真・プロローグ
「暇だ…」
麟太はベッドの上で呟いた。
朝は頭が痛い気がしたし熱がある気もしたし実際に毛布に包まれながら体温を測ったら微熱はあったので学校を休んだが、こういうのは休みが決定するとどこかに行ってしまうものなのだ。
時刻は正午。学校に連絡を入れてから二度寝して、起きて五分でこのざまである。
「うん、親もいないし、うん」
麟太は少しだけドアを開けて耳を澄ませ、本当に両親共に仕事に言っていると確信した後、ゲーム機を起動した。
「ファンタジーワールドとツインテールロリータが俺を待っている!」
テンション高めで頭に装置をセットし、麟太はベッドに横になった。
「行くぜ!ダーイブ!」
特にかける必要の無い掛け声をかけながら、麟太の意識は電子の海に落ちていった。
【ようこそ、ソードマジックファンタジーの世界へ!】
何度聞いたか分からない音声が頭に響く。
そして強烈な違和感の後に、落下するような感覚を味わい、麟太は目を開いた。
「うぇひひ」
気味の悪い笑い声をあげる麟太だが、その声は先ほどまでとは全く違った。
さっきまでの麟太の声は高校生の男らしい多少低い声であったが、今の声は甲高い女の、しかも幼い声だった。
麟太の視界に映るのは、ピンクとハートが大量にあしらわれたベッドと数えるのも億劫なほどの量があるぬいぐるみ。そして透き通るような白い手足とどこかの不思議な国の少女をイメージした青と白の服と金色の絹のような髪であった。
「よっと」
麟太は勢いをつけ、ベッドから常人ではありえない跳躍をして跳び下り、鏡に全身を映した。
その鏡の中にいるのはどう見ても多少太り気味の男子高校生麟太では無く、金髪碧眼でツインテールの見た目六から八歳くらいの少女であった。
そう、彼女こそ麟太のVRMMOソードマジックファンタジーでの姿、ロリン・コロリンなのだ。
完全体感型アクションゲーム、ソードマジックファンタジーは、月額課金制のMMOである。
日本では三本の指に入るVRMMOであり、レベルの概念が存在しない完全スキル制のファンタジーゲームである。
スキルは莫大な数存在し、未だその全容はつかめていない。
運営側がどうやったら何のスキルが取れるかを一切伝えないため、完全手探りでスキル探しが行われており、更にスキルをとってもそのスキルを取る条件は分からないため、いくつスキルがあるどころの話ではないのだ。
斬撃を飛ばすスラッシュのスキルや魔法の火を生み出しぶつけるファイヤーボール等のスキルのようにクエストの報酬としてNPCに教えてもらえたり魔導書を読むと得られたりするものもあるが、素振り何回こぶしによるモンスター討伐数何体のように何らかの条件をクリアすると得られるものものもある。
また剣などの物理攻撃的なスキルを多く持つ人は極端に魔法系統のスキルが覚え辛くなったり、力を伸ばすようなスキルを多く取るとスピードを伸ばすようなスキルが取りにくくなったりとするため、自由でありながらも完全に万能なキャラは作れずある程度キャラの方向性が生まれる。
当たり前のように一人しか所持している人が見つかっていないスキルがあるのもこのゲームの大きな特徴だ。それらのスキルは大体の場合いつの間にかスキル欄に入っており入手方法はわからない。それに加え自分しかもっていないスキルなどという魅惑的なものをみんなが持つ便利スキルなどにしたくないといって秘匿するものも多い。
スキルには最大五〇の熟練度が存在し、ある程度他のスキルの熟練度を上げていなければ取れないスキルももちろんあり、その組み合わせから更に攻略サイトの管理人などを苦しめている。
課金することで手に入るスキルも存在するが、どうにかすれば取れるものか戦闘には全く関係ないロールプレイにのみ使えるようなものかの二択である。少しだけ例外もあるがそれは置いておく。
