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 「いや……これには深い訳が……」

 たじたじになりつつシードの背後に目をやれば、後頭部で両手を組みニヤニヤしているマルクスと視線が合う。

 その瞬間、悟った。マルクスには何も期待できない。彼は無言を決め込み、こちらのやり取りを観戦する気満々だ。

 「説明する気は?」

 「いや、あるにはあるんだけど……! それより、二人はどうしてここにっ?」

 話を変えましたね、と呟いたシードが溜め息を零した。

 どうやら追及するのは控えるようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 突如、空気が張り詰めた。シードの表情は真剣みを帯び、背後のマルクスは真顔になっている。

 ドルディノの体に緊張が走った。

 「……実は最近、子供たちが行方不明になるという事件が起こっていまして……」

 刹那、ミュンルの姿が脳裏に浮かんで目を見開いた。

 ドルディノの表情を窺っていたシードが怪訝そうに眉をひそめ、側にいたマルクスは視線を逸らす。

 「王子……あなた、何か知っていますね?」

 「え、いや……」

 咄嗟に言葉を濁したが、祖国で問題になっているのならば最早隠しようがない。しかし共に来たフェイとボッツに了承を取ってから全てを話したい。

 訝しそうな眼差しの深緑が迫ってきて、ドルディノはつい後ずさる。

 その時突然、森のほうから葉擦れの音が立ち、二人は一斉に注視した。

 即行動できるよう体を僅かに屈め、厳戒態勢を取ったシードの舌打ちが鼓膜を打つ。小声だろうがこんな場所で話すべき内容ではなかったと後悔が押し寄せる。しかし。

 ドルディノの視線が突っ立ったままのマルクスへ向かった。

 「マルクス。あなた、何ぼさっとしてるんですか?」

 「えー? いや何もー。まあそんなピリピリしなさんなってー」

 「…………」

 その言葉でシードが構えを解き、頬にかかった髪を払った。

 マルクスは戦闘タイプの黒竜だ。その彼が警戒もしない相手ということは、相手が弱いか争う気がないかのどちらかだと判断したのだろう。

 「おーい、出てきたらどうよ?」

 マルクスが話し掛けたと同時にパキッと枝が折れる音が響いて、木の影に身を潜めていた人間が姿を現しドルディノは息を吸い込んだ。

 「フェイさん! 今までそこにいたんですか!?」

 「や~……まぁね~」

 「ん、ドルの知り合いか?」

 ドルと呼ばれたことに一瞬言葉が詰まったが、王子と呼ぶわけにいかないからだと察する。

 「はい。丁度、捜そうと思っていたところで……」

 「……それで、聞き耳を立てていたのはどうしてですか?」

 ―――相変わらず手厳しい……。

 「あ~それについてはすみません~。ドルディノ君を見つけて声掛けようと思ったんですけど、入りにくい雰囲気だったんで、つい~……」

 若干、フェイがシードに気圧されているように見える。

 シードはストレートに発言するところがあり、実はドルディノも多少の苦手意識があったりするのだが……マルクスはその彼をも手の平で転がしているように見えるから凄い。

 「で、そのまま盗み聞きをしていたと」

 「ぐぅの音も出ません~……」

 「ぐぅー」

 え、と三人が同時にマルクスを見た。彼はくっ、と声を出して笑い、シードがわなわなと体を震わせる。

 「あ……あなたって人はー!」

 「まぁまぁ落ち着けってー。……あんまり怒ってっと早死にするぞ?」

 「それをあなたが言いますか!!」

 いきり立つシードを笑顔であしらうマルクスを見て、戦々恐々とするドルディノだった。

 「ねぇドルディノ君~」

 「わっ!?」

 いつの間にか距離を詰めていたフェイがそこにいた。驚いて心臓がばくばくしている。

 「な、なんでしょうフェイさん……」

 「この人たち、君のお仲間だよね? いつもこんな感じなの~?」

 「そうです……」

 先刻までシードに威圧されていた筈のフェイの瞳は、今やらんらんと輝いている。まるで、子供が新しいオモチャを手に入れた時のそれだった。

 暫くして、ぐるりと体の向きを変えたマルクスと目が合う。

 「なんかシードが疲れてるみたいだから俺が訊くわー」

 「誰の、せいだと…………」

 疲れが滲んだ声音で呟いたシードは、腹底から重たい溜め息をつくと口元を引き結んだ。そんな二人を見て苦笑する。

 マルクスはよくシードを怒らせているが、わざと場の空気を変えるためにやっているのではないかと思う時がある。城の重鎮たちにも同様の態度で反感を買い、最終的には彼らの意見を撒いて思惑通りに進めているのだ。

 まあ半分以上は面白がってやっているだけな気もするけれど。

 「で。ドルはどう考えてる?」

 「…………フェイさん」

 「え? オイラ?」

 予想外だったのだろう、フェイが戸惑いの声をあげた。

 「事の顛末を話してもいいですか? 少し離れたところで」

 「ああ……うん、いいよ~。ミュンルちゃんは君たちの仲間だろうしね~。というか、そうかぁ~そうなるのか~」

 一人で納得し唸っているフェイが気にはなったが、ドルディノはシードとマルクスに向き合った。

 「僕が知ってることとお二人が掴んでいる情報が繋がるのかは分からないけど、話します」

 そう告げてフェイから離れ、これまで体験してきた事をあらいざらい話して聞かせたのだった。

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