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Make a Splash!!  作者: 橘 結城
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小さな水しぶき1

高校入学より1ヶ月が過ぎ、高校生活にも慣れ始めたころの放課後。

 夕日で肩にかかる黒髪がほんのり赤色を帯び輝き出したころ、春宮(ハルミヤ) (リン)は下校のため廊下  を歩いていた。

 

 「あぁ~ゴールデンウィークも終わってなんかな~~~」

 

 入学式が終わり、無事に友人もできての安心感、連休明けの倦怠感から肩を落としそう呟いた。

 G.Wは友人と三人で買い物やカラオケ、家でゴロゴロとなかなか充実した過ごし方をしていたのだ。

 

 とぼとぼと歩いていると足元に鈍く光る小さなものが目に入った。

 

 「ん?なんだろこれ・・・・・・針?」

 親指ほどの湾曲した針だった。

 「危ないな~誰か怪我でもしたらどうするつもりだろ?!でもなんでこんな変わった針が落ちてるんだ

 ろ?」

 指につまんだまま考えていると

 

 「時雨~~あった~?」

 前から膝を突いて、短めに整えられた髪を下げ、床を舐めるように見ている女子生徒がいた。

 その後方には同じく膝を突き、呆れた顔を横に振る男子生徒の姿もあった。

 

 「たぶんここらだとは思うのよ!教室から部室までまっすぐきたんだから」

 どうやらそこそこの距離を二人で同じ体勢のまま探していたみたいだった。

 

 「あのー何探しているんですか?」

 歩み寄り凛が尋ねた。女子生徒は顔を上げ、落胆の表情を浮かべながら、

 「・・・フック・・・釣り針ね。だいたい私の親指ぐらいの大きさの・・・」

 

 「もしかして、これですか?さっき拾ったんです。危ないのでちゃんと捨てようかな?と思って」

 

 「----それ!!それ、探していたの!!」

 凛の指からそれを受け取ると、女子生徒は安堵した表情を見せた。

 後ろの男子生徒もやれやれといった表情だ。

 

 「気をつけてください。私もたまたま下を向いた先にあったから気づいたんですけど、踏んだらま   すよ」

 

 「すみません・・・反省してます・・・」

 女子生徒は頭を下げて、反省の色を示た。

 そして頭を上げ、笑顔になり、

 

 「お礼もするから部室まで来てくれない?大事なものだったの!」

 

 「そうなんですか?でもそんなお礼なんていいですよ」

 

 「まあまあ~遠慮なんてしないでーー。そこまで遠いわけじゃないんだからーー」

 

 凛の腕を引き、女子生徒は歩き出した。

 

 仕方がない・・ついて行くしかない・・・

 凛はそう思いながら歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 「ところでーーあなた1年生みたいだけど、名前はなんて言うの?ちなみに私は夏目(ナツメ)カンナ。2年よ。」

 

 「はい。私は1年で春宮 凛ていいます。夏目先輩、よろしくお願いします!」

 

 「凛ちゃんね。よろしく!私もカンナでいいよ。そういえば帰ってたみたいだけど部活は?」

 

 「私、部活入ってないんですよ。友達はそれぞれ好きな部活に入ったりして・・・誘われたんですけど、

 運動部とかはちょっと・・・って思っちゃったりしたんです。」

 

 「まぁねー 練習きつかったりするもんね。気持ちわかるな~」

 

 新校舎から旧校舎への通路を過ぎ、二人は横に並び、雑談をしながら歩いていく。そこから距離を少しあけて先ほどの男子生徒がついてきていた。

 

 「あー、後ろのは同じクラスの(ナガメ) 時雨(シグレ)って言うの。変わった名字でしょ?お父さんが石川県出身らしいの」

 「時雨ーあんたも挨拶ぐらいしたら?」

 

 その呼びかけに、時雨は小さく頭を下げた。

 

 「春宮です。詠先輩よろしくお願いします」

 自己紹介をして、凛も頭を下げた。

 

 先に歩いていたカンナがある教室の前で待っている。室名札には<作業準備室>と書かれていた。

 旧校舎で今でも使われているとはいえ、授業を受けている校舎に比べる古臭く趣がある。

 

 「どうぞ。ここが部室よ。」

 カンナは扉をガラガラと動かし、凛を中へと促した。

 

 凛が足を踏み入れると、オイルの匂いが最初に鼻についた。

 二つ並べられた机の上にはドライバーと小さな缶が二つ、拳ほどの丸いものが置かれていた。

 

 中に入ると授業で使われているのだろう機材が棚に収まっていた。

 少し遅れて時雨が入ってきて、扉を閉めていた。

 

 カンナは奥まで行くと、夕日で赤い光が入る窓を背にこちらを向いて、

 

 「ようこそ!!疑似餌同好会に!!」

 

 「どうもありがとうございます・・・ぎじえ同好会?ぎじえってなんですか?」

 凛はカンナの言った言葉を理解出来ていない。普通の女子高生である凛に疑似餌という言葉聞いた事のない単語であった。

 

 かんなは待っていましたと言わんばかりに鼻を高くして、

 「疑似餌って言うのはルアーのこと!釣りにとかに使う偽物の餌の事!」

 なぜか誇らしげに言った。

 時雨はそれを見て、またやれやれといった表情で机のそばの椅子に座った。

 

 「あーーーーなんとなくわかりましたけど・・・。何で疑似餌なんですか?釣り同好会とかフィッシングクラブとかの方が分かりやすいような・・・?」

 時雨に促されて椅子に座り、わかったような、わからないような気持ちで興味もなく尋ねていた。

 

 「それはねー最近の部活メインのアニメとか漢字のとか多いじゃない!?ほらバレーのとかバンドのとか!!」

 

 (ミーハーなんだなぁ)

 凛は心の中で思い、口には出さなかった。

 

 カンナは満足して椅子を出してきて、凛のそばに座った。

 

 「ところでー凛ちゃん。名前は聞いたんだけど漢字ってどう書くの?教えて!!」

 メモ書きサイズに折られた紙を出した

 

 凛はペンを持ち、

 「季節の春に宮殿の宮で凛は示すの方で」

 その紙に名前を書き、クラスも尋ねられたので横の枠線に書いた。

 

 「そっちの凛ね。ありがとう!かわいい名前ね」

 カンナの率直な感想に、凛は少し照れていた。

 

 「では改めて入部ありがとう!ようこそ、疑似餌同好会に!」

 

 凛はまた理解できていなかった。

 

 

 

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