神聖アレンシア帝国
【2020年6月10日 8:30 アメリカ 国防総省】
「ん?これはなんだ?」
監視衛星から送信されてきた動画を確認している職員が何かに気づく。
「どうした?なにかあったか?」
「これを見てくれ。こんな所に島なんてあったか?」
職員の同僚がその動画を見ると、オーストラリアから数百km離れた位置に日本の3倍ほどの大きさの島があった。
「なんだこれ?こんな島見たことないぞ。都市のような物もあるな……とりあえず、急いで長官に報告しろ!」
【同日15:00 ホワイトハウス】
「監視衛星から送られてきた画像の座標へ付近にいたオーストラリア海軍の艦艇を向かわせた所、確かに島が存在する事が判明しました。」
大統領補佐官のロナルド・バーンズが報告する。
「また、その島の付近に軍艦と思われる艦艇数十隻と、数機の航空機も確認したとの事です。」
バーンズは続けて報告した。
「ふむ、突然現れた島に複数の軍艦か……ここ最近頻繁に起きている異常気象や海難事故といい、一体何が起きている……」
大統領のブルーム・レオナルドは非常に困惑した。
「オーストラリア政府から、その島と軍艦を撮影した際の画像が送られてきています。その画像を先日起きた駆逐艦消滅事件の生き残りの海兵に見せた所、1隻の戦艦らしき艦艇に見覚えがあると言っていました。」
「ほう?では、我が国の兵を救ったのはあの軍の艦艇だという事か……とすると、敵では無さそうだな……一体何者なんだ?」
レオナルドは敵でないという事に安心しつつ、今後どう動くかを考えた。
「衛星写真を見たところ、都市や村、農場のようなものが大きな3重の壁に囲まれているようです。
恐らく、あの島には国のようなものが存在すると思われます。」
バーンズは自身の考察を口にする。
「国があるとなれば、アポを取ってみるか。その生き残りの海兵の話によれば、英語は通じるようだしな。」
「では、誰を向かわせますか?」
「私自身が行こう。この目でその国を見てみたい。」
レオナルドがそういった瞬間、バーンズの秘書が慌ただしく部屋へ入って来た。
「し、失礼します大統領閣下!」
「おい!今は大事な会議中だぞ。」
バーンズは秘書を叱りつける。
「申し訳ございません!しかし、どうしてもお伝えしなければならない事が!とりあえずテレビをご覧下さい!どの放送局でも構いません!」
秘書はそう言うと、部屋のテレビの電源を入れた。
画面には中世ヨーロッパ時代の王を思わせる豪奢な服を着て群青色のマントを羽織り、多数の宝石をはめ込んだ王冠を被った白人の男が映し出されており、その男が話していた。
「我は、神聖アレンシア帝国皇帝のドラシエル・エルバート・ハイマンである。我が国、神聖アレンシア帝国は50年前、この地球とよく似た遥か遠くに存在する惑星、ネルクランズより地球へ来た。ネルクランズは、ニュールと呼ばれる未知の生命体の侵略を受けていた。二ュールとの戦争は20年に及び、多数の死者を出し、都市を失いながらも何とか撃退に成功した。二ュールの殲滅戦の中で、我々は二ュール側の侵攻データを知る事が出来た。そのデータには、ニュールの別部隊がこの地球へ向かった事が記されていた。
我々は、これに対してどう対処するか議論した。
議論の結果、最も強大な軍事力を保有し、被害の少なかった我が国が地球の救援へ向かう事となり、今に至る。
ここ最近起きている異常気象や原因不明の天災、海難事故は二ュールによるものだ。
もう二ュールによる侵攻は始まっている。
この50年間、我々はここへ来る二ュールに対抗する準備を進めつつ、この星のことを学んだ。
そして、日本という国が我々と同じ言語を使い、優れた技術力を有する事と、アメリカという国がこの星で最も強大な軍を持つことを知った。
日本とアメリカの王よ。もし我のメッセージを見たのであれば、我が国へ来て欲しい。
そして、共に二ュールと戦おうではないか。
これから始まる戦いは、世界を救う戦いになるだろう。
良い返事を期待している。」
放送は終了し、元の番組に戻った。
「神聖アレンシア帝国……に宇宙人の侵略か。一体なんの冗談かね。」
レオナルドは苦笑する。
「しかし、これが事実であれば、早急にアレンシア帝国へ向かう必要があると私は考えます。」
「その通りだバーンズ。2日後、アレンシア帝国へ向かう。予定は全てキャンセルしろ。君にも付いてきてもらうぞ。」
レオナルドはバーンズに指示した。
「分かりました。陸海空軍全ての最高司令官も同行させますか?」
バーンズは聞いた。
「その方がいいだろうな。この世界の存続がかかった戦争が始まるんだ。
日本の総理大臣にも、防衛庁長官と自衛隊の幹部を連れてくるよう連絡をしておけ。」
「了解しました。直ちに連絡致します。」
2日後、レオナルドはバーンズと各軍の最高司令官を連れ、アレンシア帝国へ向けて飛び立った。




