幕開け
プロローグ
【2020年5月 都内某所】
「お前、今朝のニュース見たか?」
「見たぜ。また海難事故だってな。」
高校生2人が話す。
「今月で4度目だぜ?まだ2週間も経ってないのによ。」
そう、日本では5月に入ってから4度の海難事故が起きている。それも決まって太平洋側、15km程沖の地点を越した場所でのみである。
「今回は船の後ろ半分だけ浮いてたんだってな。異常気象が起きた訳でもないし、付近を通った船は無いから衝突事故でもないんだと。」
「しかもその船、50m超えの大型漁船だろ?どうやったら真っ二つになるんだよ……」
【アメリカ海軍駆逐艦 マハンの生き残りの証言】
「さて、哨戒任務に出ていた君の乗艦マハンと、一緒に任務に当たっていたジョン・ポール・ジョーンズに何があったか聞かせてくれるかい?」
黒いスーツを着た男が生き残りの男に問う。
「あれは昼の見張り番を交代した時の事だ。俺はブリッジの外に出て、肉眼での警戒に当たっていた。
いつも通りの哨戒任務のはずだったんだ……あんなことが起こるまでは……」
生き残りの兵士は震えていた。
「何が起きたのか説明してくれるか?」
黒スーツの男は録音を始める。
「ああ。見張りを始めて30分ぐらい経った時だ。いきなり水面が黒くなって………ジョン・ポール・ジョーンズが沈んだ。」
「いきなり沈んだのか?潜水艦からの雷撃か?」
「いや違うね。何かにデカい生き物に食われたんだ。
クジラみたいなデカさだったが、見た事も無い生き物だったよ。レーダーにもソナーにも反応は無かったんだ。そいつはいきなり出てきやがった。」
兵士は嘘をついているようにも見えなければ、気が狂っているようにも見えなかった。
「レーダーにもソナーにも映らない?故障でもしてたんじゃないか?」
黒スーツの男は言う。
「いや、レーダーは正常に作動していたし、付近を通ったクジラの音も聴こえたから、ソナーも壊れてはいなかったさ。だが、そいつが現れた瞬間、無線もレーダーもソナーも。あらゆる電子機器が壊れた。
その後すぐ、艦のエンジンも停止して停船した俺の乗っていた艦は凄まじい振動を受けて横転した後、デカい口の中に飲み込まれた。
俺は船外にいたから、横転した時に瞬間に海に投げ飛ばされた。気がついたら、ベッドの上だったよ。」
飲み込まれたと思ったらベッドの上。黒スーツの男は混乱した。
「海に投げ飛ばされて気を失って、気がついたらベッドで寝ていたのか。目が覚めた時に居たのはお前を送ってきた我が国の駆逐艦か?」
「いや違うね。俺は目を覚ました時、隣に座っていた女医にここはどこかと聞いたんだ。そしたら、その女医はこう言ったよ。『ここは神聖アレンシア帝国海軍 弩級戦艦 レイグラースの医務室です。』ってな。」
黒スーツの男はさらに混乱したが、兵士も当初は混乱していたらしい。気がつけば、知らない国の知らない艦の中だったのだから。
「艦内を見せてもらったが、尋常じゃないデカさだった。ハワイにあるミズーリよりデカかったよ。」
兵士は興奮しながらその艦の事を話した。
とてつもなく大きな艦体に多数の砲と機関砲、ミサイル発射機の数々。その名の通り、戦艦だったと。
艦内に居た兵士には英語が通じたが、彼らは日本語を使っていたとも話した。
「日本語?そいつらは日本人じゃないのか?」
日本語を使うのは日本人しかいない。黒スーツの男はそう思った。
「いや、見た目はどう見ても白人だったよ。男はアメリカ人風な見た目だったが、女はロシア人みたいだった。」
「わけがわからないな。アレンシア帝国とかいう知らない国に、日本語を話す白人か……その後はどうなったんだ?」
黒スーツの最後の質問をした。
「3日ぐらいしてから、無線機を積んだボートに乗せられて、近くを通ったアメリカ海軍の駆逐艦に拾ってもらったんだ。そして今ここにいる。」
この2件の大事故、大事件は、後に世界を恐怖に陥れる事の前触れであった。