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ウォッチ! ウォッチャー! ウォッチェスト!  作者: saco
第一章:夢を、見ていました 
6/29

遭遇

 ………………。

 …………。

 ……。

 ――あぁ、これは夢だ。

 てことは、俺はもう寝たのか。

 一応自分が今寝ていて、今のこの状況が夢なんだなということは自覚することが出来る。

 場所は……知ってる。近所のショッピングセンターの駐車場だ。なんでまたこんな所なんだよ。相変わらず人っ子一人いないし。

 俺は今のこの状況が夢であることを確認、整理するといつものように歩き出した。

 道路を挟んだ向こう側の本屋、コンビニ、家電量販店――どこもかしこも人っ子一人、いや生物が存在していない。それにしては店の電気はついているし、交差点の信号だってちゃんと働いている。一体誰のために交通整理をしているのかとなんとも空しい気持ちになってしまう。

 どうせ今回もそのうち何かしらが空から降ってきて目が覚めるのだろう。それまで適当に時間を潰すか。

 俺は今までの夢の中でも、この世界に自分一人しかいないことをいいことに好き放題やってきた。

 例えば店の商品をレジを通さずに食べてみたり、着てみたり、遊んでみたり……最初の頃は、やべぇ、俺何でも出来るイヤッホウ! みたいな感じに興奮していたが、このパターンを何年も変わり映えすることなくやっているとそれが普通になってきてしまい、いずれは飽きてしまった。まあ雪山だったり砂漠だったりすることもあるが、それはただただ辛いだけなので早く目よ覚めてくれ! と祈るばかりだったが。

様々なシチュエーションがあるので、そう考えると今回のような市街地は当たりと言ってもいい。

 これまでやりたいことは全てやり尽くした感はあったので、さて今回は何をしたものかと模索するが何も思い付かず。――考えた末、はす向かいの本屋からライトノベル、マンガを数冊拝借して駐車場に寝そべり読書に耽ることにした。これじゃあ家にいる時と何ら変わりない。早く覚めろよ。起きろよ俺。


 ――何時間経った頃だろうか。(そもそも夢に時間も何もあったものではないが)俺は最後のライトノベルも読み終わり、なかなか良い世界観だったなぁ、とか一巻でキレイに完結しているけど続巻は出ているのか、今度探してみよう……ってここは夢だよ。夢と現実が混同してしまっているなんて俺も末期だなと苦笑してみたりと、ちょっとした読後感に浸りながら大の字になり空を仰いでいた。

 ……眠い。

 眠い? 今、俺はこうして夢を見ているというのに、夢の中にいるというのに「眠い」と感じてしまったのか。夢の中でも眠くなることなんてあるんだな。……言い替えるとそれくらい暇なのだ。

 広いなぁ、空。そういえば考えてなかったけど、今は季節的にいつなんだろう。俺の服装は高校の冬服。ブレザーを着ていると少し暑いくらいだから春の後半ぐらいだろうと思う。しかし風景に季節感というものがまるで無いので定かではない。

 もともと自発的に何かをする意欲のない俺だが、さすがにこの状況は暇すぎる。毎回どうやってこの時間を過ごしていたのか記憶を辿ってみるが、いつもこんな感じだったとげんなりしてしまう。そろそろ何かしら降ってきてもいいのだが。

 俺が自分自身の夢に愚痴をこぼしていたその時。

 空の彼方に黒い点が見えた。そう、来たのだ。遅いぞ、いつまで待たせるんだよ。どうせ今回もロクでもないものなんだろ? なんせ昨日はカシューナッツだったからな。食べ物ならまだマシだが、ギターの弦とかが来られても本気で困る。

 ……愚痴はこれくらいにしておいて。俺は空から来る謎の物体に目を凝らし続けた。

「――――」

 ん? 今何か聞こえなかったか? まあ自然が作り出した音だろう。風か何かだ。

「――――」

 またか。しかし今度はさっきより近い。

 よくよく確認すると、空からの下降物が近くになるにつれて比例して音の方も大きくなっているようだ。

 つまり、この甲高い音はあの下降物から発せられているらしい。

 だがしかし、かつてこんなこと無かったぞ。これは期待できるかもしれない。文子たちに目にもの見せてやる。

 期待に胸ふくらませる俺だったが、次に耳に入るものによって俺の期待は脆くも破壊、いや混乱するのだった。

「…………ぎゃぁぁぁああああああああああ~~~~~~!!」

 ……え。

 まさかの事態に我が目ならぬ耳を疑った。

 俺が甲高い笛か何かと思っていた音は、声だった。

 下降物もようやく視認出来る位置にまで近づいてきたところで俺は確信した。

「人が……降ってきた……」

 ん、人が降って来たことが意味不明だということに変わりはないが、あの位置から今俺が寝転がっていた駐車場……要するにアスファルトに着地――いやそんな生易しい表現ではない。着弾と言った方がいい。それが着弾したらひとたまりもないことになってしまうんじゃないかこれは。

 いくら夢であるとはいえ、自分の目の前で人間がアスファルトに直撃してバラバラになる惨事は見たくない。

 そう考えた俺はすぐさま起き上がり下降人間のキャッチを試みることにした。

 あの距離から来るのだから相当なスピードも出ているだろう。そんな隕石のようなものをキャッチして果たして俺は無事でいられるのか。一抹の不安が頭をよぎるがきっと夢が何とかしてくれるだろうと思った。楽天的というかなんというか、行き当たりばったりである。

 いよいよシルエットがはっきりとしてきた。もう十秒もすれば着弾するだろう。

 俺は一度だけ深呼吸をして衝撃に備え身構える。

 ――直後。予想落下点ドンピシャで俺はそれを受け止めることに成功した。……かに思えたがそう簡単にいくはずがなかった。もの凄い勢いで落下してきたものをまともに受けた俺の足腰は持つはずもなく無残に崩れ落ちる。それだけに留まらず倒れこんだ俺とそれは勢いそのままにアスファルトを滑り続けた。

……きっとおろし機におろされる大根はこんな気持ちなんだろうな、と場違いなことを考えていると、駐車場のフェンスに体を打ちつけた。これによってようやく俺たちは止まることが出来たのだった。

「――いったたたぁ……」

 背中を思い切り強打したせいか凄く息苦しい。しかし症状はそれくらいで、受け止めた際の足腰への衝撃やアスファルトを滑った際の擦り傷も気にする程ではなかった。さすが夢。なんともご都合主義である。

 五分もするとようやく息苦しさも無くなってきて、冷静に物事を考えることが出来るようになった。どっこいしょ、と体を起こしフェンスにもたれかかる。よし、状況を整理しよう。

 俺は大きく息を吐き出し、隣に目をやる。

 この髪の毛真っピンクの少女はなんだ。


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