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4 - informant

情報屋。

映画やドラマではその内容によっては時々その名を聞くものだ。

何らかの『情報』を商売に利用し、金を稼ぐ。

扱う情報は基本的にそれが流出すれば誰かが不利になる物であり、危険なものが多い。

そのため裏社会への関与も強く、あまり表舞台に出てくるものではないのだ。

さらに危険な情報を扱うような者は、最悪命さえ狙われることもある。

常に身を隠し名を騙って生きる。そんな者たちの集まりだと言われている。

だがやはりそんな危険な職業など、架空の存在として扱われることが多い。

実在すると謳われることもあるが、殆どは都市伝説扱いだ。


――そんな『情報屋』を名乗る人物が、目の前にいるのだが。


それも嘘ではないのかと口を開きかけた、が。

「情報屋!聞いたことあります!!!」

拓が目を輝かせ、身を乗り出して興味を示している。

「あなた達がどのように情報屋を理解してるかはわかりませんが……私はそういう人間なんですよ」

今度は郁と名乗った人物がそう言った。

だが魁人も先程までの経験からそう簡単に郁のことを信用できず。

「はっきり言いますけど、信じ難いです」

そう告げてしまった。

「……まあそれも、無理もないですよねえ。あんな出会い方じゃあ疑われて当然です」

「貴方がそうしたんでしょう」

「ええまあ、そうなんですけど」

「参った」と言わんばかりの苦笑いを浮かべ、暫く郁が思案する。

何度かうんうん唸ってから、少し苦しそうに郁が言う。

「……あんまりしたくないんですけど、いくらか此方のことを話せば信用していただけますかね?」

「……内容によります」

魁人が慎重に答える。

「郁さん、良いんですか?いつもひた隠しにするのに」

啓が不安そうに聞く。もう少し前からの郁を知っているのだろう。

「苦渋の決断ってやつですよ。皆さんに手を貸したいのに、魁人君に疑われたままじゃ意味がない」

「すみませんね。でも信用しきれないので」

あくまで冷徹に、慎重に返す。

「ええ、仕方ありませんよ。ただ此方もポンポン秘密をばらすわけにもいかないので、今後手を組んでいくことを考えた上でお話しできるところまでお話ししますね」


少し間を開けてから、郁が再び口を開いた。

「冗談が許されるような場なら私の名前についてとか話すんですけど、さすがに駄目ですよね」

郁が1人で笑って見せるが、魁人はピクリとも笑わず、啓たち3人はただただ苦笑している。

「では……そうですね、実際に見せた方がよろしいですかね」

そう言うと郁が体の向きを変え、先程店員が消えていった方を向いた。

「すみません、『シロップ』をください」

店員からの返事は無いが、奥で誰か動いているような気配がある。

そこで駿があることに気づき、口を開く。

「……あの、ガムシロップならそこにあるじゃないですか」

「ふふふ、よく気付きましたね。まあ見ててください」

暫くして、シロップの入った入れ物を持った店員が奥から出てきた。先程の男だった。

「お待たせしました」

入れ物をゆっくりと机に置こうとする。

やけに動作が遅いような気がした。

「すみません、それ、この子達に見せてやってくれますか。大丈夫、触らせませんから」

郁がまるで男を制止するかのように言う。

「……はい」

すると男はシロップの入れ物を持っていなかった方の手をエプロンの内側に滑り込ませ、素早く拳銃を取り出したのだ。

「「「「!?」」」」

これについては啓も知らなかったようで、かなり驚いた表情を見せている。

「ありがとう、しまってもらっていいですよ。両方」

「かしこまりました」

店員の男はそれだけ言うと拳銃を再び隠し、シロップの入れ物を持って奥へ戻っていった。

「まあ、これでお分かりいただけたと思います。この『喫茶RaveN』ですが、言わばアジトの1つです」

「1つ?」

その言葉に疑問を覚えた拓が訊き返す。

「ええ、流石にこういう仕事をしていますと、隠れ家とかって1つじゃ足りないんですよ。実際いくつか潰されましたし」

「へ、へえ……」

まるで物語の出来事のような話で、率直に理解することが難しかった。

「当然さっきの店員の子も私達の味方です。ちょっと不愛想なんですけど、良い子ですよ」

ニコニコと笑う郁に嘘を吐いている様子はなかった。もしかしたら嘘を吐くのが極めて上手いだけかもしれないが。

「どうです、これぐらいでいいですかね?」

郁が魁人に向かって聞く。

この情報開示は、彼等全員というよりは魁人個人に向けたものなのだ。

「……わかりました。ただ、もう少しだけ教えてほしいことがあるんですけど」

「ええ、答えられることならお答えしますよ」


「……俺のことってどこで知ったんですか。どこまで知ってるんですか」


啓がどこまで嘘を吐いていたのかはわからない。

ただ、自分の事を「知っている」と確かに郁は言ったのだ。

それに対する不安感が大きかった。

暫く押し黙った後、郁は笑みを絶やしゆっくりとこう告げた。


「……残念ですけどね、魁人君。その情報は、高くつきます。非常に」

次回は2018/09/06(木) 19:00に投稿します。

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