がり、拓と駿は『喫茶RaveN』への道を歩いていた。

2人とも突然魁人から連絡があり、『喫茶RaveN』へ来てほしいとのことだった為に休日を消費している。

「あーあ、今週宿題めっちゃ楽だから今日は一日ゲームしようと思ったのにな」

「お前そのパターンは宿題やらないやつだろ」

「言うな!……俺だってやらなきゃとは思ってるんだけどさ……」

いつもの調子で道を歩いていると、分かれ道から啓が合流した。

「あ、やっぱ2人も呼ばれたんだ」

「おう。あれ、魁人は?」

「え?知らないけど。郁さんに先に呼ばれてるんじゃないの?」

この分かれ道から啓が歩いてくるのであれば、魁人が共に来る筈なのだ。

「いや、俺らは魁人に呼ばれてる」

「え?でもあの喫茶店に呼ばれてるんだよね?」

「そうだけど……なんかよく分かんねえな」

「……単純に電話だから手分けしたんじゃないのか」

「ああそっか……まあとにかく行ってみよう、2人ともいるって事でしょ」

3人はそのまま道を歩いて行く。

少し雲の多い青空が、どこか暗く思えた。


軽やかなドアベルの音が鳴り、扉が開く。

前回と同じ席に郁が、そしてその横に魁人、さらにその横に海が座っていた。

駿が何かに気づいたかのように目線をやや下に逸らす。

「ああ、来た来た」

魁人が座ったまま手招きし、3人を席に誘導する。

「すみませんね、せっかくの休みの日に」

郁が苦笑する。

海は何も言わずただじっと座っている。どこか表情が硬いようにも見えた。

3人が着席すると、一呼吸置いてから郁が話し始めた。

「今回お話ししたい事なんですが、まず前回のファイルについてお話ししますね」

「何かわかったのか?」

「はい。あのカルテに載っていた方々ですが……」

一瞬、海の表情が強張る。

「以前お伝えした通り、一部の方々は行方不明者です。そうでない方でも、現在この近辺に居る方はかなり少ないですね」

「日本中に散らばってるってこと?」

「国内だけではないですね。海外にいる方もいらっしゃいます」

「なんでそんな奴らのカルテがあの病院にあるんだよ」

拓が眉を顰める。

「入院歴は確かにありますので、新泉町、もしくはその付近に住んでいた過去があるか、近くで入院しなければならない事情ができてしまった、といったところでしょうね」

「……じゃあ、退院もしてない上にこの町から出て行った奴等、ってことか?」

「事実上はそうなります」

「余計意味わかんないね……」

啓も駿も首を傾げてしまう。


「……それで、今日お呼びしたのはこれを伝えるのと、もう一つ――お願いがありまして」

「お願い?」

啓が訊き返す。

「はい。この方々ですが――1名、此処、新泉町から然程遠くない場所に住んでいる方がいらっしゃいます」

「チャリ使えば行けるぐらいの距離の場所だった。まあ移動手段は困んねえよ」

魁人が口を挟む。

「皆さんにその方に会っていただき、これについての事情を訊き出してほしいんです」

「……え?」

拓が固まった。

郁が構わずに続ける。

「はっきりと言いますが、現在集まった情報には共通性も見られず、価値がある物とは言えません。基本的に皆さんとのやり取りは金銭を介さず、情報の等価交換という形で行いたいと考えているのですが、このまま私の方で調査を進めてしまいますとそこに差が発生します」

「まあ、確かに……」

啓が少し肩を落とす。

「また、この先も私と今と同じ形で関わる積もりなのであれば、このような場合が何度かあると予想できます。ですからここで一度、経験を積んでほしい」

駿は黙ったまま何かを考えているかのように下を向いている。


「これは、私から皆さんへの、仕事の依頼です」


その言葉に拓が反応し、目を輝かせ郁を見る。

「仕事の依頼って……ほんとにスパイっぽいな!やろうぜ、なあ!」

周りを鼓舞するように拓が呼びかける。

「急にやる気になっちゃった……」

「……魁人と海はどうなんだ」

駿が魁人の方を見て、冷静に訊く。

「お前らが良いって言えばやる。1人でも嫌って言えばやらない。先に決めてた」

「私はあんまりやりたくなかったけど……お兄ちゃんがやるなら」

「そうか……」

それだけ聞くと、駿は下を向いてしまう。

少し黙ってから、再び駿が口を開いた。

「……なら、やる」

「えっ、じゃあ後僕だけ……?」

「周りがやるから、とかは良いんだぞ。自分がやりたいかやりたくないかでちゃんと言ってくれ」

狼狽える啓に、魁人が声をかける。

「う、うん……でも、実はちょっと興味あると言えばあるんだよね……」

「って、ことは」

拓が啓の次の言葉を促す。

「……うん、やるよ。やりたい」

「っしゃ!決まりだな!」

拓が嬉しそうに声をあげ、ガッツポーズをとった。

「皆さん、ありがとうございます。ただ、今一つ気になったことがありまして」

郁が一瞬深刻そうな顔を見せる。

それに気付き、皆が郁の方をじっと見る。

ゆっくりと口を開き、郁が言った。


「あの……皆さんの団体名とか、無いんですか……?」

次回は2018/09/20(木) 19:00に投稿します。

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