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2 - sneak

工場は低めのネットフェンスで囲まれている。

上ろうと思えば上れないこともないが、フェンスの性質上大きな音が鳴るし、ここのフェンスはそれほど強靭なものではない。

正門ならば引き戸式の低いゲートが閉じられているだけだから、音も抑えながら容易に上ることができる。

ゲートに手をかける。ひんやりとした触感が伝わる。

「……うん、ここから見えるところには監視カメラはないね」

啓が双眼鏡を下ろす。

「この距離でそれ要るのか?」

「ちっちゃい奴だと遠くから見たときカメラだって分かりにくいからね、それの確認用だよ。流石に近いから最低倍率だけど」

「最低……ばいりつ……?」

「見える距離が一番短いんだよ」

駿が拓のために補足説明を入れつつ、ゲートに手をかけた。

「よし、じゃあ駿、最初に行ってくれ」

「ああ」

駿が慣れた身のこなしでゲートを上る。

反対側へ降り立ち、体勢を整える。

シャッターの横に出っ張りが見える。身を隠すなら彼処だ。

「……ふぅ」

小さく息を吐く。少し息を吸い直した。

次の瞬間、駿は勢いよく地を蹴っていた。

小学生とは思えないスピードで走り抜けていく。

駿は運動神経が全般的に良いという訳でもないが、走力のみが傑出している。それだけを取り上げるのならば、大学生程度の陸上選手ともやりあえる程だという噂もあるが、真偽の程は定かではない。

風を切り、薄暗い闇の中を駆け抜けていく。左右に視線を向けつつ、脅威を探る。

あっという間に壁の出っ張りにたどり着き、左右から見られないよう身を隠した。

魁斗達の方へ向けて「来い」というサインを送る。

「よし、行こう」

それを見た魁斗がゲートを上る。啓と拓もそれに続く。

念のため左右に気を付けつつ、駿の居るところまで近付いた。

「とりあえず建物の中に入りたいけど……」

「事務所と工場で別になってるからな。まずは事務所を目指すか」

「そっちの方が色々ありそうだしな」

啓が先頭に立ち、監視カメラと見回りを警戒しつつ壁伝いに進んでいく。3人もそれに続く。

気味の悪い程に静寂が広がっている。

4人の、抑えられた小さな足音だけが耳に入ってくる。

闇の中を彷徨う様に。

それでも着実に進んでいく。


工場と離れている建物が見えてきた。

数日前の昼、意義のわからない、工場見学という名前をした何かをさせられた場所だ。

あの中へ入り、情報を探す。ただそれだけ、なのだが。

「……魁人、あれどうすんだよ」

拓が不安そうに聞いてくる。

「どうすっかな……」

駿は何も言葉を発さず、ただじっと事務所を見つめている。

「ここまで来て帰る?流石にそうは言わないだろうけど」

少し茶化すが、啓も不安そうだ。

静かな工場に騙されかけていたのだ。

事務所には明かりがついていた。

誰かがいる。

見つかってはいけない。

バレてはいけない。

かと言って、このままノコノコ帰るのも屈辱だ。

「……とりあえず、バレないように中を覗いてみる。ちょっと待っててくれ」

そう言って魁人が離れる。3人は見守っていた。


足音を殺し、明かりのついている事務所に近づいていく。

なるべく人目の向かなそうな角側から、窓の中を覗き込む。

カーテンはかかっていない。明るい部屋の中が見える。

特に誰もいなさそうに見える。動いているものも見当たらない。

机が並んでいる。書類が並んでいる。

明かりは消し忘れだろうか。あまり規模の大きい工場でもないし、有り得なくはなさそうでもあるが。

「誰もいなさそうだ」と伝えて良さそうだろうか。

いや、他の角度からも覗くべきか。

そう思っていた。


物音がした。

影が動いた。

人間がいる。

見えない。

物音が近づいてくる。

身を隠さなければ。


素早く窓から離れるが、今こちらが物音を立てれば逆にバレる危険性が高い。

ダメだ。動けない。


やり過ごさなければならない。

次回は2018/07/21(土) 19:00に投稿します。

普段なら2日後に投稿するのですが筆者の都合で3日後になってしまいます、どうかご理解ください。

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