4 - meeting
拓と駿は放課後の会合予定を承諾し、啓が交渉を終わらせるまで魁斗の家で待機することにした。
いつもの如く帰宅の遅い魁斗より先に魁斗の家に上がり、適当に時間を潰す。いつも通りの光景だった。
ガチャリという音が鳴り、玄関のドアが開く。
「ただいまー」
「お邪魔してまーす」
「お邪魔してます」
「……あれ、啓は?」
リビングに入る直前になって、迎える声が1つ足りないことに気づく。
「まだ来てねえよ」
「一緒に学校は出たんだが、『大事な用があるからちょっと遅れる』って言って走って帰ってって、それっきりだ」
「そうか……」
十中八九、朝の件だ。上手く行くと良いのだが。
「……で、お前らは何してんの」
リビングに広がる空のペットボトルの海。その横に転がるプラスチックのカラーボール。
「どう見てもボウリングだろ」
「お、おう、けどうちにそんなにペットボトルあったか?」
「俺が持ってきた!」
「お前それ全部きっちり持って帰れよ」
「全部!?めんどくさ……ってか全部って」
「うるせえ!それを全部処理して捨てさせられるこっちの身にもなれ!」
「いや、半分ぐらい駿のやつだけど」
「……!」
「急に本読み出したと思ったらそういうことかよ!お前もだからな!」
「……クソッ」
その時唐突に、電話が鳴り出した。
近くにいた拓が電話機の画面を見る。
「啓からだ」
「来たか」
ランドセルを電話機の近くに下ろし、魁斗が受話器をとる。
「もしもし?」
『あっ、魁斗?ごめん、向こうになかなか連絡がつかなくて、さっきやっと通じたんだ』
「そうか。で、どうなった?」
『渋々って感じだったけど、OKしてくれたよ。近くの喫茶店にしてくれたけど、知らないところだったから手書き地図貰った』
「わかった。俺らはどこ向かえばいいんだ?」
『僕がそっちまで行くからファイル用意して待ってて』
「わかった。じゃあ後でな」
受話器を置き、ランドセルを持ち上げる。
「どうなったんだ」
駿が本を置いている。話を聞いていたのだろう。
「これからこっちに啓が来る。んでファイル持って、知らないどっかの喫茶店に行く。そこで例のそいつと会う、って感じだな」
「おぉ、なんかどんどんスパイっぽくなるな!」
拓が興奮している。スパイ熱はまだ冷めていないのか。
「啓が来たらとりあえず言うことあるから、まあそれまでは適当に待ってろ」
そう言ってランドセルを持ち上げたまま自室へ向かう。
階段を上がりつつ、ため息を漏らす。
向こうがこちらの条件を飲んでくれたことは事実だ。
だが相手の事が解らなすぎる。慎重にいかなくてはならない。
下手に出れば、大損を負う可能性もある。だが同時に、何か有益な情報を得られるかもしれない、大きなチャンスでもあるのだ。
逃すものか。
自然と、拳を握りしめていた。
啓に渡された地図通りに、細い路地を進んでいく。
少しだけ開けた道の並びに、目的の喫茶店があった。
『喫茶RaveN』の文字を頭上に確認する。
このドアの先だ。
ゆっくりと、ドアノブに手をかける。
カランカランと、心地よいドアベルの音が鳴る。
すぐ前方の席に、一人の男が座っていた。
こちらの存在に気づき、席を立って近づいてくる。
懐から出した財布を少し眺めたあと一枚の名刺を取り出し、男は清々しいほどの笑顔を浮かべてこう言った。
「どうも、初めまして。私、私立探偵をやっております東 透という者です」
次回は2018/08/31(金) 19:00に投稿します。




