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3 ロリンと麟太と猫耳と少女

 なんてかわいい子なんだろう。

 それがロリンを見た少女の第一印象であった。

 豚人間の死体が転がり、鉄臭い匂いが溢れていることも、先ほどまで命の危機を感じていたことも忘れて少女はそう思った。

 自分の癖のある髪とは違う、さらさらと流れるような金色の髪。

 透き通るような白い肌は、自分の褐色の肌とは対極に位置するようだ。

 大きくて丸い瞳は左右で色が違い、他の人なら不気味に思われることもあるのだろうが、彼女が持っていればなんだかひきつけられるような魅力になる。

 小さいころ見た絵本にも出てこないようなかわいい女の子。

 自分たちの種族の考える美しさとは別の美しさ。

 実際の心の中の言葉は、もっと年相応の幼い表現でつむがれていたが、大体そのような感想を抱いた。

「かわいい…」

 少女がそんなロリンに見とれてしまったのは、仕方ないことかもしれない。

 何せ麟太が一ヶ月単位で寝る間も惜しんで方々を頼り全ての力を使い作り上げた最高傑作、僕の考えた最強の幼女なのだから。

 少女が歩んできた短い人生も考えればなおさら。



 ロリンの少女を見た第一印象は、猫耳だぁあああああああ!!!!であった。

 そう、猫耳であった。

 少女には猫耳がついていた。

 顔は人間の少女のそれであったが、雪のように白い、ゆるやかにウェーブのかかった頭髪から、これまた白い猫耳が覗いていた。また、人間の耳もしっかりついていた。

 そして口が裂けても仕立てが良いとはいえない、草の汁か何かでできた消えない汚れがついた質素な服のズボンに開いた穴から、真っ白いふわふわの犬の尻尾が揺れていた。

 あざとかった。

 見事心を打ち抜かれたロリンは猫耳祭りが催されている脳内を一切表情に出さず、穏やかに微笑み続けていたが、大分時間がたってもボーっとこちらを見るだけで挨拶を返してくれない少女に次第に不安になってきた。

 よくよく考えれば突然現れて首がゴロンである。現代社会で首を落としながら現れた人が凶器を手に持ったまま穏やかな微笑を浮かべて挨拶してきたとしたら、少女の次に取るべき正しい行動は防犯ブザーを鳴らして助けを呼びながら近くのガソリンスタンドなどに逃げ込む事であろう。

 ロリンは自分が大分やばいことをしていることに気づき、せめて両手の得物をしまおうとした。

 ちょうどそのとき少女が口を開き、ロリンはびくりとダガーを震わせた。

 やっちまったこれじゃあまるで得物を振るおうとしたみたいじゃないか、と思ったロリンはあわててダガーを持ったまま両腕を前に出して弁明した。見事得物を突きつける形になった。

「いや別に怪しいものじゃないんですただの」

「かわいい…」

「そうただのかわいい…へ?」

 ロリンは困惑した。少女に出会ってからの自分の行動でかわいいなどと言われることをした覚えがないからだ。

 というかそもそも言葉が通じているのかわからない。もしかしたらかわいいというのはこの世界の言葉で命だけは助けてくださいとかいう類の意味なのかもしれない。そんなことを考えて顔を青くした。

 そんなロリンを放置して、少女はまた少しボーっとした後、自分が心のうちを声に出してしまったことに気づいたようで、顔を赤くして手を振りながらあわてて弁明した。

「いやっ違うの!いやちがくないけど、お姉ちゃんがお姫様みたいにかわいかったから…その…」

 だんだんと勢いをなくした少女の言葉に、今度はロリンが停止した。

「お姉ちゃん…かわいい…」

 脳に大ダメージを受けていた。

 頭の中でもらった言葉を何度も咀嚼する。

 少女の混じりけのない賞賛に、数瞬前の言葉がどうこうの疑問は吹き飛んでいた。

 思えば、ロリンはこんなに純粋にこのロリンを褒められたことはなかった。

 初めてロリンの顔見せをしたときの大方の反応は、怖いだった。

 何が怖いといえば麟太のその執念が怖かった。

 まともに褒めてくれたのは大星たち幼馴染や、同好の士たる四年生くらいであった。

 それも、中身が男であるという前提のもと、優れた作品に贈る類の賞賛であった。

 こんな風に、麟太というフィルターをはさまず、一個人としてのロリンを好意的に見てくれる人はいなかった。

 ロリンは、顔をうつむかせて肩を震わせた。

 それに対して少女は、何かまずいことをいってしまったのかと思いおろおろした。

 何か声をかけなければ、と近づいた少女に、何かがロリンから聞こえた。

「うぇひひ…」

「うぇひひ…?」

 首をかしげる少女。

 と、ロリンは突然ぱっと顔を上げ、少女の手をつかんで至近距離から顔を見た。

 その表情は、純度一〇〇%の笑顔。

「ありがとう!あなたもかわいいよ!」

「えっ…!あ、そのぉ」

 困惑から一転、照れる少女にロリンがまくし立てる。

わたし(・・・)はロリン、ロリン・コロリン。ロリンって呼んで!」

 最高の笑顔を至近距離で見せながら飛び跳ねつつ言ったロリンの言葉に、まだ自己紹介もしていないことに少女は気づいた。

「あっ、わたしは、シャロっていいます」

「シャロ…シャロ…シャロ!いい名前だね!」

 何度か口の中でつぶやき、うなずいてから花のような笑顔を浮かべて言う。

 さらに照れて顔を赤くするシャロだが、手をつかまれているので逃げることもできない。

「シャロ」

 そんなシャロにロリンは名前だけをささやいた後、何かを期待するような目で見つめた。

 何を期待してるのかわかってしまったシャロは、もう蒸気が出るんじゃないかというくらい真っ赤に染めた顔をさらに熱くしながら期待にこたえた。

「ろ、ロリン、お姉ちゃん」

「シャロ!」

「ロリンお姉ちゃん」

「シャロ!」

「ロリンお姉ちゃん!」

 何が楽しいのかぴょんぴょんしながら何度も名前を呼ぶロリンに、慣れたのかやけになったのかいつしかシャロも顔を赤くしたまま笑って一緒に飛び跳ねた。


 ここが一種のターニングポイントであった。




一日一話ペースで投稿していくと思いますが、今日はもう一話投稿したいと思っています。

誤字、言葉の誤用、感想などを伝えていただけるととてもうれしいです。

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