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2 把握と出会い

 しばらく考え込んだ後、考え込んでもどうしようもないと開き直ったロリンは、森を歩く(走る)ということで、下は短パンにニーソックスというそこ以外も所々改変されたボーイスカウト風衣装に着替え、また適当に走り出した。

 たまに見かける豚人間や小人を挨拶後殺害サーチアンドデストロイしながら日が高くなるまで――森に来たときには既に午後四時を過ぎていたはずだが稀に木々の間からのぞく太陽は時間がたつにつれ登っていった――適当に走り続けたロリンだったが、遂に現実を直視する時が来た。

「これは、絶対おかしいよな…」

 尿意を催したのだ。

 ソードマジックファンタジー並びその他のVRゲームの類は、プレイしている間は生身の体から感覚が来ないようになっている。しかしそれでは色々と問題があるため様々な対策が取られていた。誰かに触られたりした場合は強制的にログアウトさせられるなどだ。

 そして尿意などを催したときは視界に警告文が出るようになっていた。この警告を無視してプレイし続けると何も感じぬまま生身の体は失禁することとなる。おむつを履いたりボトルにアレをさしたりして警告を無視して続ける業深き者どももいるが今は関係ない。

 今問題なのは尿意を催したということ一点に限る。

 ソードマジックファンタジーの仮想世界の中ならばそれは絶対に訪れないはずなのだから。

 大星たちの言葉やあまりにも実体と変わらな過ぎる姿であったり、見たこともない生物であったり、成人向けになっちゃうんじゃないのというようなリアルな切断面であったり、現実の森ではいるのが当たり前だが仮想現実ではみなかったモンスターとも呼べぬような毛虫やら蜘蛛やらであったり、様々な無意識に無視し続けてきたこれゲームじゃなくね?という結論を導き出す証拠をロリンは遂に認めた。

 そして徐に短パンに手をかけ

「これは確認だから仕方ない」

 と誰かに弁明した後最終確認を行った。

「うん、ないしある。これは、やっぱあかんやつだ」

 全年齢対象のソードマジックファンタジーでは絶対に見れないものを確認し、顔を真っ赤にして短パンと三角形の布を素早く引き上げた。

 頭を振って男子高校生の欲望を振り切ってから、ロリンは現状を真面目に考察してみることにした。

「これはあれか?プレイしていたゲームのキャラクターで異世界に転移しちゃったというネット小説とかでよくあるやつか?別にプレイ中に居眠りもしてないしサービスも終了してないしトラックやダンプカーに轢かれてもないんだけど。というか大星たちはどう見ても生身だったよな。でも俺はスキルも使えるしメニューも開けるし登録した装備に早着替えもできたし…」

 しばらく頭をひねってうんうん言っていたロリンは突然パン、と手を打って結論を出した。

「とりあえずトイレだ」

 とりあえずトイレをすることになった。


 茂みに隠れ、探知系のスキルを総動員して周りに知的生命体がいないことを確認した後、隠密系のスキルを全力で使用し短パンを再び下げて解放した。そして無音と無臭のスキルは出したものにも効果があるという使えるんだか使えないんだかわからない知識を手に入れた。

 もう少しで出し切れそう、という時に全力で使用中だった探知系スキルがかなりの速さでこちらに近づいてくる二足歩行の生物を捉えた。

 ロリン級の速さではないが、短距離走の世界記録よりはずっと速い。

 そんなやばそうな者の接近を知ったロリンだができることはあまりない。こっちにくんなと祈りながら早く終わるようおなかに力を入れるくらいである。

 しかしロリンの祈りも空しく、それはどんどん近づいてくる。接近の仕方からして自分に向かって来ているわけではないことはわかるが、だからなんだという話である。故意過失問わず排泄を見られたくなどない。

 無限にも思える一瞬が過ぎ、その時がやってきた。

 それは黒かった。

 忍者のよう、と言えば分りやすい漆黒の衣を身にまとい、二足歩行をしている、黒い猫かライオン。

 それがその生物を見たロリンの感想であった。

 顔や僅かに服から覗く手足やしっぽはネコ科の動物のそれでありながら、二足歩行をしている。

 ソードマジックファンタジーのワーウルフやワーキャットに見えなくもないが、それに比べるとはるかにネコ科らしさが強い。ワーウルフワーキャットはもっとかわいらしいのだ。

 そんな生物がようやく出し切ったロリンの目の前で立ち止まり、懐から出した巻物のようなものを見ていた。

 隠密系スキルたちがきちんと仕事をしているようで、固まってしまった茂みの向こうのロリンに気づく様子はない。

 熱心に巻物を見つめるその瞳には、豚人間と違い確かな知性の色が見える。

 忍者装束然としたその衣装を詳しく見れば、その生物の種族が織物の技術を持っているだけでなく機能性まで考えられる文化を持っていることがわかる。

 数秒間その巻物を眺めた後、その生物はすぐに走り去っていったが、ロリンが再起動をするには少し時間を要した。


 再起動したロリンは、ゲーム中ではなんに使えばいいのかいまいちわからなかった初期アイテムの無限ティッシュに感謝した。

 そして先ほどの猫人間を追いかけてみることにした。

 畜生の類とは違い明らかに話が通じそうであったし、なにより挨拶を返してくれそうだった。

 放出の最中でなければ確実に声をかけていた。誰も悪くない。ただ間が悪かったのだ。

 すさまじい速さで走っていたにしては目立たない足跡や僅かなにおいを頼りに探知スキルで追いかける。

 無音無臭無痕跡を極めでもしない限りロリン(大魔王)からは逃げられないのだ。

 しかし極めているロリンのもと来た道はロリンにもわからないのだ。ままならぬものである。

 最高速はロリンのほうが速い。だが僅かな痕跡をたどりながらではなかなか追いつけるものではない。

 そろそろ空の色が変わるんじゃないかというくらいの時間追いかけたとき、ロリンのスキルによって強化された耳がある音を聞き取った。

 それは

「きゃあーーーー!!!」

 少女の悲鳴だった。

 数時間に及ぶ追跡の続行をさっぱりとあきらめたロリンは最高速で悲鳴のもとに駆け付けた。


 豚五匹が涙目の少女を囲んでいた。

 五、六歳に見える少女は、何かがつまった大きな背負い籠を守るように豚人間たちから隠そうとしている。

 対する五体の豚人間たちはどうみても籠の中身も少女もおいしくいただこうとしている。

 この世界がソードマジックファンタジーの世界ではなく現実の異世界であるという考えに至ってから、殺生はなるべくしないほうがいいだろうと考えていたロリンであったが、数瞬後五つ首を転がしていた。

 畜生殺すにためらいなし。少女を守るためならなおのことである。

 突然首から上をなくし倒れた豚人間を、何が起こっているかわからないといった顔で眺めている少女に、ロリンは心からの笑顔を浮かべながら言った。

「こんにちは。怪我はない?」





























(大体)一日一話ペースでの更新となると思います。

誤字や言葉の誤用などを教えてくださると非常にありがたいです。

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