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誰かの恋のお話

別れの言葉

作者: 雪平

「せんせーさよならあ」

「おー、さよなら」



向こう側から聞こえてくる声。そこには少し癖のある黒髪、黒いスーツを着こなし片手をポケットに突っ込んだ大好きな背中が見える。


青島先生だ。私はこっそりと笑顔になる。だけど大好きな先生と会わないように私は回れ右して反対側へ向かった。なぜならあの言葉を使いたくないのだ。そう、日常的に使う、あの言葉を。


別 れ の 言 葉


“さよなら”その響きが、私は苦手だ。幼い頃から別れの挨拶として使わされているその言葉を言ってしまうと、何だか永遠の別れのような気がしてしまって私は口にすることができない。

別に、昔それを言ったきり会えなくなった人が居るとか、そういうのではないのだけど。


友達とは「またね」という台詞を使うことにしている。バイバイやじゃあねは辛いけれど、またねなら“また”があるから。だけど、先生にまたねと言うわけにはいかない。不良なら言えるかもしれないけれど、私はいたって普通の高校生である。ただ一つ、先生に恋してるということを除いては。



「あー、先生今日のネクタイ新しいやつだったな…」



何とか学校から出て大きく伸びをする。思い出しただけでかっこいい。

望みの薄い恋なのはわかってる。それでも、私はやっぱり青島先生が大好きだ。


先生の担当教科は数学。文系の私は数学が週に三回しかなく、今日は帰りに見かけたの以外は会えていない。


話したかったな。でも、さよならとは言いたくない。大好きな人にほど言いたくない。



「せんせぇー…」



きっとこの恋は叶わない。一回り以上も年の離れたガキ、しかも、私みたいに美人でもなければスタイルも悪いこんな平凡な生徒、卒業すればすぐに忘れられてしまうだろう。


だからせめて、と数学の勉強を頑張っている。いい点を取って、少しでも先生が気にしてくれたら。

卒業までまだ半年以上あるとはいえ、私にとっては少なすぎる時間。少しでも多く話したい、少しでもこっちを見てほしい。そのためには、まず次のテストで満点目指さなきゃ。


気合いを入れ直して、教科書を開いた。



──────────────────────…



「うわ、雨降ってる…」



今朝は晴れてたのに。だけど今は梅雨。そんなことはよくあることで、当然私も折りたたみ傘を持っている。

ため息を吐きつつ鞄の中を探した。



「あれ、うそ、ない…?」



何で?いつもここに…あっ、そうだ、忘れてた!昨日妹に貸したんだっけ。傘が壊れたって言うから…。ああもう、最悪。


雨は止みそうにないし、入れてもらうにしても今誰もいないし…走っていくしかないか。それで、仕方がないから今日はバスで帰ろう。近くのバス停まで何分くらいだっけな…。


そんなことを考えながら上靴を脱ぎ、ローファーに履き替える。荷物、濡れないようにしないと。



「中原?」

「!はい…」



青島先生!ど、どうしよう!鏡見ておけばよかった、どこも変じゃない、かな?

先生がゆっくり近づいてきて、首を傾げる。



「傘持ってないの?」

「え、あ、はい。

昨日、妹に貸して、そのままで…」

「止みそうにもないしな…」

「はい。だから、バスで帰ろうと思います。

バス停まで走って…」

「それでもずぶ濡れになるぞ、

ちょっと待ってて」



私が返事する前に小走りで行ってしまった。もしかして、送ってくれたりするのかな?

って、そんなわけないよね。女子生徒車に乗せたって言うと、何かと問題になりそうだし。



「はい、これ使いなさい」

「え?」

「先生の傘。車から持ってきた。」

「え、そんな、悪いですよ!」

「大丈夫だよ、俺車で来てるから。

こんな雨の中傘差さなかったら風邪引くぞ」

「あ、ありがとうございます!」



わあ、どうしよう、傘借りちゃった!しかも今、二人きりだ。ちゃんと私の目を見て話してくれてる。どうしよう、うれしい…あ、でも。


さよなら、って言わなきゃ。私から、この楽しい時間を終わらせなきゃいけないんだ。…いやだな。



「中原?」

「あ、はい」

「どうした?具合でも悪い?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。

えっと、それじゃあ、…傘、お借りしますね。


…………さよなら」



せめて、先生からの“さよなら”は聞きたくなくて、言うと同時に玄関に向かって少し早足で歩き出した。



「中原」



ああ、嬉しすぎる。名前を呼ばれただけなのに、胸がきゅんとする。玄関のドアを開ける前に振り向いた。


先生それ、反則ですよ、ばか。



「またな」



そんな優しい笑顔、きゅんとしないわけないんです。

あー、私らしくない、こんな風に笑うなんて。



「はい!」



傘を差して、軽い足取りでいつもの帰り道を歩く。


どうしよう、明日も話しかける口実、できちゃった。あ、帰りにスーパー寄っていこう。バター買わなきゃ。



バター多めの紅茶クッキー、やっと練習の成果が出るかも。

先生喜んでくれるかな。



-fin-


叶わなくても、誰かに本気で恋していたその時間が宝物になると思います。


バター多めの紅茶クッキーは青島先生の好物です。ちゃんとわたせたんでしょうか。


本気で恋をしている女の子はとてもかわいらしいですよね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 切ない…またそれがいい味を出していると思います。 先生と生徒という関係の恋愛って、やはり定番で王道ですが、このお話のように主人公が想いを隠し続けるというのも素敵ですね! 先生の最後の「また…
2015/01/06 23:33 退会済み
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