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7 勇者とスキルと

 目が覚めると見知らぬ

「天井がない!」

 星空だった。

「っ!お姉ちゃん!」

 よくわからない事を口走りながら上体を起こしたロリンに、シャロが抱きつく。その目元は濡れていた。

「いっててて…ここどこ?ついに寝相が家から出るまでわるくなったか…?」

 頭を押えながらボーっとした視線で意味不明なことを口走るロリンを、シャロが心配そうな目で見つめていた。

 すこしして、どこか遠くを見ていた目が目の前のシャロに焦点を合わせた。

「あぁシャロ。そうか夢じゃなかったか…」

「大丈夫ロリンお姉ちゃん…?さっきから変だよ?」

 不安そうな表情で至近距離から上目遣いでロリンを見つめるシャロ。

 それを見つめるロリンの無表情がだんだんと和らいでいき

「うぇへへ…」

 ついに崩れた。

「だめみたい!お父さん呼んでくる!」

 それをどう見たのか、シャロはあわてて走り去っていってしまった。

 一人残されたロリンは、まず周りを見渡し、どうやらここが樹上に建てられた家のベランダとでもいうべき場所だと確認すると、どうして自分がこうなっているのかをゆっくりと思い出した。

「文字化けしてたよなぁ…それに勇者って」

「勇者がどうかしたか?」

「ユームさん」

 誰に当てたわけでもないロリンの言葉を拾ったのは、シャロに連れられて(引きづられて)きたユームだった。

「あの、ステータスの称号ってところに勇者と書いてあったな、と」

 正直に答えたロリンに、ユームの表情が強張る。

 シャロは暢気に首をかしげているが、ユームの表情は変わらない。

「えっとあの」

「いや…いい」

 突如張り詰めた空気にあわてて取り繕うとしたロリンを、ユームが制した。

 ユームはひとつ深呼吸をすると、力強く微笑んだ。

「勇者だろうと、娘の友達だ」

 それはロリンに言っているというより、自分に言い聞かせているようだった。

 ユームは続ける。

「今日はもう遅いから明日にでも話すが、獣人族は人間を狡猾で残酷だと教えられているといったな?その原因は勇者にあるんだ。だから、それは秘密にしておいたほうがいい。いい顔は、されないだろうからな」

 そう言った彼の笑顔の裏には、悲しみや憎しみや怒りといったさまざまな負の感情が渦巻いているように見えた。

 ロリンがなんと言葉をかければいいのか迷っているうちに、ユームが唐突に話題を変えた。

「それで、どうして突然倒れたのかわかるか?」

 じっとロリンの顔を見つめる真剣な表情には既に暗いものはなく、気遣いだけが見える。

 せっかく変えてくれた話題なのだ乗らねば、とロリンは思考を巡らせた。

「えっと、たぶんステータスの情報が多すぎて頭が耐えられなくなったんだと」

「情報が多すぎる?」

 ユームが目を細める。それは睨みつけているのではなくただ疑問に思っているからだとわかっていても、スキンヘッドに睨まれるのは勘弁してほしいとロリンは思った。ユームの横ではシャロも眉間にしわを寄せて首をかしげうなっている。

 ロリンは今回気を失ってしまった理由をこう考えた。

 大量に所持しているスキルというこの世界にはないであろうものが、この世界のシステムのようなものと齟齬を起こしたのだろうと。

 ステータスを見たロリンは、どうやらここがソードマジックファンタジーとはまったく関係ない異世界だと悟っていた。

「たぶん、技能が多すぎるからだと…」

 スキルといっても理解されなさそうだったので、ロリンはそう説明した。

「気を失うほどの量の技能か…にわかには信じられんな」

 細めた目を戻さないユームに、なにかあっと驚かせるようなスキルはなかったか、とメニューを開くロリン。

 所持スキル一覧に目を這わせ、いくつかスキルが増えていることに気づいたが、詳細の確認は後でいいかと思い放置した。そしてすぐにおあつらえ向きのスキルを見つけた。

 いたずらをする子供の気分になり、悪い笑みを浮かべそうな顔を気力で押さえつける。

「例えば――」

 そう言ったロリンの姿が、ベランダの床にまるで水に沈むかのように消えた。

「なっ!?」

「ええっ!?」

「――こういうのとかですね」

 ロリンは、驚きあたりをきょろきょろと見渡す親娘の、娘のちょうど後ろの床から消えた時と同じように出てきて言った。

 驚愕に耳としっぽを立てるシャロを抱きしめるロリン。

「もう!お姉ちゃんったら!」

 頬を膨らませてそっぽを向きながらも、しっぽは段々とうれしそうに揺れ始めた。

 一方ユームは目をまん丸に見開いていた。

 何かを使って驚かされたという認識しかないシャロと違って、ユームはその人生の中で一度も見たことも聞いたこともない技能に、かなり衝撃を受けたようだ。ロリンのいたずらは大成功だった。

「ロリン、今のは一体?」

「影走りというスキ…技能です。影の中を移動できる技能なんですが、ユームさんが思っているよりは使えないと思いますよ?」

 実際そうなのだ。影走りというスキルは珍しくはあるものの、ロリン以外にも持っている人はそれなりにいた。確かに有用なスキルなのだが、致命的な弱点があった。そしてその弱点は知れ渡っていた。攻略サイトに載るほどに。

 が、ふとロリンは気づいた。

 この世界に弱点知ってる人いなくね?と。

 それに気づくと、大量のいわゆる一発ネタスキルがロリンの頭に浮かんできた。

「そうなのか…?それでその、ロリンの職業は一体?」

 思考の海に沈みそうになったロリンを、ユームが引き上げる。

「こ」

「こ?」

 高校生、といいそうになりとっさに止める。

 彼が聞いているのがそういうことではないとロリンは気づけた。

 なぜ今聞かれるのかはわからないが、ステータスに職業という欄があったのを思い出したのだ。

 無意味な文字があふれる記憶の海の中から、職業の欄に何とかいてあったか思い出そうとするロリン。

 そして思い出した。

 文字化けしていたことを。

「こ、なんなんだ?」

 再び細められるユームの目。

 文字化けしてました、というわけにもいかない。思い描く理想の少女は文字化けとか言わないのだ。

 変なところで変なこだわりを発揮し、無駄に焦ったロリンはこから始まる適当な言葉を思いついたままに言った。

「コ○ンドー?」

 とっさの一言は筋肉系俳優の主演映画のタイトルだった。どうやらロリンの思い描く理想の少女の休日は、紅茶を飲みながらラブロマンスではなくコーラを飲みながらアクションをみるようだ。

 完全にやってしまった、と思ったロリンだったが、意外にもユームは疑問形になった言葉尻の違和感にも気づかなかったようで

「聞いたことのない職業だな。勇者の専用職業なのか…?」

 などとまじめな顔で呟き、考えだした。

 ロリンはこころのなかでほっと胸をなでおろした。当たり前だがユームはロリンの世界の映画など知らないのだ。

 が、ほっとしたのもつかの間、すぐにユームから二の太刀が飛んできた。

「それで、どういう職業なんだ?」

「…一軍隊と一人で戦えるような職業です」

「そうか…確かにお前の戦闘力から考えると納得だな」

 納得されてしまった。

 どうやらロリンの思い描く理想の少女はワンマンアーミーのようだ。

「そうか、それならば異常なスキルの量も…」

 などと呟くユームを見るロリンの目は死んでいた。

誤字、言葉の誤用の報告、感想などをいただけると嬉しいです。

一日一話ペースを守れるようがんばります。

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