因みにロリンは課金勢である。
といってもスキル課金勢ではなく、その他課金勢である。
まず性別を変えるために課金し、ホームを通称団地の初期地点から庭のある赤い屋根の家に変えるために課金し、匂いを変えるために課金し、更に…と中々の重課金である。
ロリンは今現在も、巷で悪魔の書と呼ばれている課金カタログを眺めていた。
「あたらしーのは…っと!これは買いだ!」
ロリンはカタログを目で追いながら突如大声を上げ、よどむことの無い動作で課金のためのパスを打ち込み金を払い新しい何かを買った。
鼻歌を歌いながらメニューを開き操作する。このメニュー操作は念じるだけで出来るため戦いながらとかでも出来るのだが、基本ろくなことにならない。戦闘中に意識をしっかりと別のものに向けなければならないのは致命的だろう。
ロリンは装備、装飾、特殊と選んでいき、オッドアイと書かれた所を、二つあるものを選んでから有効化した。
すると一瞬でロリンの瞳が変化し―
「うぇへへ」
右目が血のような赤、左目が輝くような金に変化した。
オッドアイである。何故か青い瞳は消えた。
「あぁ~みせびらかしてぇなぁ~」
装備を中二病を感じさせる黒いゴスロリ調のドレスに変えた後、鏡の前でポーズを取りながらにやついていたロリンの頭に、ぴろりろりんとかわいい音が響いた。
画面左上に新着メールのマークを確認したロリンはメールと念じた。
すると視界にメール一覧が現れる。その中からフレンドのフォルダを、知らない人フォルダの9999+を一瞥していやな顔をしてから開いた。そしてNewと表示が出ているものを開いた。
『ロリンへ
あたらしいおようふくがつくれるようになったよ!
きょうはもんげんが5じだからそれまでにきて><
メリーより』
そのメールにはそんな内容がかわいらしい丸文字で書かれていた。
因みに丸文字は課金である。
そして送り主の中身は男である。
だがこういうゲームで中身の詮索はご法度なのである。
また門限とはログイン限界時間という意味である。ロリンとメリーは外部のチャットで示しあわせをしてロリロールを崩さずに意思疎通を図れるように隠語を作っているのだ。
このメールを見たロリンはすさまじい速さで赤い屋根の家を飛び出した。
「あれ四年生の一人、後ろにロリンじゃねえの!」
「うわっまじだ!てか今日発売のオッドアイ既に買ってるぞ」
「あの子かわいいなぁ…」
「あれ中身男なの有名だぞ」
「…別にいいだろ」
「まじかよ…」
周囲を騒がせながら世界樹の根元に向かうロリン。
世界各地へ飛べるポータルがある世界樹の根元は、待ち合わせ場所として様々なプレイヤーによく使われている。そのため人が非常に多い。
木をそのままくりぬいて使ったようなメルヘンチックでファンタジーな家が連なる町並みを、多種多様な種族が飾っているが、そのほとんどの視線をロリンが集めている。
説明する必要の無いいわゆる人のヒューマンから始まり、筋肉を圧縮したような小柄でひげ面の男ドワーフに合法ロリの女ドワーフ。男女問わず美形ぞろいのエルフに犬猫をそのまま二足歩行させたようなワーウルフにワーキャット。その他大勢の種族のプレイヤーたちが一斉に同じところを見ている様は中々壮絶である。
中二病をいやでも感じる格好や病的に作りこまれた顔が原因、というわけではない。
ロリン、実は有名人である。
四年生と呼ばれるロリ系ロールプレイヤー最狂と名高い四人のうちの一人なのである。その上プレイスタイルとある事件から指名手配犯、後ろに、ステルスサイコ、大魔王などの二つ名をつけられている。有志の攻略サイトにはスクリーンショットつきで要注意人物と書かれていることすらある。
そんな人物が走っていれば注意を引くというものである。
しかし当のロリンはそんなことは一切気にせずに走る。腕のひじから先を多少横に振る女子にたまにいる走り方で走る。
