マイヤー灯台殲滅戦
【6月23日 0:30 エル・グロウ 壁外】
「第6偵察隊定時報告。マイヤー灯台方面は異常なし。オーバー。」
最も外側の壁である第1防壁。そこから10km程の距離にあるマイヤー灯台の警備に当たっていた第6偵察隊の隊長から定時報告が入る。
「了解した。先程第1偵察隊がそっちへ向かった。到着し次第、任務を引き継いでくれ。オーバー。」
「了解。通信終了。」
この通信を最後に、第6偵察隊及び灯台へ向かった第1偵察隊からの通信が途絶えた。
【同日 10:00 エル・グロウ】
20mを超える城壁に囲まれ、20万の兵を収容可能な程に巨大な要塞エル・グロウ。
壁上には対空砲や対空ミサイル、榴弾砲やロケット弾発射機と無数の兵器が並び、その城壁の内側には、巨大な城が鎮座する。まさに鉄壁という言葉がふさわしい堅牢な要塞。
そこへ、エル・グローザから到着した第212特務戦車中隊の面々は、司令部にて総司令官からの歓迎を受けていた。
「よく来てくれた。第212特務戦車中隊の諸君。歓迎しよう。私はエル・グロウの総司令官 アルバート・レイン。階級は准将だ。これからよろしく頼む。そして…久しぶりだな。レイ・ラインハルト中尉。いや、今は少佐だったかな?」
アルバート・レイン。
元の星での戦争でその部隊指揮能力を認められ、地球では皇帝からの勅令でエル・グロウの司令官を任されたアレンシア帝国軍唯一の准将。
その実力は誰しもが知る程で、アルバートの居るこの要塞の士気は帝国内のどの要塞よりも高く活気があった。
「歓迎ありがとうございます。アルバート准将。お目にかかるのは何年ぶりでしょうか……。」
レイは懐かしそうに話す。
地球へ来る前、レイはアルバートの率いていた第501機甲師団のエース戦車兵だった。その頃はまだ少尉であったが、ニュール殲滅戦の後、その数々の武勲によってアルバートと共に昇格したのである。
「もう5年になるな……本当に立派になった。レイが中隊を率いていると聞いた時は驚いたもんだ。しかし、あの『黒鉄の鬼神』がなぁ……。」
「やめてくださいアルバート准将!その二つ名で呼ばないで下さい!」
黒歴史と言っても過言ではない二つ名を呼ばれ、レイは大声で叫んだ。
「はっはっは。分かった分かった。とにかく、君達が来てくれて良かった。丁度、頼みたい事があってね。」
そう言うと、アルバートは机に置いてあった資料をレイに渡した。
「つい数時間前、マイヤー灯台の警備に当たっていた第6偵察隊及び第1偵察隊からの連絡が途絶えた。ニュールの攻撃を受けた可能性を考慮して、戦車2個小隊を組み込んだ部隊を確認へ向かわせた。すると、多数のニュールによる攻撃を受けたと連絡が入ったが、確認へ向かった部隊からの連絡も途絶えた。
そこで、君達第212特務戦車中隊には、2つの偵察隊及び確認へ向かった部隊の救出及びマイヤー灯台の奪取を頼みたい。
幸いな事にまだ生存者がいるらしく、定期的に救難信号が発信されている。早く救出してやってくれ。
それと、あの灯台はレーダー基地も兼ねている重要な施設だ。なんとしても取り返さなければならん。」
「了解しました。直ちに向かいます。」
レイと仲間達はアルバートに敬礼し、司令部を去った。
「これより俺達は、マイヤー灯台にいる生き残りの救出及びマイヤー灯台の奪取に向かう。全車出撃準備!」
第212特務戦車中隊の面々は次々と戦車に乗り込む。
重いエンジン音を響かせ、レイの乗車する隊長車を先頭に、次々と戦車が集まる。
「全車揃ったな!行くぞ!」
212特務戦車中隊はマイヤー灯台へ向かった。
【同日 11:45 マイヤー灯台より2km地点】
「こちら2号車。灯台の周囲に我が軍の物と思われる装甲車両の残骸を確認。その周囲にグラントが50体とピシュームが30体ほど居ます。
それと、灯台から北に100m程の地点に生存者を確認しました。」
「分かった。すぐ行くからそこで待機していくれ。」
「了解。」
偵察へ向かったニーアの乗車である2号車から、更に奥にいるレイ達本隊の元へ連絡が入った。
「敵の数はそう多くないみたいだし、相手はあのゴキブリと魚野郎だけだ。2号車の居る地点から全車で砲撃。各車、榴弾を3発撃ち込め。全車撃ち終わったら楔形陣形で突撃して敵を殲滅する。
突っ込んだ後は各車好きに動いて良し。」
「「「「了解!」」」」
帝国軍内で、足が速く数の多いグラントはゴキブリ。水生型のピシュームは水陸両用の魚のようなニュールであり、魚野郎と呼ばれていた。
数分後、予定地点に到着した212特務戦車中隊は、ニュールの群れに砲撃を開始した。
「全車、撃ち方始め!」
脳を揺さぶる程の爆音。
榴弾が直撃した個体は跡形もなく消し飛び、直撃せずともその爆風で、粉々になる。
ニュールは15両の戦車からの3回の斉射…合計45発の榴弾を受け、その数を半分に減らしていた。
「思ったより減ったな。よし、全車前進!残った二ュール共を蹴散らせ!」
轟音を轟かせながら戦車が前進する。
時速50kmで走る60tの車体にぶつかった二ュールは、車に轢かれたトマトのように破裂し、踏み潰され、主砲弾の直撃を食らった二ュールは粉微塵になった。
「やべっ!纏わりつかれた!」
「8号車動くな!オラァ!二ュール共!20mmの鉛弾を食らえ!」
8号車にまとわりつくグラントとピシュームに20mm機関砲から発射された弾が次々と襲いかかる。
第212特務戦車中隊の使用する戦車は全てT-11ランバルトである。ランバルトは全周を強固な装甲で覆われており、機関砲程度ではかすり傷すらつかない。その為、装甲を持たないグラントやピシュームだけが次々と体に風穴を開けて動かなくなっていった。
「助かったぜ5号車。ありがとよ。」
「次は気をつけろよ!」
危ない場面はあったものの、レイ達は数分で二ュールを掃討した。
「敵の掃討が完了した。第1、第2小隊は生存者を回収。残りの隊は周囲の警戒に当たれ。」
「「「「了解」」」」
各小隊はレイの指示を受け、行動を開始した。
生存者の回収はスムーズに進み、3分で生存者を回収。
任務を終えた第212特務戦車中隊は、1時間後、エル・グロウへと帰還した。




