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10 隠れ里と国と

長いです。

ほぼ説明回です。

下げ忘れを修正しました。

 既存のスキルの動作確認を終えたロリンは、所持スキル一覧を開き、新しく得たスキルを改めてじっくりと見た。


【龍殺しLV3】

 龍に与えるダメージ増加(小)

 龍に対して威圧(小)

【手加減LV1】

 このスキルを使用し、致命的な攻撃を行った場合、一度だけ瀕死に抑える。

 但し部位欠損を伴う攻撃には適応されない。

【食中毒耐性LV1】

 摂取すると問題のある食料を問題なく消化吸収する(小)


「やっぱだめじゃねーか生肉!」

 森にロリンの雄たけびが響く。

 シャロは耳としっぽを立てて一歩飛び退った。

 生肉のすばらしさを真剣に伝えるユームの顔を幻視したロリンは、ふと気づく。

 龍殺しは明らかにゲーム内での白龍惨殺が原因であろうが、手加減と食中毒耐性はこちらの世界に来てから条件を満たして得た可能性が高い。

 というより、味覚と味に関するVRの技術は未だ発展途上であった。即ちソードマジックファンタジーにおいて食事は存在していなかった。

 ロリンも麟太であるときある折にVR食の最先端体験をしたことがあったのだが、正直に言って二度と食いたいとは思わなかった。

 つまりロリンが何を言いたいかといえば、食中毒耐性は存在し得ないスキルだということだ。

 ロリンは、こちらの世界でもスキルを得られるだけでなく、ゲームではありえなかったスキルも取得しうることに気づいた。

「これは夢が広がるといっていいのか?」

 ロリンのつぶやきは、誰にも届かなかった。

 太陽は真上にあり、暖かな日差しを開けた森の二人に注いだ。


 太陽のきらめきがあまり届かない隠れ里の森の中を、二人は世間話をしながら歩いた。

 シャロはロリンの事を聞きたがった。

 住んでいた場所の話や家族の話、何をして暮らしていたのかの話をせがんだ。

 ロリンは理想の少女の設定と麟太のことを混ぜて話した。騙している気がしないでもなかったが、麟太の生活をそのまま話しても理解できないであろうし夢がないと思ったので、割り切った。

 隠れ里に領地を示す壁などはなく、どこから森でどこから隠れ里などという明確な境界はない。

 だがシャロ曰く今二人がいる場所は既に隠れ里らしく、枝を飛び跳ねて進むと礼儀知らずの様な扱いを受けるらしい。

 行き同様歩いて帰ってきた二人を、家の中で既に昼飯の準備を終えていたユームが出迎えた。

「意外に遅かったな」

「ごめんなさい、技能の確認をしていたらつい」

「いや、怒っているわけではない」

「ロリンお姉ちゃんすごかったんだよ!ひゅん、ずばっ、びびび、って!」

 思い出したのか、興奮したようにシャロが身振り手振りを交えて説明した。

 ユームはそれを微笑みながら見た後ロリンのほうを一瞥してから手元の昼飯を見ようとして、ロリンのほうを見た。二度見である。

「その服は…?」

「収納の魔法で取り出しました」

「そうか…すごい職業だな…」

 ユームは簡単に納得した。

 どうやら、彼の中では勇者というのは何ができてもおかしくない存在として認識されつつあるようだった。

 うなずきながら何か考えているユームを放置して、ロリンは昼飯を見た。

 それはざるに乗せられたゆでた山菜ときのこであった。

 ロリンは目を見開いた。肉以外食ってるじゃねーか、と。だがよくよく思い出してみれば初めてシャロと会ったとき――といっても昨日だが――彼女はそれらが詰まった籠を背負っていた。