そして遂に某犬の像並みの待ち合わせスポットである世界中の根元にたどり着き、多少息を切らせておでこに光る汗をぬぐった。汗ばんではいるが辺りに香るのは甘くなんともいえないいい香りのみ。これも課金である。
ロリンはふーとわざとらしく一息つき、わざとらしくきょろきょろと人を探すふりをした。実際には、フレンドの頭上にはキャラクター名が浮かぶので遠目から見ても一目瞭然なのだが。
「あれ~?どこだろ~?」
「こっこだよ!」
「きゃあ!?」
わざとらしいセリフをはくロリンの後ろから、青い髪をショートカットにしたボーイッシュな碧眼の美少女が突然抱きついてきた。もちろんロリンは気づいていたが。
彼女がメリー、メールの送り主にして四年生の一人である。
普通のシャツに短パンから裾の長いスパッツが見える感じの服装のヒューマンで、中身はひきニートである。現実で店が出せるレベルの服飾センスを持っていながらニートということでロリンとは違った意味で有名である。
「もぉ!びっくりしたんだから!(こんにちは)」
「ごめんごめん、それにしても早かったね(学校はどうした学生)」
「昨日ぐっすり眠れたから気持ちよくおきられたんだ!(体調不良で欠席しました)」
「えーいいなあーボク朝弱いから(うらやましい野郎だ。こっちは昼夜逆転中で今さっき起きたところだよ)」
「えへへ(サーセン)」
しばらく二人はこんな感じで、街を適当にぶらつきながら周りから子供っぽく見えるように他愛ない会話を交わした。
本題にさっさと入れよと思う人もいるかもしれないが、彼らにとってはロリロールをすることが第一であり強くなるとかすごいアイテムを作るというのは二の次なのだ。
というわけで数時間買い物したりもしながらロリロールを楽しみ、適当な公園で遊んでからようやく本題に入った。
「それでね、お手紙の話なんだけどさ(本題に入ろう)」
木に足を引っ掛けさかさまになった状態でメリーが切り出した。
「うん、お洋服だっけ?(装備アイテムの話でしたよね)」
「そう!作れるようにはなったんだけど、白いトカゲのチョーレアな鱗が無いと作れないんだよねー(白龍の逆鱗が足りないんだわ)」
「うーんと、ちょちょっと待ってて!取ってくるよ!(それなら多分二時間くらいで取ってこれますよ)」
ロリンの答えを聞き、メリーは器用に一回転してロリンの前に跳び下り、目を輝かせながら両手でロリンの手を取った。
「ほんとう!(まじかサンキュー)」
「うん!(ういっす)」
二人はハグをしてから別れた。
ロリンは深い森の中を走っていた。
一般人が見れば金色の線にしか見えないような速度で走っていた。
ロリンのスキルにはスピードがあがるものが多く、このゲーム全体を通してもトップレベルの速さであった。その代わり攻撃力と防御力は初期値レベルであったが。
そんなロリンが目指すのは白龍のみ。他のモンスターなど知らんとばかりに無視して進んでいく。そしてモンスターたちもロリンのことが見えないかのごとく横を通し上を通し股の間を通す。
これは別にモンスターがロリンに興味が無いとかではなく、ロリンのスキルによるものである。
忍び足から派生に派生を重ねたスキルたち、気配遮断、無音、無臭のお陰である。このスキルの内一つでも持っている人をロリンは自分のほかに数人しか知らない。
このスキルたち、街中では無効にしておかないと探知系のスキルを持っている人以外から透明人間化してしまう。それはそれで夢があるのだがロリンはロリロールを見せ付けたいので普段は無効にしている。
ロリンが目指す白龍はここ、樹海にも出てくるのだが、それは夕刻を過ぎてからの話である。時間帯限定のエリアボスのような扱いで出てくるのだ。しかし今はまだ五時にもなっていないので、樹海に白龍は出てこない。
