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2 - reproduction

先程入るのを諦めたドアの前に立つ。

鍵は開いている。勢いよくドアを開け、中を見る。

事務所と呼ぶのにふさわしい、事務机が並んだごく一般的な内装だった。

奥の方にプロジェクタースクリーンの設置された部屋がいくつか見える。あそこでクラス別に説明会をやったのだ。

しかし今日はその部屋に用はない。あの部屋に目ぼしい物は置いていないことは覚えている。

「よし。とにかく大事な情報とかが書いてありそうなものを取っていこう。拓はそっちの窓から出入り口を見とけ」

「あいよー」

拓が気の抜けた返事をし、窓の傍に立った。

「持ってっちゃうんだよね……なんか、ちょっと悪い気しちゃうなあ」

「工場の中に忍び込んどいて、もう今更なんじゃないか」

「というかゲート乗り越えた時点でアウトだろ」

「それもそっか……」

啓は何となく気乗りしていないようだったが、構わず部屋を漁り始めた。

どこに大事な書類をまとめているかとかはわからないが、此処以外に部屋がないのだからこの部屋を探していれば何か一つは大事なものが見つかるだろう。

「どうせこういう机になんかあるんだろうな……」

魁人はいち早く、並びから外れた少し大きめの事務机に近づき、資料を探し始めた。

きちんと並んでいる机は数があるのだから、あまり重要な役職を持った人間のものではないだろう。

一つ二つしかないような、特徴的な机は恐らくそれからは外れたものだろうと想定し、先に調べることにした。

他の机とは違って立てかけられている資料がない。全て引き出しに入っているのだろうか。

引き出しに鍵穴があるが、鍵がかかっていない。面倒だから使わなかったとか、そういう事情だろうか。

とりあえず開けてみる。


……大量に資料が入っている。


「……いや、鍵使えよ……」

こちらが盗む側だというのに思わずツッコんでしまう。

とにかく中身を見てみる。


俺でもわかる。多分啓でも駿でもわかる。拓はちょっとわからないかもしれない。

明らかに重要な資料だ。


もう目的のものが見つかってしまった。流石に拍子抜けしてしまう。

だがいくら何でもこれがごっそり消えたら大事になるだろう。指紋でも取られたら終わりだ。

部屋の中を見渡す。コピー機が置かれている。

(……いや、コピーしてる時間はないか。最悪、調子悪いとかだったらまずいしな)

しかしとりあえずコピー機には近づいてみる。

電源を入れる。画面が光り、メニューが表示される。

「コピー」の他に「スキャン」の文字が表示されている。これだ。

「啓、駿、USBとかあったらすぐに教えてくれ」

「えっ、どうしたの急に」

「書類のコピーを取る。これなら元は戻せばいいしな」

「データだけ持ち帰るってことか。わかった」

「……まあ、結局USBは盗むことになるんだけどな」


部屋を漁り始めて2分ほど経った。

「あっ、魁人、USBってこれでいいかな」

啓が一つの机からUSBメモリを発見し、魁人に手渡した。

「256GBか、それだけあれば十分だな」

素早くコピー機兼スキャナーにUSBメモリを接続し、設定を完了させて書類のスキャンを始める。

直後、拓が異変に気付く。

「……なあ、そこのパソコン、さっき画面赤くなかったか?見間違いかな」

駿が拓が指しているパソコンに近づき、画面を見る。

工場の機械の管理を行うためのコンピューターらしい。全体が青い画面で表示されている。

その一角、右上の枠の部分。

「『エラーは解消されました: 2分16秒 後に作動します』……?これ、カウントダウンされてるな」

「えっ……?それまずくない……?」

魁人がすぐに拓の方を向く。

「拓、自分が向こうから見えないように注意して出入口見てろ。もうすぐ出てくるかもしれない」

「わ、わかった」

機械の方が自動で作業を再開するというのならば、人間はそれを見届ける必要はないだろう。

エラーが解消されたことを向こうが把握しているのなら、近いうちに出てきてしまう。

「魁人、スキャン終わりそうなの?」

「……ちょっと間に合わないかもな、いくつか諦めた方がいいかもしれない」

まだスキャンしていない書類をパラパラとめくっていく。

「……まあこれは優先しなくてもいいよな……これはやっといた方がいいか」

適当に書類を選別していく。その間にもスキャンは進む。

「拓、まだ出てこなさそうか」

「まだ……あっ」

拓が窓から離れる。

「来たか!?」

「影が見えた、多分もうすぐ来る」

スキャンはまだ終わっていない。啓と駿は既に自分たちが漁った部分を片付け終わっている。

「ここまでならまだ間に合うか……?」

「ダメだよ魁人、見つかったら全部無駄になっちゃうよ!」

「……そうだな」

書類のスキャンを中断し、残りの束をまとめる。

「あっ、出てきたぞ!」

「反対側の出口から先に出とけ、俺は後始末してからすぐに行く」

3人は頷き、外に出て行った。

「……この資料だけはまだ、やっておいた方がいいな」

一枚だけ資料をセットし、スキャンを再開する。

窓の方を確認する。

男の姿が見える。扉の鍵を閉めたようだ。

スキャンが終わる。男はこちらに向かって歩いてきている。

急がなければ。


「……ったくほんと何なんだよ……まだ仕事残ってんのに……」

舌打ちしながら歩く。

結局、普通に作動していれば起こるはずのないエラーで機械が止まっていたらしく、今敷地内には自分しかいないために仕事を中断して向かわなければならなくなってしまっていた。

とりあえずエラーは解消させたし、機械の再稼働も確認したのでもう問題はないだろう。

「あーあ、もうこれ仕事間に合わねえだろ。ふざけやがって」

今日は本当に災難な日だ。

先日の工場見学……もとい、説明会も急に担当を任され、徹夜で仕上げたプレゼンをする羽目になったし。

「相手がガキだったから良かったけどなぁ」

あれで相手が大人だったら、とは考えたくもない。

とにかく、今は今を生き抜くことだけを考えなくては。

事務所の扉を開ける。

「……?」

何か、違和感を感じる。

まるで、今ここに誰かいるような……

「……あっ」

コピー機の電源がついている。

「切り忘れてただけか……疲れてたんだな」

コピー機の電源を落とし、自分の机に向かう。

まだ終わっていない仕事が山積みだ。今日中に本当に終わるのだろうか。

「終わらせないとな。……はぁ」

ため息が止まらない。

本当、災難な日だ。

次回は2018/08/04(土) 19:00に投稿します。

後日譚になりますが前回の後日譚よりは大分長いです。

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