 現実に戻ってきたユームはロリンの様子を見て何を思ったか

「魔獣の肉を食い力を得、森の恵みを頂き自然と同化する。獣人族の古くからの考えだ」

 と誇らしげな顔で言った。


 慎ましやかな昼食を部屋の中で済ませ、ロリンとユームは座して向かい合った。

「では、何か聞きたいことがあったら何でも言うがいい」

 ユームが真剣な面持ちで言った。

 ロリンは一つ、ずっと気になっていることがあったが、シャロもいたのでそれを聞くのはやめた。

 ここで聞きたいことの中身がかみ合っていないことを、まだ二人は気づいていなかった。

 ロリンは常識的なことからなにから聞きたかったのだが、ユームはそうとは思っていなかった。

 ロリンは昨日のことを思い出し、ひとつずつ尋ねていくことにした。

 まず思い出されるのは、召喚のこと。

「人を遠くに移動させる魔法かなにかを、知っていますか?」

 ロリンの問いに、ユームが不思議そうに眉を寄せた。

「人間の魔法にそのようなものがあると、小さいころ聞いたことがあるような気がするが…なぜそんなことを?」

 ユームは、ロリンが聞きたいのは人間の国への行き方であったり、獣人族のことであろうと考えていたがゆえの言葉だった。

 実際そんな魔法関係のことを獣人族に尋ねる意味はないのだから。

 ロリンは困った。そういえばいらぬ争いのときも、相手に魔法を使うものがいなかったことを思い出した。まさに聞くだけ無駄というものであった。シャロにアイテムボックスのことを聞かれたとき、魔法だと言ったが、あれはこの世界に魔法がなかったら頭がおかしい人と思われるところだったな、といまさら反省した。

 加えて、ロリンはユームと何かかみ合っていないことに気づいた。そして、理解した。前提としてユームはこの世界の人間としてロリンと接しているのであって、日本から飛ばされてきたロリンの聞きたいこととユームの聞かれると思っていることがかみ合うはずがないのだ。とりあえずロリンは、事実をぼかして身の上をいまさら説明することにした。

「森で迷子になったとシャロから聞いていたと思いますが」

「ああ」

「あれは、半分くらいうそです」

「うそ?」

 ユームの目が細められる。これは本当に睨んでいるほうだった。

「正確には、気づいたらあの森にいたんです。違う場所で狩をしていたら突然、仲間といっしょにここにいて…仲間とはぐれてしまって」

「ふむ…」

 ユームは顔を伏せて少し考えた後、つぶやいた。

「ステータスを知らない…聞いたこともない職業…技能…勇者……そういうことか」

 何かに納得したユームは確認を取った。

「つまり、ステータスのことも知られていないような僻地から飛ばされてきて、仲間とはぐれ、自分が勇者であることも技能の量が多すぎることも、ついさっき知ったばかり。聞きたいのはこのあたりの常識を含めすべて、ということか?」

「へ…そういうことに、なると思います」

 僻地ではない、といいたかったがこじれそうだったのでやめた。

 実際には元は男でこの姿はゲームのアバターであるとか話していないことがあるが。

 ロリンはユームの察しのよさに、評価をかなり上げた。

「そうか、では、何か聞きたいことがあったら何でも言うがいい」

 言い直されたその言葉の何でもの中身は、最初とは大きく違っていた。


 ロリンは思いつく限りの事を聞いた。

 あの豚人間は何者か。

 あれはオークという魔獣である。

 魔獣とは何か。

 魔獣は人――獣人人間問わず知的生命体――に害なすもので、どこかから湧き出てくる。

 ここは何処か。

 我々は森としか呼んでいない。西に進めば人間の国がある平野にでるが、東方向の森の果てはわからない。

 ステータスとは何か。

 神の御業といわれているが、詳しいことは誰も知らない。

 称号とは何か。

 そのものが何者かを示すものである。ものによってはステータスに恩恵がある。

 職業とは何か。

 成人した際、それまでの行いにより決まるもので、それに応じてレベルが上がると技能を覚える。成人は十五歳である。

 レベルとは何か。

 魔獣を倒した際に人は何かを吸収するらしく、それが一定量たまると上昇するもの。レベルが上昇すると体力や魔力などの能力もそれに応じてあがる。何の能力が上がりやすいかは職業により変わる。

