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銃騎士物語  作者: 水姫 七瀬
間章1
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間章1 解決し得ぬ悩み

少し遅れてしまいましたが、間章1をお送りします(ぺっこり




「これで……良かったのかしら?」


 溜息混じりに不安気な声を上げるカルティナ。先ほど、自室の寝台ベッドに寝かせつけてきた少女を思って、溜息をつく。


「こればかりはどうしようもあるまい? 時間が解決してくれるだろうよ」


 そんな彼女を気遣って、努めて軽く、平素を振る舞うアンガース。内心はそう穏やかではない。


「何もかも忘れてるならそれでいいじゃないか。なにか訳があって思い出せない……いや、思い出さないんだろう。今はそっとしておいてやった方が良い」


「それはそうだけど……でも!」


「パリッシュ、君はどう思う?」


 夫婦間での話だけでは解決しきれないと、安楽椅子ソファの脇で座りもせず、ただ控えているだけの痩身の女性に声を投げる。


「……私は無理に思い出させる必要はないと思います。そもそもの原因が原因だけに、このまま思い出さないのも都合が良いか、と」


 淡々と話す彼女の表情は感情に乏しく、逆に不安を掻き立てられそうだが、それが彼女の人柄なのだと理解するには時間が足りず。

 しかし、彼女の答えは否定できず、結果的にその案に乗ることにする。


「それで、あいつを養子にするってのは本心か?」


「ええ、もちろん本気です。頃合を見計らって、ですが……」


 アンガースもこれには戸惑いを隠せないでいた。

 自分達の子供として引き取っても体面上は違和感を与える事はないだろう。別に異論はない。ただ問題があの少女、長い付き合いで思い入れもある相手を、という点だった。それを考えるとなんとなく慎重になりすぎてしまう。彼の悪い癖だ。

 カルティナは真面目に返答する。何か思惑が有っての事だろうとアンガースは頷いて話の続きを促す。


「現状での大きな問題はアルファレドが残してきた2体の魔力人形メドクス・ローメでしょう。彼が魔力核を封印して来たので当面は問題無し、封印が解けても魔力核の固定魔法には『封印』が施されている。そうよね? パリッシュ」


「相違ありません。箱と魔力核その物の2重の『封印』です」


「彼の『封印』を破るなんてその辺に居る学者程度には無理でしょうし、多少放置していても構わないわ。次点はあの子。もしも、何らかの要因で、あの子の立場が知られてしまった場合、拉致される……なんてことも有り得るわ。その場合を想定するなら捜索依頼を出すにしても身元が確かなものでなければいけない。ならば手っ取り早い方法として私達の娘として引き取る方法が一番確実でしょう」


 それでもアンガースは釈然としない表情を浮かべる。


「だが、今は記憶を失って居るから良いが、もし取り戻したとしたらどうなるか……」


 そんな彼の苦悩も特に気にしないでカルティナは流した。


「喜ぶのではないかしら? 立場的には開放されたも同然だし、きっとすぐに適応するんじゃない?」


「ああ、まあ適応力は異常に高かったから、あんまり心配する必要もないか……」


 一瞬遠い目をして、苦虫を噛み潰したように顔をしかめるアンガース。話の内容枯らして悪いことではないような気はするが、彼の様子からして、余りいい思い出ではないようだ。

 そんな表情から伺い知ってか、カルティナも苦笑を返す。

 パリッシュだけがその内容について行けず、首を軽くかしげた。


「最後の問題は薬の件」


「最後の問題はそこか……」


 ふたりして、盛大に溜息をついてパリッシュの表情を伺い、重々しく口を開く。


「パリッシュは薬に心当たりは無いの?」


「無我夢中でしたので何とも言えません。貼札ラベルには何も書かれていなかったので試験薬だったのかもしれません」


「どんな薬かも判断付かなかったのに使ったのか?」


「はい。あのまま何もしなかったら絶命していました。手段を選んではいられなかったのです」


 パリッシュは、申し訳無さと不甲斐無さとが綯い交ぜに成った様な苦い表情をしていた。


「よしましょう。過程はどうあれ生きている訳だし、責めるよりも喜ぶ方が合っているわ」


 カルティナは立ち上がり、パリッシュを抱き寄せると頭を撫でた。


「ありがとう。貴女のおかげで救われたわ」


「俺も少し強く言い過ぎた。済まなかった。そしてありがとう」


「いえ……滅相も無い」


 パリッシュも思わぬ感謝の言葉に動揺はするものの、顔色は余り変える事はしなかった。むしろ感謝より責められる立場だと自分で理解をしていたからだったのだが……。

 それはさて置き、とカルティナは一息空けて自分の提案の是非を問う。


「それで、彼女を養子に迎える……という案なのだけど、誰か反対する?」


「私はカルティナ様の案に同意します」


「俺もお前の案に賛同する。もっとも、この年ででっかい子供が出来る、なんて思ってもいなかったがな……」


 軽い皮肉を言ってアンガースが諸手を上げる。アンガースは27歳、カルティナは25歳とそれなりにまだ期待の持てる年齢だ。そろそろ子供が欲しいと思っていた矢先にこれであるから人生何があるか分からぬ物だ。


「分かりました。あの子をフォレスタ家の養子に迎える方針で動きましょう」


 三人は軽く頷いて決定する。


「それで私の処遇どう致しましょう?」


 申し訳なさそうに、パリッシュが控えめに支持を仰ぐ。それを見て、カルティナが苦笑する。

 姿形は成人女性のそれだが、なんだか見ようによっては子供のようで、


「あなたも学問府研究棟に居た時と容姿は違うのよね? 名は誰かに聞かれている?」


「我が主以外には。誰からも人形ローメとしか呼ばれていませんでした」


「なら、そのままここに居てもらいましょう。あなた、家事は出来る?」


「簡単な物でしたら一通りは。主はずぼらな方でしたが手際は良かったので一通り仕込まれました」


「なら丁度良いわね。新しい給仕として働いて下さい。あの子の専属という形で」


「構いませんがよろしいのでしょうか?」


「大丈夫よ。それにあなたもその方が良いでしょ?」


「そうですね」


「それじゃあ決まりね。あの子は私たちの養子という方向で話を勧めます。今は時節が悪すぎるので公式な手続きは2月後の風の月(ファラル)にしましょう。パリッシュはこの邸で給仕として働いてちょうだい」


「分かりました」


「それじゃあ決まりね」


 両手を打ち付け、喜色を顔に浮かべるカルティナとは違い、アンガースが極まりの悪い表情をしながら頭を掻いて言った。


「しばらくは、気を使う生活になりそうだな」


「あらどうして?」


「俺の姿を見たらまた怯えるかもしれん。だから落ち着くまで様子を見る」


 アンガースはその大きな身体を長安楽椅子(ソファー)に更に沈めて言った。


「女の子の泣き顔は苦手なんだよな……」


 存外、アンガースという男は過ぎた堅物だったらしい。

 長い間、夫婦として生活を共にしていた夫の意外な一面を見て、カルティナは複雑な表情を浮かべるのだった。






                    ――> End Of Between chapter 1.

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



少し遅れてしまいましたが、間章1をお送りして、第2章に移っていきたいと思います。

多分次は日曜日に更新の予定です。

その前にもう一つの方の連載を更新できれば……いいなぁ……(白目

それでは次回もよろしくお願いします。

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