第212特務戦車中隊
実はここからが本編です。
【2020年 6月20日 13:15 アレンシア帝国 5区】
「小僧!整備おわったぞ!1番から3番の転輪が完全にイカれておった。地雷でも踏んだのか?」
3つの防壁の中の2番目の壁である第2防壁内第5区のアレンシア帝国陸軍基地要塞『エル・グローザ』。第1防壁が破られた際の前線基地となる要塞内で、この道40年のベテランの整備士であるロイス・ランツは、整備の終わった戦車の車長を呼んだ。
「あ〜それね。主砲の装填が間に合わないからニュールに体当りしてその時に……。あははは…」
戦車の車長であり、中隊長でもあるレイ・ラインハルトは申し訳なさそうに笑った。
「バカモンが。二度とやるんじゃないぞ。ただでさえあの転輪重いんじゃからの……。」
神聖アレンシア帝国陸軍に現在配備されている戦車は、主力のT-11 ランバルト汎用戦車と偵察用のL-5 レイス軽戦車の2種である。
レイの乗車であるT-11ランバルトは、走攻守のバランスのいい車両であり、主砲にはニュールを一撃で撃破可能な140mm砲を搭載し、重量は60t。
その自重を支える転輪は大きく重い。
修理の際は機械を使用するが、整備の際は人力で転輪を外すため、転輪の整備が必要な車両は整備科に嫌われていた。
「ごめんごめん。次からは気おつけるよ。ありがとね!ロイス爺さん!」
レイは車両に飛び乗り、仲間の元へと車両を走らせた。
「戻ったぞ〜」
自分の隊が集まっている隊舎に戻ったレイを仲間達が迎えた。
「遅かったな。毎回俺らの車両だけ整備が遅い気がするんだが……。」
レイの相棒であるグレイスが愚痴をこぼす。
「あんな使い方してれば戦車もボロボロになりますし、整備に時間がかかるのは仕方ありません。」
中隊の中でも同じ小隊のメンバーであるミラ・レオーナは微笑みながら言った。
「よし、それじゃあ点呼終わらせて昼飯にすっか。各隊、点呼が終わり次第食堂へ行ってよし!」
「「「「了解」」」」
中隊の各小隊は指示に従って自分の小隊の点呼を始めた。
レイも小隊員を集合させ、点呼をとる。
「グレイス・アーゼンハイム中尉!」
「はっ!」
「ニーア・マイス中尉!」
「はっ!」
「ミラ・レオーナ少尉!」
「はっ!」
「ジョン・ロンダート少尉!」
「はっ!」
「ニック・エイブラハム少尉!」
「はっ!」
「よし、全員いるな。それじゃ、食堂へ走れっ!」
昼食の時間帯は食堂が混み合う。
速やかに点呼をおわらせたレイの小隊は駆け足で食堂へ向かった。
【同日 14:30】
「いや〜食った食った。」
「食堂のパスタは最高だな。」
レイ達は食事を終わらせ、隊舎への帰路についていた。
すると、要塞内の各所に設置されたスピーカーから放送のコールが響いた。
『第1機甲師団 第212特務戦車中隊 中隊長 レイ・ラインハルト少佐。ブラハム司令がお呼びです。司令部までお越しください。』
「だってよ。レイ。」
ロアがレイを小突く。
「げ。俺何かしたっけな〜。」
「車両の壊しすぎで減俸とかじゃないですか?」
ニックが笑いながら言う。
「うっわ。それありそう…とりあえず行ってくるわ。」
「お気おつけて〜。」
レイは走って司令部へと向かった。
司令部に入ると、ブラバム司令とその補佐官が待っていた。
「なんの御用でしょうか?ブラバム司令。」
レイはブラバムに問いかけた。
「まあまあ。座りたまえ。」
レイは促された通り、近くにあった椅子に腰掛けた。
「さて、君を呼び出した理由なのだが、君の中隊の配属先が変わるのだよ。」
「はあ。どこへですか?」
「第1防壁の西部に位置する要塞、『エル・グロウ』だ。」
ブラバムは答える。
「第1防壁!?しかもエル・グロウですか?最前線じゃないですか……確かあそこには第101から第110戦車中隊が配備されていたはずですが………。」
「実は、最外壁の中でも戦闘経験の多い中隊は他国へ派遣する事になっているのだ。
今日来る日本とアメリカの要人の事は知っているな?皇帝陛下は、その2カ国を守る為に、最外壁に配備されている隊の半数を派遣されるおつもりだ。」
ブラバムはことの次第をレイに説明した。
「なるほど。それで、うちの隊はその穴埋めですか。」
「そういう事だ。第2防壁内の各要塞から最も優秀な中隊を1中隊ずつ出す事になっている。お前の隊には申し訳ないのだが……」
「そういう事であれば、仕方ありませんね。」
レイは渋々了承した。
「すまないな。それでは、第212特務戦車中隊は2日後にエル・グロウへ向かってくれ。」
「はっ!」
レイは敬礼して司令部を出た。
「と、言うわけで、うちの隊はエル・グロウに行くことになったから、各隊支度してくれ。2日後に出発する。」
レイは隊舎へ戻り全員を会議室に集めて説明し、指示を出した。
毎日投稿はしんどいので、2日に1話で……
次は待ちに待った戦闘です!