ロリンが目指しているのは樹海の先、通称荒地である。昔あるプレイヤーが白龍がどこから樹海に来ているのか気になり調査したところ、荒地から来ていることが分かったのだ。
しかしそこで白龍の狩などはあまり行われていない。
理由は二つあり、そのうちの一つがロリンに今迫っていた。
色つきの風のように走るロリンを上から見ている人がいれば気づいたであろう。ロリンの走る先で樹海は突然途切れ、崖になっていたのだ。
そう、割と素材がおいしい白龍が荒地で狩られない理由の一つがこれ。幅二〇メートルを超える崖を越えられなければそもそも荒地に行けないのである。
飛行の魔法を使えば超えられるが、飛行の魔法の魔導書を最初に見つけたプレイヤーが読んですぐ燃やしたため使えるものが一人しかいない。正確には恨み妬みからその者も指名手配状態になりまともにプレイ出来なくなったためいないと言っていい。
もちろんロリンはその指名手配犯ではなく、もう一つの方法、純粋に足に任せて跳び越えるという方法をとった。
崖が迫っていることを知りながら一切スピードを緩めずにぎりぎりで踏み切り、陸上選手もかくやという跳躍を見せた。どんな跳び方かというと時をかけそうな跳び方である。
ロリンはスピードや跳躍力といった運動性能とでもいうべき能力に特化したスキルの取り方をしているため、人外といっても過言ではない動きを見せた。もし普通の人間にもステータスが存在していてロリンと比べることが出来たら、走り幅跳びの代表選手の二倍を超える運動性能をロリンが持っていることが分かっただろう。しかし走り幅跳びの世界記録は一〇メートルを超えていない。そして当たり前だがロリンは世界で競えるような技術を持っていない。さらに服装がゴスロリ調のひらひらした風の抵抗がすごそうなドレスである。スカートも大変なことになっている。
つまり何が言いたいかというと、二〇メートルも跳べなかったという事である。
いや、ぎりぎり届くかもというくらいまでは届いていたので二〇メートル跳んでいたのかもしれないが、少なくとも反対側には届かなかった。
無情なゲーム上の擬似的重力に引かれ、このまま落としちゃったトマトよろしく谷の底で赤い染みになりホームに強制送還かと思われたが、ロリンの顔に焦りの色は無かった。
彼女はあげていた右足を強く、まるで空中に地面でもあるかのように振り下ろした。
そして、彼女の右足は空を蹴り、くるりと空中で前転してから危なげなく向こう岸に着地した。
二段ジャンプである。
サービス開始直後から始めていたプレイヤーの中にホッピングおじさんと呼ばれている人がいた。二段ジャンプあるもんと言いながらそこかしこでぴょんぴょんしていたので名物プレイヤー扱いされていたのだが、事実二段ジャンプを見つけたため名物というか偉人扱いになった。以来二段ジャンプのスキルを得る方法は?と聞かれたら、恥を捨て街中で二段ジャンプあるもんと叫びながら跳び続ける、と答えるのがお決まりになった。
もちろんロリンは叫びながら取得した。
それはさておき、ロリンは白龍を荒地で狩るための一つ目の関門を突破した。残る問題は一つだけ、とても単純で難しい問題だ。
赤茶けた大地が広がるだけの荒地に着いたロリンは、音も立てず砂埃一つ立てず駆け出した。
程なくして、非常に優れた視力、スキルで底上げされた視力で以って数キロ先に白い塊を見つけた。
それは、大岩の影ですやすやと眠る、大空を自由自在に翔る白い翼と鉄すら引き裂く白い爪と生半可な武器では傷一つつかない白い鱗をもった全身純白の龍。その数十匹からなる群れであった。
これが二つの理由の二つ目の理由にして最大の理由。数の暴力である。
ただでさえエリアボスとすら呼ばれ、人が束になってかかるべきモンスターが、束になってかかってくるのである。しかも起こされれば激怒の状態異常が付き攻撃力が増す。
