4 - confined
2018/08/25 18:40頃、登場人物のページを少し編集しました。
ノックの音。
急に現実に引っ張られたような感覚。何度味わってもそう簡単に慣れるものではない。
データを保存し、ウィンドウを閉じる。
その間にも再度、ノックの音がする。
「あー、入っていいぞ」
そう声をかけると、この部屋の唯一のドアが開けられた。
「……進捗は」
いつもの黒服の野郎だ。
「見て解んだろ、進んでねえよ」
ゴチャゴチャのデスクを指差す。
そもそもこれだけ狭い部屋にこの机とこの環境なのだ。こうなることは明白な筈なのだが、向こうは改善する気など更々無いのだろう。
「あまり滞っておられますと、此方としても対策を講じなければなりませんが」
「それが研究に対する態度か?前にも言ったがカメラ付けたら俺は動かねえからな」
「……本日は此処で失礼させていただきます」
それだけ告げると黒服は部屋を出て行きドアを閉めた。
「……ったく」
狭いスペースに何とか置かれた椅子に強く深く座る。クッション材が良質なのがせめてもの救いか。
何気無く、回りを見渡す。
清潔な空間。
質素な壁。
雑多に積まれた紙の山。
一部崩れ壁にもたれ掛かった本の束。
少し眩しすぎるLED。
棚に滅茶苦茶に押し込まれた実験器具。
適当に置かれた薬品。
汚れが気になり始めたコンピューター。
一日中その場所を殆ど変えることの無い椅子。
臭いが気になり始めた白衣。
狭い部屋。
孤独な自分。
惨めさを感じるわけでも何でもないのだが。
「……そろそろ、替え時かねぇ」
虚空を見つめたまま、口は勝手にそう動いた。
次回は2018/08/27(月) 19:00に投稿します。




