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遅くなってしまいました(汗

二話続けて投稿しています。読んで下さる方が楽しめますように。

 「違う?」

 そう言って眼前のフェイが首を傾げたが、ドルディノには聞こえていなかった。

 彼の言葉が頭の中を駆け巡り、はっとする。

 今までで二度、先程と同様に臭いが原因で体調不良に陥ったことがなかっただろうか?

 ―――一度目は、イリヤ君と出会ってすぐだ。二度目は、確か船の中で……。

 今回のことも含め、気分が悪くなったときは必ず甘い臭いがしていた……。じゃあ、あの臭いにあてられて……?

 そこでようやくフェイの存在を思い出した。彼は先刻と変わらない距離で静かに微笑んでいる。

 「……そうみたいです」

 だよね、とフェイは頷いてから後ろを振り返った。

 「というわけで。いいかなぁ~?」

 「……本当に任せて大丈夫か……?」

 「まあやってみなくちゃ分からないよね~」

 そう言われ、眉間に皴を寄せたヤルが押し黙る。

 「ボッツは~? 異論なし~?」

 「別に」

 手摺に背を預けながらそう答えたボッツに、うんうんと頷いたフェイは再びドルディノを見つめる。

 「というわけで~。頑張ってね?」

 「はい。……ところで、ギーンっていう人はどういう外見なんですか?」

 敵の懐に潜り込もうというのだ。ボスくらいは判別できるようにしておいたほうがいいだろう。

 「あ~、あいつは」

 「チビでデブの鼻持ちならんヤツだ!」

 「ど~ど~ど~ど~」

 「フェイ! だから俺は馬じゃねぇ!」

 「……背は低いが横幅に広い、つま先から頭のてっぺんまで金や宝石を身につけている男だ」

 奥に立っているボッツが静かに口を挟み、フェイは首肯した。

 「そうそう、そういう感じ~」

 脳裏に、町の中でリンに話しかけてきた小太りの男の姿が浮かぶ。

 ―――なんか、それ…………。

 「髭とか、生えてます?」

 「髭? あ~、あるかも? なに、もしかして見たことある~?」

 「……かも、しれません」

 「何? どこで見た!?」

 「お頭さんたちと宿屋に泊まった日……に、町中で、リンさんをじっと見てきて……知り合いのような感じでした」

 「それが本当なら、間違いないね。おそらくギーンだね。落ち着いてよヤル~」

 目を向けると、顔をうつむけたヤルが拳をぐっと握りしめていた。表情は読めないが激情を抑えているのは見て取れる。そして彼は怒りを吐露するように重い溜め息を吐いた。

 「……分かってる」

 「よし、じゃあ作戦を練ろうか~」

 はっとして、気持ちが引き締まった。無意識に背筋が伸びる。

 「それは、どうやって潜入するかの……ですか?」

 「うん、そうだよ~。情報によると、ドレシアの町の料亭で売買が行われているらしいんだ~」

 ―――えっ!? そこってイリヤ君と会った町…………あぁ、だからだったのか…………。

 友達と離れ離れになったというイリヤの案内で、料亭に行ったことを思い出す。その後二人は誘拐され、どこかの屋敷に囚われていたところでフェイやボッツに出会ったのだ。

 なんだかずっと昔のように感じる。

 「そうだったんですね……」

 しみじみとしていると、鼻で笑った声が聞こえ目線を上げる。と、フェイが相好を崩していた。

 「いや~ごめんごめん。出会ったのは、少年と君が牢屋に捕まって時だったなーと思って~。本当、初対面のときから君は興味深い子だったよ~」

 「そ……そうですか?」

 「うん、そ~そ~。そこに、君を売り物としてオイラが連れて行くことになるんだけど……それは後日かな~。数日に一回奴隷を集めるみたいだからね~。そしてその日がいつなのかは……ボッツ。ごめんけど、頼める~?」

 「……そうだな、明日だ。今日はもう日が暮れている」

 「だね~」

 いつの間にか日が完全に落ち、辺りは薄暗くなっていた。急に波の音が耳朶に響き、潮を含んだ風が鼻孔をくすぐる。

 突然、肌寒さを感じた。

 ―――リンさん…………心細くないかな? どこで、どんな風に過ごしてる……? 怖い目に、遭ってない……? 今すぐにでも探し出して、傍に居てあげられたら……。

 暗闇の中、銀砂のように細かく散らばって煌めく星を仰ぎ、ぐっと拳を握る。

 「……明朝、ボッツが潜入して情報収集してくれるから。……耐えてね」

 「………………はい」

 絞り出すような声音でそう答えれば、フェイも小さく頷く。

 「じゃあまた明日~おやすみ」

 「おやすみなさい」

 ボッツが身を翻し歩き出したのを合図に、ボッツとヤルも背中を向けた。少しずつ小さくなっていく背中を見てはっとしたドルディノはフェイを呼び止める。

 「フェイさん!」

 「……ん~?」

 後頭部で両手を組んだまま肩越しに振り向いた彼の、新緑の双眸と視線が絡む。

 「色々……ありがとうございました」

 緑色の瞳が柔らかな光を湛え、細まる。

 「ん」

 幾分優しい声でそう応えたフェイは、雲間から覗く月明かりに照らされながら甲板をあとにしたのだった。

 一人残ったドルディノは、再び満天の星を見上げた。

 「……早く……」

 気持ちだけが、逸る。

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