3 - playmate
明くる日の週末。
4人は魁人の家に集まり、前日の成果を机に広げて話し合っていた。
とは言え、魁人以外は魁人の家に遊びに来ているのであり、それぞれ自分のしたいことをしつつ魁人の話を聞いている状況だった。
「で、何だっけ、隠してたことって」
「お前ほんと話聞いてねえな!!!何も無かったんだってば!!!」
拓は「あれそうだっけ」と抜かしつつ、視線をゲーム機から逸らさないままでいる。
「作ってた物の資料も、何なのかよく分からないって事以外は怪しいところもないんだっけ」
「ああ、隠す所も特に考えられない」
啓は時々魁人の方を見ているが、チェスをする腕は止めていない。
「じゃあ昨日の頑張りは全部無駄になったのか?」
「いや、まだ見てない資料もあるから何とも言えない」
駿は本から目を逸らさないが、魁人の話は聞いているようだった。
魁人本人は頬杖をつきながら、パソコンに取り込んだ資料を眺めていた。
「『決算報告』……別に変な出費とかも無さそうだしなあ。あれだけ機械動かしてりゃこんぐらい金かかってもしょうがないだろうし。
『予算案』……決算報告から特に変わりもないし、怪しいところもないか……」
「さっきから言ってることわかんねーんだけど」
「いいよお前どうせ聞いてないんだから」
「ひどくね!?」
だがゲームをする腕は止めない。
「うーん……最近の年度まで見てみても特に変わったところもないかな……」
「勝手に僕たちが向こうは何か隠してるって思い込んでただけかもね」
「かもなぁ……まあまだ資料残ってるから見るけどさ」
正直、普段見慣れないものを読み取ろうとするだけでも一苦労なのだ。
時間にすれば30分程度なのだが、魁人の集中力は切れ始めていた。
「……『事業報告』……そりゃ物作って売ってるだけか……」
「……ねえ魁人、思ったんだけど」
「あー……?なんだよ?……『取引先一覧』……」
「あ、それ!」
啓がチェスをする腕を止め、魁人の方を向く。
「隠したいことがあったとしたら、の話だけど。自分たちがやってることっていうより、自分たちに関係ある人にちょっと知られるとまずい人がいるとかじゃない?」
「……なるほど、関係を持っているだけでもまずい相手か。有り得なくはないな」
駿も本を読むのを中断し、話に参加しだした。
「なるほどな、んじゃこれはちゃんと見てみるか」
「なんだなんだ、なんかわかんないうちに話進んでんのか」
拓はゲームをする手は止めないまま話を聞いているようだ。
「ほら、ついこの前も暴力団関係の人と繋がりがあったって言って芸能人がニュースに出てたじゃん。それを思い出したんだけど」
「あーなんかあったのそんなの」
適当に返事をしながら画面をスクロールしていく。
見知った名前もあれば、ほとんど名前を聞いたことのない企業も載っている。
「……名前からして怪しいってところは流石に無さそうだな」
「まあそれはそうだろうな、あからさまに怪しい名前だったら俺らが見つける前に警察かどこかが見つけて捜査してるだろ」
「なんか面白そうなところねーのかよ」
「あー?拓でも知ってるところだったら……『倉木総合病院』があるな」
倉木総合病院。
新泉町の代表的な病院ではあるが、あまり規模の大きい病院ではない。
他に専門的な医院が町内に多くあるわけでもないので、新泉町民がとりあえず体調を崩したら向かうのは此処だ。
特に怪しい噂などが流れているわけでもないのだが、逆に言えば全く話題にならないところでもある。
敢えて疑いの目を向けるとすればその点になるが、普通の病院で噂が上がらない、など当然のことのように聞こえる。
「じゃーもうそこでいいよ、なんか楽しくなってきちまったしどこでもいいから忍び込みてえ」
「こいつやべえな」
「それはやばいよ」
「頭悪いのか」
「おい駿てめえそれは許さん」
データが保存されていることを確認し、パソコンの画面を閉じる。
「……じゃあまあ、病院行ってみるか。とりあえず手がかりを掴まないとな」
その時、誰かがドタバタと階段を下りてくる音がした。
リビングのドアが勢いよく開けられる。
「聞いたからね!!!お兄ちゃん!!!!!病院行くの!?連れてって!!!!!」
「あ……」
「う、海ちゃん……お邪魔してまーす……」
魁人はしまった、という顔で開けられたドアの先を見ている。
そこには、他ならぬ魁人の妹――櫻木 海が、立っていた。
次回は2018/08/09(木) 19:00に投稿します。




