4 シャロと忍者と
短いです。
ロリンは猫耳少女シャロの素直なお褒めの言葉から、二つ大きな方針を立てた。
一つは、ロリンとして理想の少女を演じきること。
ソードマジックファンタジーのゲーム中ではどうしても意識されてしまった中の人という概念がここにはない。
この世界でロリンを見た人は、純粋にロリンの行動からのみロリンという少女を判断する。
ロリンは、ゲームでは成し得なかった理想の少女の中身と周りからの評価を含めた完成を目指すことにした。
別に心の中まで少女になって男を好きになったりする気はまったくロリンにはないが。
それと中身を含めた完成といったが、ロリンはいわゆるロリババアはロリババアでありだと思っている。ただ理想の少女がロリババアではないだけだ。
それはさておき。
もう一つは、大星たちを探すことである。
これは純粋に友達だからである。
大星がいることだから豚人間や緑の小人程度にみすみす殺されることはないと思うが、心配は心配だ。
生身だから戦闘はできないといっていたが、大星はもともとハイスペックだ。高身長のイケメンだし何とかなるだろう。貴と浩太もロンゲとぽっちゃりだし何とかなる。
ロリンはなかなか極まって楽観的であった。
何とかなるだろうが無事無事じゃない関係なく友達には会いたいものだ。
そもそも無事でなければ会えないことをロリンは理解しているのだろうか。
そんなハッピーな頭の中をしたロリンは今、シャロの住んでいるというところに二人で向かっていた。
森で迷子になった、といったら
「わたしの家に、来る…?」
と嬉はずかしといった顔で言われたので食い気味で是非にと答えたのだ。
因みにロリンが怖がられるのではないかと心配していた豚人間五体をさくっと仏様にした件については
「ロリンお姉ちゃんは、強いんだね」
という一言で流された。
小さな子供の認識がこれである。ロリンはこの世界は獲るか獲られるかが当たり前の割ときつい世界かもしれないと、少し震えた。
ロリンはなんともいえない感じになった空気を変えるため、薬草や山菜、きのこなどが詰まっているという籠を交代で背負いながら、今から向かう家について聞いてみることにした。
「シャロのお家はどこにあるの?町?村?」
聞かれたシャロは人差し指をこめかみに当てて少し考えた後答えた。
「隠れ里?だったと思うな…」
足が止まるロリン。
瞬間衝撃的な出会いを果たした猫忍者の姿が頭に浮かんだ。
「もしかして、忍者にゆかりのある方ですか?」
敬語風になってしまったのも致し方ないだろう。何せ忍者に関わる事なのだから。全ての日本人は忍者に敬意を持っている、とロリンは思っているのだから。
「にんじゃ?それなあに?」
答えたシャロの表情は何かを隠していたりする人間のそれではなく、本当に何も知らないといった顔であった。
だが忍者に関わることである。子供には里の真実を隠している可能性もある、とロリンは邪推した。
だがもしそうだとすると、猫忍者の姿が問題になる。
猫忍者はどう見ても二足歩行の獣、といった風貌で猫耳犬しっぽのシャロとは似ても似つかない。
もしかしたらシャロの種族では子供は耳としっぽのみで、大人に近づくにつれだんだん完全に獣化していくのかもしれない。と考えてロリンは無性に悲しくなった。
なんだか悲しげな表情になったロリンの事をどう勘違いしたのか、シャロはあわてて里について説明しだした。
「たしかわたしみたいなさんとうしんみん?が暮らしてるの。お父さんはにとうしんみん?だったらしいんだけど…それでそれでえーっとリチャードさんは床屋さんで――」
割とすぐに個人的な情報のみになった説明を、ロリンはシャロの成長と忍者の掟に気をとられてほとんど流していた。
ただ、父について話したときの寂しげな表情は、頭にこびりついたように残った。
「ねえロリンお姉ちゃん聞いてる…?」
「ふぇ?ああごめんね、ちょっと考え事してて…」
「やっぱり、わたしといても楽しく…」
「違う違うそうじゃないよわたしが悪かったから泣かないで、ね?」
瞳をうるうるさせてしまったシャロをロリンが手をとってなだめる。
「じゃあ何を考えてたの…?」
「ぅ…」
まさか頭の上から獣になっていくのか首のほうからなのか、はたまた斑に、などと考えていたとは言えず、言葉に詰まってしまうロリン。
「やっぱり…ぅわぁぁぁん!!!!」
そんなロリンの様子に、ついにシャロが泣き出してしまった。
「あああ!ごめんねごめんね!シャロのこと大好きだから――ッ!」
あわあわとうろたえるロリンだったが、空気を読まずにスキルで強化された超人の聴覚が敵襲を伝えてきた。
「っくしょうなんてタイミングだよ!」
数七、人型、敵意あり。
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