2 - rooftop
「そっか……じゃああの中は厳しいね」
「ああ、流石にな」
なんとか3人と合流し他の場所に移動した後で、魁人は事務所の中に人影を確認したことを伝えた。
「また前みたいにバレないように~ってできないのか?」
「今回は俺らが入る側だからダメだ。できるだけバレないようにしたいし」
「ならこの中か?」
駿が工場を親指で指す。
「そうなるな……だけど、どこから入るか」
入ってきたときに確認してあるが、正面はシャッターが下りていた。
非常階段がいろいろなところに設置されており、そこからドアを通じて中に入ることはできそうだ。
だが階段を上っている最中はほぼ無防備、隠れることもできない。
それにドアが開いているという確信も得られない。ドアが開かなければ徒労だし、見つかる危険性も高くなるだけだ。
さらに、先程の事務所の構造から考えても、非常階段は鉄製だ。あまり足音も立てられないし、逃げるにも不便だ。
「……やっぱり、中に入って鍵とか盗んできた方がいいんじゃねえのか?」
「ダメだよ拓、退くことも大事だよ」
「ひく……わかんねえけど突っ込んじゃダメってことか」
拓がわざとらしく考え込むポーズをとる。多分あまり頭は回っていないのだろうが。
「普通に入ることはできなさそうか……?」
「うーん……どこも鍵閉まってそうだしなあ……」
その時、魁人が呟いた。
「……屋上とかどうだろ……」
「「「は?」」」
3人が硬直する。
確かに、屋上に出入り口があるかはまだ確認していない。
他の入り口が潰されたとするならば、悪くない手段にも聞こえる。
だが。
「いや、お前、屋上だからって開いてるとは限んないだろ」
「そうだよ、それに見つかりやすさだったら一番危ないでしょ」
駿も訝しげな目線を向けている。
「いやまあ、それはそうなんだけど」
魁人もあまり自信なさげではあったが、こう続けた。
「1階のシャッターとか、途中の入り口のドアとかは割と綺麗なんだよ。多分、どこか壊れる度に作り直してるんだと思う。でも上の方、特にあの窓とか見てもらえばわかると思うけど、あんまり整備してないんだよな。割れたままだろ、あれ」
「ほんとだ……」
「……言われてみれば」
確かに、屋上に近い部分に行くにつれ、窓の汚さが増している。ひびまで入っている窓もあった。
「単純に整備に手間がかかるからやらないだけかもしれないけど、それでも1階部分とかと比べると明らかにおかしいんだよな」
「……じゃあ、屋上はもっとボロボロかもしれないってことか?」
「えぇ、そうはならないんじゃないの?人が来ないところだったらわかるけど、屋上って……」
「まあ、確信はできないけどな。最悪多少穴開けたって問題ないだろ」
「跡を残すのはまずいんじゃなかったのか」
「勿論、できるだけ小さくだよ。そんな大きく穴開けたらそれこそ大事件だろ」
少し壁面から離れ、上の方を見渡す。非常階段が色々な場所に設置されている。
一つ、屋上に近い非常階段が見えた。
「啓、あそこ見てくれ」
「ああ、うん」
啓が双眼鏡を取り出す。倍率を合わせ、階段の近くを確認する。
「……あー、梯子みたいなのあるかも。上行けそうだね」
「よし、あそこから行こう」
魁人が声を掛けると、啓をはじめに4人がゆっくりと動き出した。
鉄製の非常階段をゆっくりと進んでいく。
大した高さではないはずなのに、夜風が強くなってきたような気がする。
誰も一言も発さない。風が煩い。
軋むような音は階段からか、足からか。
とにかく、進む。
ここで見つかれば終わりだ。
事務所はここから見えていないが、万が一出てきて見られるということもあり得る。
早く屋上へ。上へ。
しばらく進み、梯子が見えた。
梯子は少し汚く若干錆びているが、強度的には問題なさそうだ。
「よし、じゃあここを上るぞ」
魁人がそう声を掛けると、駿が先に出る。
駿が梯子に手を掛ける。そのまま、するすると上っていく。
「……大丈夫だ」
駿がそう告げ、屋上へ上っていった。
それに続き、3人も梯子を上っていく。
そのまま、屋上へ出た。
ネットフェンスで遮られている。既に駿と拓は上り始めていた。
屋上はやはり汚い。整備どころか清掃もしていないのだろう。
とりあえずフェンスを上る。多少音が出るが、ここでは聞かれることもないだろう。聞こえても然程問題にはならない。
ふと、後ろを振り返る。
大した高さではないだろうが、落ちれば死ぬ。
今手を離せば、命が飛ぶ。
それを意識した途端、手の震えが再発し始めた。
ダメだ。後ろを見るな。
とにかく、上ることだけを考えろ。
フェンスも上り屋上に侵入できた。
内部に入るためのドアがある。
「……こんなボロボロで残しとくんだな」
拓が呆れる。
窓ガラスは既に割れ、残っているガラスもひびが入っている。
「本当に整備してなかったんだ……」
「まあ、これで入れるな」
ドアに近づく。窓の割れている部分から手を入れ、ドアノブの裏を探る。
突起物を掴み、少し強めに捻る。
ガチャリと音が鳴る。手を引っ込め、ドアノブを捻る。
見た目のボロさに反し、ドアはすんなりと開いた。
「……ここからだな。気をつけろよ」
魁人がそう告げ、一歩、中に踏み入った。
次回は2018/07/26(木) 19:00に投稿します。
また3日後更新になってしまいます、すいません。




