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13 二つの牙

下げ忘れを修正しました。

何度も何度も申し訳ありません。

 夜の暗闇が包む森の中、二つの陣営は激しい戦いを続けていた。

 木々の枝葉をすり抜けてきた、星と月の明かりしか森を照らすものはないが、それ()は闇を見通す目を持つ獣人にとって苦とはなりえない。

 普段は虫や獣の叫びで騒がしい森は、今は獣人たちの叫びと戦闘音で満ちていた。

「おらァ!どうしたぁ!?」

「くっ!」

 その中でもひときわ激しい、空気を震わす轟音が響いた。

 それは二メートル以上の血塗られた大剣が、地面に叩きつけられる音だった。

 ユームは五つの牙でありながら一つの牙に浅くない傷を負わせることに成功していたが、それは二人が同じ技術を持った者同士だったからなしえたことだった。

 今回は違う。

 圧倒的な力を元に戦う二つの牙相手では、分が悪いといわざるを得なかった。

 二つの牙はその攻撃のすべてがまさに必殺の一撃。まともに受ければユームの体は二つに裂けてしまう。受け流そうにも小太刀では不安が残る。

 結果として、ユームはアークトスの攻撃をよけ続け、隙を探すしかなかった。

 だが、時間はアークトスに味方する。

 ユームは血を流しすぎていた。

 そしていまだ傷口はふさがっておらず、大剣の一撃をかすりもしないように激しく動いていてはこれからもふさがるはずがなかった。

 当然のように足はふらつき、それを見逃すような二つの牙ではない。

「どうしたどうしたぁ?ふらふらじゃねえか五つぅ!スラッシュ!」

「がッ!?」

 一撃をかわした後、わずかにふらついたその隙を突いたアークトスのその技能は、戦士が最初に覚える技能とは思えない威力をはらんでいた。

 上段から打ち下ろされるその破壊の化身をぎりぎりで半身になりかわすが、大地に叩きつけられた余波だけで足が一瞬地から離れ、技能使用後の隙を突くこともままならない。

 まともに遣り合っては勝利はない。そうわかっているユームだったが、打開策が思いつかない。

 いたずらに時は過ぎ、刻一刻と状況は悪くなる。

 アークトスはいまだにスラッシュ以外の技能を使っていなかった。

 つまり遊んでいるのだ。

 そのことに対する苛立ちが、さらにユームの思考を狭める。

 元からアークトスにユームは個人的な恨みがあり、それを押さえつけ冷静足らんとすることも、思考を妨げる原因になっていた。

 時間がたつごとに悔しげに歪んでいくユームの表情を見て、アークトスの口は弧を描く。

 楽しくて楽しくて仕方がない。すぐにこれを終わらせるなんてとんでもない。まさにそういう顔をしていた。

 十傑は、強さによってのみ選ばれる。そこに性格の考慮などはなかった。

 アークタスは、武を尊ぶ獣人族の理念から一歩外れた、弱きものをいたぶるのを何よりもよしとする男だった。

 自分が強きものであると自覚できるその瞬間を、何よりも求めていた。

 そして今がそのとき。

 彼の口はいっそう大きくゆがみ、目も凶悪な三日月をかたどる。

 しかしそれが、右目の古傷から痛みを呼び起こした。

 途端に憎しみがあふれ出してくる。

 いたぶる側の彼にとって、それは負ってはならぬ傷であった。

 五年前のあの時、一人奇襲に打って出た彼を出迎えた一人の同族の女が負わせた傷。

 それが痛むたび屈辱を思い出し、同時にそれを手にかけた時のとてつもない興奮がよみがえる。

「ひゃはははははははははぁ!!スラッシュ!スラッシュ!スラッシュううううう!!!!」

「くッ!がッ!ぬあッ!」

 自らの昂ぶりに任せて技能を連発するアークトス。

 その技術も何もない攻撃に、しかしユームはよけるしかない。

 気力だけで小太刀を構え、必死に考えをめぐらすユームに、アークトスが爆弾を放った。

「思い出すぜぇユームぅ!お前とやりあっているとなぁ!!」

 ユームは何も答えなかったが、アークトスは続けた。楽しそうに、愉しそうに。

「お前の女をよぉ!あの生意気なやつをこの手にかけたときをよぉ!」

「貴様ぁああああ!!!」

 一転、ユームが攻勢に出る。

 今まで押さえていた激情が爆発し、どこに残っていたのか一つの牙とやりあっていたときのような動きを見せる。

 鬼気迫る勢いで、大剣がかするのを気にせず、猛烈に小太刀を振るう。

 それを難なくよけ、得物で受け、対処しながら、アークトスが続けた。

「愉しかったなぁ!!お前の娘も切ったらあんなに愉しいかねぇユームぅ!!!スラッシュうううう!!!」

「アアああアァァァァァァああああぁぁあアア!!!」

 理性のたがが外れたのか、獣のような叫びを上げたユームは振り下ろされた大剣に肩をこすらせながら、恐ろしい勢いで獣の本能とでもいうべきもので見極めたアークトスの弱点、潰れた目による死角、右側に回りこんだ。

 だがそれこそアークトスが狙っていたもの。

「ばかがぁぁ!!!」

「がァッ!?」

 技能を使ったことにより、確実に何もできないはずだったアークトスから痛烈な反撃を受け、ユームが吹きとび木の幹に激突した。その顔に浮かぶものは驚愕。

 彼が使ったのは、しっぽ。

 二つの牙のしっぽは、ありえないことに大の大人を吹き飛ばす力を持っていた。

 そして、アークトスがその好機を逃すはずがない。

「もらったァ!!!」

 大剣を両手で持ち、木の幹を背に立ち上がろうとするユームを串刺しにせんと迫る。

 それに気づいたユームは、すさまじい衝撃を受けながらも離さずにいた小太刀を構えたが、焼け石に水だった。

「ひゃっはああああ!!!!」

「ぐああああああ!!!!」

 小太刀を使い、身をかわそうとするも、無情にもその大剣はユームのわき腹に突き刺さり、彼を大木に縫い付けた。

 しかし、次に驚愕するのはアークトスの番だった。

「千首一閃ッ!」

「なにぃ!!!」

 吹き飛ばされ、貫かれながら、その闘志を一切失わなかったユームの反撃は、アークトスの片腕を奪うという結果を生んだ。

 だが反撃はそこまで。

 貫かれながら無理な姿勢ではなった強力な技能は彼の傷口を大きく広げた。

「ぐっ、てっめえええええええ!!!!!」

 そして対するは怒れるアークトス。

 彼はそのままにしておいても出血多量でユームが死ぬとわかっていながら、残った左腕で大剣を引き抜き、持ち上げた。

「死ねやあああああ!!!!」

 迫り来る大剣に確実な死を感じながら、支えを失い木の根元に座り込んだユームは、穏やかに笑った。

 しかし、そのときは訪れなかった。

「太刀滑り」

 血を失いボーっとする頭が聞き覚えのある声認識した後、彼の体はやさしい何かに包まれる感覚を感じた。

 それと同時に急速に力を取り戻していく体に戸惑いを覚えながら目を開くとそこには、倒れる二つの牙と怒れる少女がいた。

 その後ろには何故か、家で寝ていたはずの最愛の娘。

 涙を流しながら走りよる娘を受け止め、ユームはすべてが終わったことを悟った。

明日、主人公が何をしていたのか二話連続でお送りしたいと思っています。

誤字、脱字、言葉の誤用の報告いただけるとうれしいです。

感想、評価、いただけるととってもうれしいです。

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