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「……はぁ」

椅子に座り、深くため息を吐く。

今日は家でゆっくり休めるはずだったのに、突然追加の業務を言い渡され残業する羽目になった。

しかも何だこの量。期限も明日の朝までなんて、徹夜しろと言ってるようなものじゃないか。

(しかもなんで俺なんだよ……)

普段自分が担当していない部分の業務まで任せられてしまった。そこの担当が休んでいるからだとはわかっているのだが、それでも理不尽だと思う。

(まあとにかく、進めないと)

主に書類を作成していれば7割方は終えられるはずなのだ。

気合を入れて立ち上がろうとした、その時だった。

ビーッビーッっと大きな警報音が鳴る。

「はぁ?」

システム管理用のパソコンの画面を見る。

一部が赤くなっている。

『原因不明のエラー:レーンが作動していません』と表示されていた。

「何だよこれ……」

横に立てかけてある『緊急時対応マニュアル』を開く。

災害でも停電でもない、単なるエラーメッセージだ。パラパラとページをめくっていく。

『エラー発生時の対処』というページにたどり着く。またパラパラとめくっていく。

『エラーが発生した場合、自動で修復プログラムが作動します。1分以上エラーが解決しない場合、既存の修復プログラムでは解決できない問題か、物理的な障害が発生しています。現地へ向かい、問題を解決してください。』と書かれていた。

「……もう1分経ったっけ」

このマニュアルをめくっている間に1分程度なら経っている気がする。

エラーメッセージは依然として表示され続けている。

「はいはい、行けってことだろ」

重い足取りで事務所の出口へと向かっていった。


「な、なあ魁人、ほんとにこれ大丈夫か?」

「一つぐらい平気だろ、多分。知らねーけど」

魁人たちは機械の陰に隠れて機を窺っていた。

マニュアルによると、物理的障害が発生した場合は人が直接見なくてはならないことになっていた。

ならば、ここで問題を起こしてしまえば、今事務所にいる人間は此方に来ざるを得ない。

そこでなんだかよくわからない金属製の製品の一つを勝手に取り上げ、ベルトコンベアの隙間に無理やり押し込み、動きを止めたのだ。

先程までほぼ無音に思えた空間に、ガリガリと金属が擦れる音が響いている。

「なんか悪い気しちゃうよね、別に何かされたわけでもないし」

「……工場見学の日は無駄にさせられたけどな」

「まあその仕返しだと思えば妥当……でもないか」

1日分、少し楽しみにしていた予定を無駄にされたのだ。数十分程度の分なら奪い返したって問題ないだろう。

本当は半日分もない程度の時間だったのだが。誤差の範囲内だ。

突如、ガチャリと音が響く。近くの金属製の扉の鍵が開けられたらしい。

「……動くぞ。音消せよ」

魁人が小声でそう告げた直後、ギィィッという音とともに男が工場内に入ってきた。

ドアを開けっぱなしにしたまま、ズカズカと歩いてくる。

「あーめんどくせぇなあほんと!」

誰もいないと思っているからだろうか、不満を機会にぶつけるように叫んでいる。

そのまま機械へ近づいてくる。

魁人たちが出口へ向かうには機械越しにすれ違う必要がある。

とにかく音を立てないよう、細心の注意を払って進む。

男も近づいてくる。


初めからもう少し近づいていれば良かったのだろうか。

いくつもあるドアのどれが開くか予想しなかったのが間違いだった。

今更悔やんでも仕方ない。

今は進むことだけ考えろ。

気づかれてはいけない。

バレてはいけない。

気をつけろ。

バレるな。

静かに。

行け。


鼓動が早まっている。

男はもう通り過ぎた。

まだ緊張を解いてはいけない。

出口まで、慎重に近づいていく。

まだ男の足音は響いている。

まだガリガリという音は響いている。

自分たちの音はこの空間に無い。

そのまま、出口へ近づく。

鼓動が大きい。


機械の端へ辿り着く。

ここから出口まで、完全に無防備だ。

「こんなところに普通詰まるかよ!設定バグってんじゃねえのか!?設計ミスかぁ!?」

男は独り言を叫んでいる。イラついているのだろうか。

後ろを振り返り、啓、拓、駿の順に顔を見て合図をする。

3人は少し不安そうな顔つきをしながらも、ゆっくり頷いた。

それを確認し、魁人が素早く出口へ飛び出した。

そのまま啓、拓、駿の3人も続いていく。

男はガチャガチャと無理やり金属を引き抜こうとしている。

魁人、啓、拓が出口に到達し、そのまま外へ抜け出す。

駿が出口に差し掛かった。

その瞬間、男が金属を引き抜き、空間が無音になった。

タイミングよく駿は出口の外へ足を踏み出し、そのまま抜け出すことに成功した。音は立っていなかった。

男は気づいていないだろう。

「……よし、すぐ事務所に行って、持ち出せそうなものを持ち出そう。中身を見ている暇は多分ないしな」

時間がない。

事務所へ走り出した。

次回は2018/08/02(木) 19:00に投稿します。

また3日後更新です。すいません。

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