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 リンの頬に、一筋の涙が流れる。と同時に、フェイとの会話が脳裏に蘇った。


 

 『ここからは、森が広がってるんですね。……逆に、どうしてここまで禿げてるんだろう?』

 『どうしてだと思う?』

 『えっ……わかりません……。フェイさんは知ってるんですか?』

 『うん』

 『えっと……じゃあ、理由を訊いても……?』

 『ん~……止めておくよ。竜族の極秘情報だと思うから』



 フェイが言っていた“竜族の極秘情報”というのは、“封印された竜”のことなのだろうか。

 「その……封印された、竜さんは……まだ……」

 「いえ……肉体は、無いでしょうね。もう五百年以上は前の話ですから」

 「そう、なんですね……。……草が生えないのは……」

 「……これはわたしの推測ですが、彼が緑竜だったことが影響しているのかもしれません。骨となっても……滲み出ている何かが……妨害しているのかも、と……」

 「……」

 「そして、今お話ししたものが、銀の一族と決別した理由となります」

 「えっ……じゃあ、もしかして、亡くなった女性って……銀の……」

 「そうです」

 シードの肯定で、全てが一つに繋がった気がした。

 「まさか、紋章術師の一族のほうでも継承されているとは予想外でしたが……」

 ――私としては、竜を封印できる能力をもつ人間が、この世にいるってことにびっくりしたけど……。

 しかしそれは、自分が閉じられた世界で生きていた所為なのだろう。

 「……あなたは、人間でいう所の『愛』を王子に感じているのですか?」

 「ええっ!? なっなっなっ……なんっ……」

 「あんまりキョロキョロすると、不審に思われて王子が来ますよ」

 ぴた! とリンの体が直立不動になった。

 こんな恥ずかしい話を本人に聞かれるのは断固拒否したい。

 「あ、あ、あ……、あぃ……とか……そりゃぁ、す、すきですけど……」

 赤面し、もじもじしながらそう告げる。

 ――どうして私はこんなところで、この人にこんな事を言わされているのだろう……。

 「なるほど。気持ちを伝えられたことはあるんですか?」

 「えぇっ!? いっいっいっいえっ……、そ、それは……まだ、です、けど……」

 「では、さっさと言ってください。そして振られてください」

 「!?」

 ガーン、と固まったリンに対し、くっ、と吹き出した声が聞こえて青い瞳を見開く。

 ――わ、わらっ、た……この人、笑った……!!

 俯いて肩を震わすシードに、二度目の衝撃を受け呆気に取られていると、眼前の男は背筋を伸ばした。

 顔はいつもの無表情だった。もう復活したらしい。

 「とはいえ、そんなことは起こらないでしょうけど。……でもまあ、王子は自分の気持ちに鈍感でしょうし、しっかり伝えたほうがいいと思いますよ」

 「あ、はい……ありがとうございます……?」

 ――私はどうしてこの人に、アドバイスを貰っているんだろう……。

 三度目の衝撃である。

 「まあ、話も終わった事ですし……戻りましょうか。あまり遅くなるとやって来そうですしね」

 再び、シードの視線を追ってバルコニーを見やると、前のめりになっているドルディノにマルクスが何かを言っている姿が映る。

 その隣にいるフェイは何事もないようにこちらを眺めているが。

 ――……告白、かぁ……。

 心臓がぎゅっと摘ままれたように息苦しくて、ドキドキする。胸の前で組んだ手を、握りしめた。

 切なそうにドルディノを見つめるリンの横顔を目にし、錆朱色を細めたシードはすっ、と歩き出す。

 「はぁ……世話が焼けますね……」

 その言葉は誰の耳に入ることもなく、風に攫われていった。




 「ふぅ……さっぱりした」

 浴室の扉を閉め、タオルで銀髪を挟みながらベッドに腰を下ろす。窓から覗く月を見上げ、ぼーっと眺めた。

 シードの言葉が、耳について離れない。

 「……告白かぁ……はぁ……」

 ――ダメだったら……そばにいられなくなっちゃうし……。でも……。

 「……よし!」

 タオルを置き、椅子にかけてある肩掛けを羽織って立ち上がると、部屋から出て周囲を見渡す。誰もいないことを確認してから、三階へ向かった。

 ドルディノの私室の前で立ち止まり、ノックしようと腕を上げ――……震える手を引っ込める。

 「っ…………」

 緊張で、心臓が口から飛び出してしまいそうだ。

 ――ダメだ……やっぱり……。

 「……、帰ろう……」

 ぽそりと呟き身を翻した瞬間、ガチャリと音がした。

 「どこへ?」

 「ひぃゅっ……!?」

 飛び上がった体を小さく丸め、ぎぎぎ、とゆっくり振り向き――……目を見開いて、固まった。

 「っど、どどどどどどっ!?」

 「しぃっ!」

 ぐいっと引っ張られたと思った刹那背中で扉が閉まり、リンは仰け反った。

 右頬すれすれに伸びているドルディノの腕を意識しながら、びたりと背を扉にくっつける。両手で口を覆ったまま、瞬きも忘れて見つめた。

 鍛え上げられ、贅肉一つない上半身裸のドルディノを。

 「急に引っ張っちゃって、すみません。その、夜だから……」

 囁かれた言葉に激しく首肯して答える。

 自分が大きな声を出してしまったため、部屋の中に入れるしかなかったのだ。

 「ふっ……服をっ……!」

 掠れた声で訴えた。

 一刻も早く服を着て欲しい。目のやり場に困る。体ごと横に向き、服の上から胸を抑え込んだ。

 そろそろ倒れそう。

 「もう大丈夫ですよ」

 柔らかい声がかかって火照った顔を向けると、とろけそうな笑みを浮かべるドルディノがいた。

 「っっ……!!」

 勢いよく面を下げ、ぎゅっと目を瞑る。

 ――ダメだドキドキして死にそう! これからどうしたらいいの!? シードさんの言うこと聞くんじゃなかったー! 