しかし、眠れる猛獣の尾を踏み抜きに行くロリンに一切の躊躇は無い。
ここに怒れる時間帯限定のエリアボスの群れ対四年生の戦いが始まったのである。
そして。
ロリンの右手には漆黒の、左手には純白の刀身を持つダガーがそれぞれ握られていた。
武装、というには多少お粗末な――なぜなら着ているのはゴスロリ調のドレスのまま――武装をしたロリンの前には、すーすーと穏やかな寝息を立てる白龍が一匹。
そう、一匹だけである。
数刻前まで大量にいた白龍たちは、この一匹を残して消えていた。眠りを妨げることすらなく。
否、それは正確ではない。白龍だったものは、一匹だけ残っていた。
その一匹は、さしたる外傷も見当たらず、傍目から見れば寝ている白龍と変わりないように見えるかもしれないが、呼吸をしていなかった。死んでいるのである。
何らかの手段を用いてか、ロリンは数十匹の白龍の群れを一匹残し捌いたのである。
ロリンはそっと息を引き取った白龍に触れた。
瞬間白龍は光の粒子となり消え、ロリンの視界にあるメッセージが流れ
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
可愛らしい顔からは想像もできないような叫び声を上げた。
その声を聞き、寝ていた白龍が不機嫌そうに喉を鳴らしながら目を覚ました。
しかしロリンはそんな白龍には目もくれず、病的に作りこまれた愛らしい顔を歪めながら地面を蹴り飛ばし続けていた。
「何で…っ!五〇匹も…っ!狩って…っ!一枚も…っ!」
子供なら泣いて逃げ出すような怨嗟の声に、眠りを妨げられ激怒の状態異常になっているはずの白龍も、その場で硬直して様子を伺っている。
すると突然ロリンはぴたりと動きを止めた。
びくり、と体を震わせる白龍。
「一枚も…一枚も…」
ポツリポツリと何かを呟くロリン。一言呟くたびに、ロリンの肩が震えていく。
白龍に搭載されたAIがこの場から逃げるという決断を満場一致で下したとき、再びぴたりと動きが止まり、幽鬼のような動きでおびえる龍のほうに振り返り、地の底から響いてくるような声で、言った。
「逆鱗がおちねぇんだよ」
脱兎の如く逃げ出した白龍を、凶器を両手に持った見た目六から八歳くらいの美少女が追う。
「逆鱗のドロップ率は二%だろぉおおおお!!!?!?」
叫びながら、追う。
「五〇匹倒したら一〇〇%おちるよなあぁあああ!?!!!!?」
落ちない。凡そ六四%である。
「鱗爪鱗鱗角鱗鱗ウロコおおおおおお!!!!!」
ドロップしたアイテムを一から叫ぶロリン。これはロリンの記憶力が高いのではなくログを見ているだけである。
「なぁア!?逆鱗置いてけ!逆鱗置いてけよお!!!」
走る龍。追いかける少女。
普通ならば龍に軍配が上がるであろうが、しかし現状は真逆である。すぐにでもロリンが距離を詰め、手に持った得物を獲物に突き立てそうである。
しかし追い詰められた龍はギリギリで自分が飛べることを思い出した。
空、それは人間には手の届かない世界。翼を持ったもののテリトリーである。
普通ならば。
「っ!しィィいッ!!!」
普通でない少女は羽ばたき始めた龍にひとっとびで追いつき、二段ジャンプで追い越し、叫びながら強固なはずの龍の鱗をたやすく断ち、片翼をもいだ。
「ぐるあああああ!?!??」
龍は何が起こったのかもわからぬまま揚力を失い地にたたきつけられた。
対してロリンは音も無く優雅に、スカートをばさばささせながら着地し、ゆっくりと地に落ちた羽虫に近づいていく。
「逆鱗逆鱗逆鱗ゲキりィィィィんッ!」
もはやその目には龍は映っておらず、素材しか見えていない。
そう、見えていなかった。
足元に突如出現した魔法陣としか呼べぬような何かも。
「コラテメェ!!」
そして視界は暗転し――