 技能とは何か。

 職業ごとにレベルが一定に達すると得られるもの。


「たとえば」

 ユームが話の途中で立ち上がった。

 懐から小太刀を二本抜き、構える。

「ふんっ!」

 二刀が交差するように高速で振られる。後には光の線がバツの字を描いて残った。

「「おぉ~」」

 重なるロリンとシャロの感嘆の声。

 それを満足そうに見た後ユームは座った。

「これが俺の職業で覚えられる最初の技能、ツインスラッシュだ。昨日の戦いでも使おうと思ったのだが、な。というか、お前は技能を使っていたはずだが?」

「いえ、わたしの知っている技能とこっちの技能が違っているかもとおもったので」

 実際にはスキルだし、とロリンは心の中で継ぎ足した。

「まあいい、続けよう」

 この後、ユームにロリンは常識を教えてもらい、シャロは昼寝に入った。

 しばらくして、常識については十分だろうと思ったので、ロリンは昨日言われたことについて聞くことにした。実際にロリンが常識を覚えられたかについては、定かではない。

「次は、勇者と獣人族についてお願いします」

「…わかった」

 ユームとロリンは一度座りなおし姿勢を正した。

「これから話すのは、獣人の歴史と、恥の話だ。だが、お前が勇者ゆえに、話さねばならん。長くなるぞ」

 ロリンは無言でうなずいた。


「まず、獣人族の始まりについて話さねばならん。

 獣人族とは太古の昔、知恵ある数十の獣と人間が交わって生まれたものと信じられている。

 一族への愛が強く、強気を尊きとするのは獣の血ゆえだな。

 獣と人間から生まれたという伝承ゆえ、昔は人間と手を取り合い仲良く暮らしていたという。

 もともと二足歩行する獣という姿の我らだったが、人間と交わり続けることにより、このように人の血が濃くなってきた。

 だがいつからか、獣の血が濃いものは森に住むようになり、人間の血が濃いものは平野に人間と住むようになった。この時はまだ、疎遠にはなっていたが人間に対しては好意的であった。