 「大丈夫ですか? リンさん。体調悪いなら……」

 頬に冷たいものが触れ、親指の腹が肌を滑る。

 息を詰め、上目遣いで灰色の双眸を覗くと、息を吸い込む音がし――……逞しい背中が、離れていった。

 ――えっ? どうしてっ……。

 「す、すみません、僕……。あ、そ、そういえば、何か話があるんですよね……?」

 「……」 

 「……リ、リンさん?」

 背を向けたまま名を呼ばれ、リンは唇を噛み締める。冷水を浴びたように心が冷え、視界が歪んだ。

 突き放されたように感じて、涙が止まらない。

 ――そんなつもりはないって、解っているのに……。

 「リンさ……っどうして泣いてるんですか!? 僕、何かしましたか!?」

 両手に優しく握り、跪いて顔を覗き込むドルディノに、口を引き結んだまま頭を振る。

 ――違うの、違うの……ドルディノさんが悪いんじゃないの。私が勝手に寂しく思っただけ……。

 「僕が何かしたのなら言ってください……リンさん……」

 優しく抱きしめられ、その温かさに、凍り付いていた心臓が再びとくとくと音を刻む。

 瞼を伏せ、空気を吸い込むと感じる、ドルディノの匂い。

 ――あぁ……本当に……。

 「私……あなたが、好きです……」

 耳元で息を呑む音が聞こえた。ゆっくりと上半身が離されて、灰色の双眸と見つめ合う。

 「…………え?」

 少し、呆けたように聞き返され、リンは右肩を掴むドルディノの手を掬いとると、その手の平に頬ずりをした。

 「ドルディノさんが……好き、です……」

 愛しい気持ちを込めてサファイア色の瞳を向けると、ドルディノは目を丸くして――……火がついたように顔を真っ赤に染め、片手で口を覆うと俯いた。

 「……ドルディノさん?」

 「……すみません、僕……ちょっと……、」

 両手に顔を埋めたドルディノが、ごにょごにょと呟く。

 「……え? 何ですか……?」

 そっと耳を近づける。

 「すごく嬉しくて……どうしよう……、僕もリンさんが好きです……あぁ……先に言わせてしまった……」

 ふっと笑いを零す。心が温かいもので満ち溢れる。「さっきシードにつつかれたのに……」と何やらぶつぶつ言うドルディノが可愛くて愛しくて、頭を包むように抱き締めた。

 「……ドルディノさん」

 「はい……」

 「さっき、どうして……背中向けたんですか?」

 「あぁぁぁ……あ、あ、あれは……あれは……い、言わなきゃダメですか……?」

 「出来れば聞きたい、です……」

 少し距離を取り、俯きがちになる。

 「っそ、その……ちょ、ちょっと、リンさんが……可愛くて、その……あの……、」

 「……え?」

 予想外の言葉に呆気にとられていると、照れて言いづらそうにしていたドルディノが何かを決心した様にぐっと身を寄せてきた。

 「!?」

 目と鼻の先にドルディノの顔があって、リンの心臓が早鐘を打つ。

 ――えっなになになに!? なんなの!?

 取られた手の甲に、ドルディノの吐息がかかり――……口づけられた。熱を孕んだ灰色の瞳に射抜かれ、息が止まる。

 「っ……ぁ……」

 心臓が破裂してしまいそうで、息苦しさに掠れ声が零れた。

 「額に……しても、いいですか……?」

 「っ……はぃ……」

 顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて、ぎゅっと目を瞑ることで精一杯で。

 

 

 額に、熱く柔らかいものが押し当てられた瞬間、恥ずかしさでも死ねると思った。

 

 

 




 翌朝、朝食を済ませた直後、ふらりとやって来たフェイがテーブルに指先をついた。

 見上げながら首を傾げるリンに一言。

 「ついておいで?」

 「あ……、は、はい……」

 「ドルディノ君もおいで~」

 「はい、分かりました」

 「俺も見にいこっかなーと」

 独り言ちて席を立ったマルクスも、先を歩く三人の後を追う。

 フェイに続いて外に出た三人は、彼が振り返ると足を止めた。

 「さて。質問だけど、リンはグレマルダにいる母親の所へ戻るんだよね~?」

 「えっ……」

 反射的に零したリンに、三人の視線が集まる。

 「それとも、ここに残るの?」

 「……いいえ。残りは、しません……」

 俯いたリンの側でドルディノが息を呑む。

 ――ドルディノさんと気持ちが通じ合ったばかりだし、本当はまだまだ一緒にいたいけど……お母さんたちのことを考えたら……。

 このまま、側には居られない。

これまで微糖どころか糖分0だったのではないか、と思っていたり。


と、いうことで今回加糖成分を突っ込んでみましたが如何でしょうか?

しかしドルディノ君の性格上、なかなか攻めにはなりませんね……(’’

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