〈一〉
「ノエル様、またあの人間を見ていらっしゃるのですか? 第二皇女であるシンシア様がいらしてますよ。」
「すぐ通せ。あと、ノックしろ。」
「いたしました。ノエル様がお気づきになられないだけです。」
40年に一度開催される魔皇帝杯にて東西南北、北西、南西、南東、北東を治める魔王に彼らと中央治める魔皇帝を決める儀式(武闘の祭典)が行われる。 ここはその中央都市の魔皇城の一室である。
今魔皇城には東部の魔王を除く七魔王全てが招集されている。その理由は人間との戦争である。
現在魔族の領域東部に人間が攻め入っており、これを撃退するための会議に出席させられているのだ。 が、今はティータイムのためにしばし休憩をしている。 初代魔皇帝時代からの習慣である。
魔闘杯では中央と地方の九会場で行われ、その中でも地方大会優勝者と中央大会優勝者、トップナインによる総当たり戦の勝率により魔皇帝の座と序列順位を争うことになっている。
全国九会場それぞれでの序列20位までを議会の構成員、序列五位までに1万の部隊を与えている。
序列二位から九位まではクジにより何処を治めるのかが決まる。
「ご機嫌いかがですか?お姉様♪」
「ごきげんよう、シンシア。紅茶は私のオリジナルブレンドでいいか?」
「はい!お姉様のお紅茶は世界一です。」
魔族社会は力が全てだ。誇りと強者には最大の敬意を払う。しかし、言葉使いは誰に対しても自由である。
「シンシア様、本日はこちらのスコーンをどうぞ。」
「ありがとう、アリシア。さすがはお姉様のメイドね、私にも欲しいなぁ。」
魔王や魔皇帝になるには平民も貴族も関係無い。
要は力を示せばよいだけのこと。違いがあるとすれば財力である。
「シンシア、あなた魔王になったのだから使用人の一人や二人くらい雇えるだろ。」
「アリシアだからですよ、お姉様♪ それにお茶を入れさせる為だけに雇うのもどうかと思いますし」
シンシアは西部の平民の出で基本、家事は一人でも出来るのだ。 そのスキルは魔皇城でさえも3時間の間に掃除、洗濯等(炊事以外)を全てこなし、完璧に仕上げてみせるのである。皇城の者は皆ど肝を抜かれた。
ちなみに居城は奇跡的に西部、地元だ。
「お姉様、またイブとか言う子の盗撮ですか?たまには私とお出かけしません?」
「アリシア、教えたのはあなたね。言っておくけどこれは盗撮ではない。あと、出かけるのならいつだ?」
「二日後はいかがです?」
「シンシア様、その日は魔王会議です。」
「アリシア、私とシンシアの代わりに出ろ。私達は出かけるが、意見は書き留めておく。それで良いな?」
「かしこまりました。ですがたまには出席なさって男性恐怖症を克服してください。」
「やった!お姉様にアリシア大好き!」
現在の魔皇帝はアルべールという男なのでノエルは一度も挨拶をしていない。決勝で他に三人男性の魔族がいたので計四回不参加だった。東部大会で男と当たらなかったのは奇跡である。
「それはそうとお姉様。その人間は見ていて面白いですか?お姉様の気を引くほどの子ですか?」
「....秘密よ。」
(そう秘密。イブと私の体の一部を交換したことは本人も知らないこと。フフッ、そのおかげで水と魔族の血しか口に出来ないけれどね。それに嫌でも私の存在を知らせられる。あなたの心は私一色よ、イブ。私に対する憎悪、忘れないでね。)
嗚呼、あの子の心臓が私の中で脈打っている。
あの子をそばで感じる。私はそれだけで幸せだ。
ーーフフッ、いつ殺してくれるのかしらね。
二日後の会議中、東部は人間によって占拠されたとの知らせが入った。制圧するために向った第三皇子及び東部四魔将率いる軍隊は捕虜も取られずに全滅した。
人物紹介
ノエル・アスカロン
髪はストレートで黒色、目は左が赤で右が黄色
背は169㎝ほど、出ているところは出て締まるところは締まっている理想の体型
男性恐怖症(理由は不明)で顔を合わせられるのは産まれた時からの中である執事のウィルムだけ
本来の実力は現魔皇帝を上回るが男性恐怖症のために第四皇女どまりになってしまった
東部出身 南西部を治めている
アリシア
ノエルに使えるメイド
髪は三つ編み(腰まである)、黒色、目は緑色
背はノエルと同じくらい、スリーサイズは不明(聴いたら殺される)
ノエルとは身分は違えど幼馴染で一番信頼されている ノエルと同じ会場で試合をし、序列は21位
親は南部出身だが、産まれも育ちも東部である
シンシア
平民出の魔王
髪はツインテで茶色、目は黄色
背は149㎝ほど、幼女体型(本人は気にいっている)
魔皇戦で序列二位の実力を誇るが、ノエルには負けている
平民の出なのでアリシアと同様に姓は無い
諸説明
魔族は魔法を扱うことが出来、色彩が赤なら火属性、青なら水属性、緑なら風属性、黄色なら雷属性を扱える
使える属性は目の色によって決まるため、最大で二属性までしか使え無いが色彩が二色あるのは極めて稀である(なぜかは不明)
そのぶん魔力量はケタ違いで恐れられている
初代魔皇帝は緑と黄色で、現魔皇帝は青と赤である