 森に迷い込んできた人間がいれば、護衛して平野に返し、世界規模の魔獣の災いがあれば、手を取り合って解決した。

 百幾年か前までは、そのような関わり合いであった。

 だが――」


 ユームが下を向き一つ息を吐く。

 顔を上げたその瞳の奥には、いつか見た負の感情が渦巻いていた。

 ロリンは無意識にシャロのほうを見た。こんな父親の目は、見ないほうがいいと思ったからだ。

 幸い、シャロは寝息をすーすー立てて寝ていた。

 ユームが続ける。

「勇者と名乗る者が現れた」


「やつらは突然、我々に戦争を仕掛けてきた。

 抵抗できぬものはさらい、抵抗するものは問答無用で殺した。

 我ら獣人は個では人間よりも強いと自負していたが、勇者は違った。

 たった数人の集まりだったが、恐ろしく、強かった。

 見たこともない強力な魔法に、見たこともない凶悪な技能。我らは敗戦を重ねた。

 そもそも我々に軍や国などなかった。戦いは家族か里単位で行われ、敗戦を重ねるとは即ちそれらが滅ぶということだった。

 半数ほどが滅んだとき、個別では勝てないとようやく悟り、我らは結集した。

 そして、里の強者一一人が、最強の一人を主として団結し、勇者に立ち向かった。

 勇者は強かった。

 だが、一一人のうち五人の犠牲と引き換えに、一人を葬り、撃退することに成功した。

 流された血は数え切れず、失ったものは大きすぎた。

 戦争は終わったが、今までの家族や里単位での生活は危険ではないかとみなが思っていた。勇者の恐怖は根深かった。

 そして、一一人の英雄たちの内、主だったものが国という名の大きな里を作った。

 主だったものは王を名乗り、一〇人の戦士で生き残ったものは十傑を名乗った。

 我らを救った王と十傑に対する信頼と熱狂はすさまじく、ほとんどのものが国に参加した。

 十傑に空いた穴は新たな強者により埋められ、我らは安堵した。それから十傑は国の中で十本の指に入る強者の集いになった。

 我ら獣人に安らぎをもたらした初代王はしかし、仲間や家族を失った悲しみと、人間に対する憎しみから、ある悪法を生んでしまった。

 それが、臣民等級制度だ」


 まるで、自分が参加していたかのごとく感情的に語ったユームは、咳払いを一つした。

 瞳からは怒りと憎しみは消え、後に残ったのは、深い悲しみだった。

 ロリンは自然と姿勢を正した。

「ここからは、俺とシャロの個人的な話も含まれる。聞く覚悟はあるか?」

 覚悟と聞かれすこし動揺したロリンだったが、ある一つの懸念を覚えたため、聞かなければならないと思い、ゆっくりとうなずいた。

「ならば話そう。ここからが、獣人の恥だ」


「王の人間に対する強すぎる憎しみは、己の中の人間の因子にまで向いてしまった。

 王は自らの国の民を、あるものを基準に三つに分けた。

 それは、人間の体の割合だ。

 人間の体を一切持たぬものを一等臣民、半分以下しか持たぬものを二等臣民、そして半分以上が人間のものを三等臣民とした。

 王は等級により、民の扱いを明確に変えた。

 重要な役職には一等か二等臣民しかつけず、三等臣民はほかのものがやりたがらない仕事を押し付けられた。

 一等臣民や三等臣民は殆ど居らず、殆どが二等臣民だった。

 当たり前だな、獣の血の薄いものは遥か昔に平野に行ったのだから。

 そのせいもあってか、その法は簡単に受け入れられた。人間が憎かったのが最も大きいと思うがな。

 そして、いつしかその法は当たり前になり、家族を愛する獣人の誇り高き精神は穢れた。

 そんななか生まれたのが、この子だ」


 ユームは優しい、悲しい笑顔で眠る娘の頭をなでた。

「水浴びをしたなら、わかっただろう?いったい彼女にどれだけの獣があるか」

 ロリンは、何もいえなかった。

「シャロは獣の血が薄い。獣人族とは思えぬほど気弱で、恥ずかしがりやで、優しいいい子だ」

 ユームは立ち上がって部屋の端にあった毛皮を取り、シャロにかけた。

「さ、続けよう。いまさらこれ以上聞かんとは言わせんぞ」


「俺は悲しんだ、世界を憎んだ。

 俺の妻も、俺も、二等臣民だった。

 まさか、自分の子供に三等臣民の子が産まれるなど考えてもいなかった。

 そのころ、いや、今もだが、三等臣民の扱いはもはや人間がつかうという奴隷に近かった。

 何故だ?娘に何の罪があるというのだ?

 罪深きは人間、勇者だったはずだろう?

 なぜ、家族のはずの獣人同士が…。

 もとからこの臣民等級制度にいい感情を抱いていなかった俺と妻は、シャロが生まれたことをきっかけに活動を開始した。

 制度に反対するもの、三等臣民、信頼できるものを集めて、国を抜け出した。

 しかし、どこかに内通者がいたのか、国を出た直後に俺たちは襲われた。

 相手は三等臣民をこき使っていた者たち、つまりは、国の上層部の手のものだった。

 即ち、十傑だ。

 国最強の者たちと戦い勝てるはずもなく、逃げた。

 俺はその他の強者とともに殿を勤め、娘は妻に託した。

 激闘の末、殿を務めたものの内、俺だけは奇跡的に生き延びた。やつ(・・)が本気じゃなかったのも大きかったのだろうが。

 足止めの役目を果たして、逃げた妻と子供たちに追いついた俺は、失敗を悟った。

 妻は、娘と弱きものを守り…。

 あの時俺が、十傑がそろっていなかったことに気づいていれば、奇襲は避けられたのかもしれない。

 あの時俺が、もっと慎重に事を運んでいれば、内通者を許さなかったかもしれない。

 だが、あのときの俺にはそんな後悔をする暇はなかった。

 妻が守った、生き残った者たちを連れて、逃げ延びなければならなかったからだ。

 そして、この隠れ里ができた。

 もとから俺たちは、少人数で生きてきた獣人だ。

 逃げ切りさえすれば、後の生活はどうということはなかった。

 失ったものは、非常に大きかったが、我らは獣人としての誇り高き生活を手に入れた。

 しかしシャロは、自分のために母親を失ったと思っているのか、自分に自信が持てないようでな。

 さらに、獣人というか、自らの獣の血を嫌うようになってしまった。

 何とかしたいとは思っているのだが、な」


 語り終えたユームは、ただの父親の表情をしていた。

 妻を失った悲しみが、薄れるはずもないというのに、悲しみなど一切見えない顔をしていた。

 ロリンは、何もかける言葉がなかったが、言わなければならないことがあった。

「あの、十傑に、黒い猫の一等臣民がいませんか…?ユームさんと同じような格好をした」

「確かにいるが、何故?」

「昨日、シャロちゃんに会う前に、見たんです、近くで」

「なん、だと…?」

 直後、ロリンのスキルが敵を捕らえたのは、必然だったのか。

「八、いえ九人がこちらに向かっています」

「それも技能か!」

「はい!」

 ロリンとユームは立ち上がった。

「里中に知らせる!お前も来い!」

 森は、夜の闇に包まれつつあった。

明日は閑話をはさんでもう一話、といきたいところです。

誤字、言葉の誤用の報告、感想、評価、いつまでも待っています。

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