5 - call
2018/09/12 18:58頃、『登場人物』のページを編集しました。
結局魁人は日付が変わってからあの態度を見せることはなく、翌日の朝には普段通りに戻っていた。
事情を知っているだけに啓達も魁人を必要以上に刺激することはなく、追及することもなかった。
しかし微妙な違和感を抱えてしまった彼等も残念ながら幼く、態度に出てしまうことを恐れ接する機会を意図的に減らしていた。
当然魁人もその配慮に気づかない筈がなく、どことなく気まずい空気が彼等の間に流れた。
そのまま数日が経過した、ある休日。
着信。
海も自室にいる。俺が出るか。
自室のドアを開けると、ちょうど同じタイミングでドアを開けた海の姿が目に入った。
わざとらしくニヤリと笑いかけ、すぐさま階段に向かって飛び出す。
「わ、ちょっ……!」
こちらの意図を理解したのだろう、すぐに追いかけるように飛び出す。
だがこちらの方が一足早く、階段を駆け下りていく。
海もすぐ後ろを駆け下りてくるのが分かる。残念だったな。
階段を下りきり、受話器へ向かう。
「あぁもう……!」
海も下りきったようだがもう遅い。
受話器の画面を確認する。
登録されていない電話番号だった。
「……セールスかも」
「はぁ、なーんだ」
そう言って魁人も海も戻ろうとする。
だが、何かが引っかかって改めて番号を見てみる。
「……あ」
「どうしたの?」
「これ知ってる番号だ」
受話器を取り上げる。
「はい、櫻木です」
「ちょっと!そんなフェイントずるいよ!」
『静かにしろ』というサインを海に向け、代わりにスピーカーホンのボタンを押す。
この番号は。
「……ご兄妹で仲がよろしいんですね、微笑ましいです」
「……あー、聞こえましたか……」
「え?誰この人?」
「そうでした、妹さんは私の声は知らないんですよね。初めまして、魁人君の妹さん。私は探偵の東――」
「めんどくさくなるんでそれやめてください」
「――失礼、情報屋の西山 郁と申します」
それを聞き、海が急に不機嫌な顔になる。
「……ああ、あの日の人ね」
「海」
「分かってるよ」
郁は敵対関係に持ち込みたくない存在だ。
あの日、魁人があのようになったのは確かにこの男の影響ではあるが、だからと言って攻撃する意味はない。
海はかなり気にかけてくれているみたいだが、逆にそれをあまり表に出されても困るものだ。
「それで、お電話頂けたということは、もしかして」
「はい。とりあえずは一区切り付くところまで調べ上げましたよ」
「ありがとうございます」
電話越しに頭を軽く下げてしまう。
「ちなみに聞きますけど、お代とかって……」
「これは情報交換みたいなものですよ、お金は取りません。それに皆さん、まだお子様ですから」
「なんかお子様って言われるの嫌ですね」
「これは失礼」
あからさまに横で海が不機嫌になっているが、あまり構っていられない。
「それで、内容は」
「ここで言ってしまっていいのですか?皆さんお集まりになられてからの方が良いのでは?」
「……あー、うーん、そうですね……」
「……もしかして何かありましたか」
「えぇ、まあ、ちょっと」
ただ気まずいというだけなのだが、何となくこちらから声をかけるのも気が引けてしまう。
恐らく彼等の事だから休日明けに気分を入れ替えて普段通りに接してくれるとは思うのだが。
「……すみません、皆には俺から話すのでここで言っていただけませんか」
彼等は彼等なりに気を遣ってくれているのだ。
それを無下にする意味もない。
「そうですか、分かりました。ではまず大まかに結論から申し上げますね」
何となく緊張してしまう。
海も横で黙って聞いているが、先程までのあからさまな不機嫌な態度は薄れていた。
「カルテに載っていた方々ですが――
――殆どが、現在行方不明です」
海は声もなく驚いている。
正直な話、若干想像のついていた答えではあった。
「……そうですか」
落ち着いた声で返答する。
「ただ、今『殆ど』と言ったのは、全員ではないという意味で、です。数名、例外の方がいらっしゃいます」
「それについては詳しく聞けますか」
「ええ。ただ、この方たちについては基本的に情報が少ないです。例えば、国内では消息不明とされている方」
「国内では?」
「端的に言いますと国外逃亡ですね。正式ではない手段で海外に出たようです」
「はあ……全員そういうわけじゃないですよね」
「ええ、ですが例外の方達も殆どは接触できない状態です」
「……今の『殆ど』はどういう意味ですか?」
「それも先程と同じ、全員ではないという意味です」
「じゃあその方について教えてください」
一瞬、郁から返答が来なくなった。
海もそれに気付き、眉をひそめる。
間を開けて、郁が話しだした。
「ここで一つ、私から皆さんにお願い――いや、交渉させていただきたいのですが」
この時の郁の声は今までに聞いた中で一番、冷ややかなものだった。
申し訳ないのですが、作者の都合により次回の更新がかなり先になります。
早ければ2018/09/17(月) 19:00に更新しますが、多分間に合わないので2018/09/18(火) 19:00になるかもしれない、と書いておきます。すみません。




