3 - downstairs
1階、待合室。
受付から見えにくい位置に、彼等は座っていた。
「ほんと危なかったよ、見つかるかと思った……」
「啓、お前……かなり才能あるんじゃないか?」
「かも、ね。あはは」
「お前目笑ってないぞ」
啓は1階を探索したが、普段医者や看護師、患者、そして受診者以外が立ち入らない場所だったために表立った行動が取れなかったようで、何とか物陰に隠れたりしてやり過ごしたらしい。
やはりそのような場所はそもそも立ち入るのが難しく、監視カメラもあるために階段までの到達が難しいという結論だった。
「皆が同じように隠れながら移動できれば良いけど……人数も多いし、無理だと思う」
「そうか……で、そっちは?」
魁人が拓と駿の方を向く。
「こっちも駄目だ。階段の目の前に監視カメラがついてる」
「カメラさえなければ後は完璧なんだけどなー。あ、あと看護師さんいなければ」
「……お前、俺が教えたのそのまま言ったのか」
「うん?そうだけど?」
(危なかった……)
ほっと胸をなでおろす。つくづく海の機転に感謝しなければ。
拓が「え、俺なんかまずかったか……?」と小声で啓に確認を取っているが、啓もよくわかっていないようで曖昧な返事を返している。
「……で、魁人の方はどうなんだ」
駿が顔を下に向けつつ目線だけを魁人と海の方に向けて言った。
「3階の階段は簡単に行ける。監視カメラも視界が外れてた」
「一応看護師さんとかはたまにいるみたいだから、それにも気を付けないとダメだけどね」
「なるほど……じゃあこの感じだと、3階からでいいのかな?」
「そうだな。あと、階段には監視カメラは無かったから気にしなくていい」
「何だお前ら、遅かったと思ったら階段見てたのか」
拓が驚いたように言う。
「ああ。1階から出ようかとも思ったけど、万が一を考えて3階まで往復してから戻ったから少し遅くなった」
「流石だなあ」
「とにかくルートも決まったことだし、ここが閉じないうちに行こう」
4人が頷く。
「じゃあ」
とだけ言って魁斗が腰を上げる。
それに続くように4人も立ち上がった。
魁斗は何も言わず、エレベーターへと歩き出す。
「……作戦開始、だな」
拓が誰に聞こえるともわからないぐらい小さく呟く。
返事は無かった。
2階に着く。
エレベーターは停まることなく、2階から3階へ向けて上昇していく。
エレベーターの稼働音だけが響いていた。
その内、エレベーターが3階に着いた。
「……行くぞ」
魁斗が小さく呟く。
エレベーターの扉が開く。
廊下に他の者はいない。
今のうちだ。
それでも怪しまれないように、平静を装って廊下を歩く。
それに倣うように、4人も歩く。
階段へ近づいていく。
静かな館内に5人分の足音が響いている。
そう聞こえるだけかもしれない。
少なくとも彼等にとってはそうだった。
そのまま、階段の入り口へ辿り着く。
『緊急時非常口』と書かれた鉄製の扉が入り口になっていた。
静かに手をかけ、ドアノブを捻る。
静かに引いていく。
金属の擦れる音。
なるべく音を抑えるように、慎重に引く。
「……よし、先行け」
その言葉を聞き、4人が次々と中へ入っていく。
狭い隙間をするりと抜けて、全員が中へ入った。
魁斗もそれを確認し、反対側のドアノブに手を伸ばして掴むと、素早く回転して身をドアの反対側に持っていき、中へ侵入した。
少しはみ出した足をスッと引き、慎重にドアを閉める。
小さくカチャリという音が鳴り、ドアが閉まった。
「よし、じゃあ下に行くぞ」
「……いよいよだね……」
階段は普段使うものではない為か、あまり塗装などもされていない。
無機質なコンクリート製の階段を、一段また一段と下りていく。
監視カメラがあるわけではない。
皆、得体も知れない緊張感を既に感じ取っているのだ。
ただでさえ静かだった場所から、ほぼ完全に無音に隔離された階段へ来てしまったことが、思ったよりも重く感じてしまっていたのだ。
だがそれでも歩みは止めず。
2階の入り口を素通りして、下へ進んでいく。
白熱灯が少しちらついていた。
虫一匹すらいない。
ただ下る。
1階の入り口に辿り着く。
まだ、下れる階段がある。
この先が目的地だ。
思わず息を飲む。
一歩、踏み出す。
下る。
ただ、下る。
扉が目の前に見えてきた。
2階、1階の入り口に続くように、地下の入り口が縦に並ぶ場所にあった。
「……この先はまだ俺も見てない所だ。気を付けて行くぞ」
4人の方は一瞥もせず、ドアノブに手をかける。
この先は未知の領域だ。何が起きてもおかしくはない……かも、しれない。
少しだけ深呼吸してから、ドアノブを捻った。
次回は2018/08/19(日) 19:00に投稿します。




