4 - surmise
作者の遅刻により1時間投稿時間を遅らせました。ごめんなさい
「……そうですか」
魁人は静かに呟くようにそう言った後、それ以上自身の情報について追及することはなかった。
「で、2人は自己紹介しとくか?」
魁人が拓と駿を順繰りに見て言う。
「え、言っちゃいけなかったんじゃ……」
「悪いな、あれは俺がこの人のこと信用できなかったからそう言っただけだ。自分で言いたきゃ言ってくれ」
「だが、それはつまり自分の情報を渡すということには……」
「まあそうなるな、この人との間にどれだけ信頼できる関係を結びたいか、そこはお前らに任せる」
拓と駿はその言葉に戸惑いを覚えつつ、少し悩んでから口を開いた。
「えっと、俺は佐原 拓です」
「……古川 駿です」
それに対し郁はただ微笑みつつ。
「拓君に、駿君ですね。よろしくお願いしますね」
と言った。
「……それで、ファイルですよね。啓、頼む」
啓が頷き、カルテの入ったファイルを取り上げる。
「ようやく、ですね。じゃあすみません、拝見させていただきますね……」
啓がファイルを置くのをしっかり待ってから、郁がファイルの中身を見始めた。
郁は何も言わずにじっくりと中身を見ている。
そのまま、誰も喋らない時間が過ぎていった。
数分経って、郁が最後のカルテを見ていたことを何度かページをめくって確認し、ファイルを静かに閉じた。
「……はい、とりあえず見せていただきました」
「どうですかね」
魁人が不安げに聞く。
郁は一呼吸おいてから、静かに話し始めた。
「……まず、この中で扱われている方達ですが、共通性は全くと言っていいほどありません。
男、女、20代、50代、病気も重症だったり軽症だったり。強いて言えばご老体の方が見受けられないといったところでしょうか」
淡々と説明が続く。4人は黙ってそれを聞く。
「当然、治療方法等も担当医も全てバラバラですね。至って普通のカルテに見えます」
「えぇ……?」
「意味がないものなのか……?」
流石に困惑した啓と駿が口を挟んでしまう。
拓は理解できていないのだろうが、真面目な顔をして黙っている。
魁人はただ静かに話の続きを待っていた。
そして、郁が話し始める。
「……ですが数名、私の個人的な事情ですが、名前に見覚えのある方がいらっしゃいますね」
「個人的な事情?」
啓が訊き返す。
「ええ、ですがこれはお金で取引している情報には全く関わらないものです。そうですね、例えばこの方とか。お名前を見たことはありませんか?」
郁がファイルをペラペラとめくり、1枚のカルテの名前の部分を差す。
誰の知り合いでもない。誰も反応しないまま、ファイルがしまわれそうになった時。
「……あっ、ニュースの人?」
拓が口を開いた。
「ニュース?有名人なのか?」
「いや、ほら、えっと……いなくなる奴!なんて言うんだっけ……」
「……行方不明か」
「そう、それ!」
駿が正解を言い当て、拓が閃くような顔をしていた。
「ええ、そうです。他にも数名、行方不明者として名前が挙げられた方がいるんです」
郁がまた説明を続ける。
「改めて確認してみますと、その方たちも含めて、ここに乗っている全ての方達ですが――
――退院した形跡がありません」
魁人が探るようにゆっくりと口を開く。
「……つまり、全員その可能性も……?」
「ええ。失踪してる可能性もありますね」
「なるほど……」
それならばファイルを隠す理由にもなる。
しかし全てが分かり切っていない以上、そう断定するのも難しい。
「ただ、わかるのはここまでですね。全員というのはあくまで憶測にすぎません」
「うーん……適当な情報のままじゃ微妙だよね……」
「ですからその先は私が調査しましょう。判明し次第お伝えしますよ」
「えっ、いいんですか」
思いもよらない返事に魁人が驚いて訊いてしまう。
「ええ、それくらいは。皆さんお名前を教えてくれるほど私のことを信用してくださってるようなので」
そういいながら拓と駿のことを見る。
「そ、そうですか……」
「まあですから、しばらくお待ちください。私が、正体を突き止めて見せますよ」
郁はまるで「任せろ」と言わんばかりの表情を見せたのだった。
次回は2018/09/08(土) 19:00に投稿します。




