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銃騎士物語  作者: 水姫 七瀬
第1章 記憶喪失の子供
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第1章 第4話 心許せる人

連日に近い更新なんて久しぶりかもしれません。

皆さんこんばんは。

新しいお話をお送りいたします。



「う……ん……?」


 頭が痛い……。

 それに……なんだか気持ち悪い。

 ボク……一体どうなったんだろ?


―― じゃらり


 左手で頭を抑えようとして、金属が擦れ合うような、重苦しい音が耳元で聞こえた。

 なんとか体を起こして見ると、どうやら左腕は手枷をはめられてるようで。先をたどると、寝台(ベッド)の足に繋がれてるようだ。


 結局、ボクは捕まっちゃったんだ……。

 そうだよね、あれだけの人に囲まれて、何事もなく見逃されるなんてありえるはずがない。


「なんとかこの枷……外れないかな?」


 左腕にされた手枷をいじろうとして、即座にやめた。いや、諦めたが正しいんだけど……。

 右腕もろくに動かない現状で、手枷なんて外せる訳がない。


 もう、ボクは逃げることもできないんだ……。


 急に、怖くなった。怖くて怖くてしかたない。


 もうボクは、抵抗さえ許されてなくて、死さえ受け入れるしかないんだ……。


 そう考えたら怖くて怖くてしかたない。


 さっきボクは、しようと思ってしたわけじゃないけど、人を殺しそうになった。そんな人間、生かしておく意味が無い。

 さっきの人たち、死んでないよね? 死んでないと良いな……。


 いや、もう考えるのをやめよう。無駄に考えてしまうから苦しいんだ。

 もう、なにがあっても逃れられないなら……全て受け止めよう。ただ、あるがままに……。


 ため息をひとつ吐いて、窓を見る。と、木々の間から蒼い月の光が微かに差していた。

 とても綺麗で、それでいて包み込むような優しい光だった。


 誰だっただろう、『蒼い月は月精霊神(ペリコース)様の慈しむ心、悲しいことがあったら蒼い月を見あげなさい。きっと癒してくれます』と声を掛けてくれた人。

 

―― 蒼い月を背にボクを見下ろす、髪の長い女性。


「母さま……」


 何気なくつぶやいた言葉に驚き、思い至る。

 鏡に映った自分の姿は、まだまだ小さな子どもだった。

 もしかすると、親元を離れる年齢を迎えているかもしれないけれど、まだまだ年端もいかない上に貧相で、どう考えても独り立ちできているようには見えなかった。

 さっき、頭に思い浮かんだ心象(イメージ)、あれはボクの母さまだったのだろうか……。

 分からない。思い出せない。確かにさっきの心象はボクの記憶だったはず……。そう断言できるくらいに確かな心象。


「――っぅ……ひっく……」


 どうしてだか分からないけど、涙が止まらない……。


 ぼやけた視界を左腕で拭う。

 不安、恋慕、焦燥、全てがないまぜで、頭がおかしくなりそう。


 ただ、声だけは上げて泣いてやらない……。それだけは嫌だった。

 寝台に倒れ込み、顔を枕に押し付けて――


「~~~~っ……」


 息を押し殺すかのように泣いた。


 これからボクは……どうなるんだろう?


 口に出そうとした言葉。飲み込み、さらに声を押し殺す。

 不安への問に答える者は誰も無く、ずっしりと心に沈み込んだ。



 ■◇■◇



―― がちゃ


 どれ位経っただろうか、不意に扉の取っ手(ノブ)を回す音が聞こえた。


 誰か……来た?


 恐る恐る、枕から顔を離して、扉を見る。と、ゆっくり開いていく。


「……で、今は任せては頂けないかしら?」


「あなたがそう言うのであれば」


 半身を起こし、警戒する。


 部屋に入ってきたのは女の人がふたり、らしい。陰影と、髪の長さでそう判断する。

 部屋の外からの光に照らされて、金と銀という対照的な色をした髪を持ったふたりに見えた。

 目を凝らして見ると、片方の女性と目が合い、戸惑う。

 なぜか彼女はとても嬉しそうに、顔を綻ばせた。 


「あらあら、起きているみたいよ?」


「本当ですか?」


「Do-Flass Lagiatto-Meyka.」


「ふぁ!?」


 良く分からない言葉が聞こえた瞬間に、壁の照明器(ランプ)が一斉に灯って目が痛くなった。

 暗い部屋に慣れすぎたのかも……。


「驚かせてしまったかしら?」


 凄く優しそうな声だった。


 目を開けると、金髪の女の人が寝台の端に座って、こっちを見ていた。とっても優しそうで……それでいて、なんだか表情が硬い。

 その後、銀髪の女の人が椅子を持って来て、寝台の脇に立てて座った。

 そっちの女の人は表情が無くて良く分からないけど、とても心配しているように見える。不思議なことに、ボクにはそう見えた。


「お姉さんたちは? 誰?」


 覚えのない人たち、心配そうに見つめるこのふたり、ボクのことを知ってるんだろうか?

 ボクの言葉を聞いて、ふたりは顔を見合わせると悲しそうに顔を陰らせた。


「覚えてない……のね……」


「そのようです」


 やっぱり、そうなんだ。

 この人たち、ボクのことを知ってるんだ。


 どういう経緯かは知らないけれど、少なくとも、ボクがこの人たちに心配してもらうくらいの、それくらい親しい関係だったのかもしれない。


「ああ、ごめんなさいね。私の名前はカルティナよ」


「私はパリッシュです」


 金髪の女性は微かに震えながらも凛とした声で、銀髪の女性は重々しい口調で名前を語った。


 本当は知っているはずなのに、全然覚えが無い……。

 情報を正しく受け止めるなら、ボクはこの人たちと知り合い。

 だったら、ボクはどう声をかければいい? 第一声はなにを語ればいい?


「ボクは……ボクは……」


 言葉を必死に探して、なにも思い浮かばなかった。

 ううん、いっぱい浮かぶ言葉はあるけど、どれもがボクの心からの言葉じゃなく、上辺だけ。


「良いのですよ? 今は無理に思い出さなくても」


 カルティナと名乗った女の人が微笑みながら首を振る。

 微かに被るさっきの心象(イメージ)――。


「か――っ」


 思わず口に出しそうになって、固く唇を閉ざし、うつむく。


 思わず、「母さま」と呼びそうになった。他人のはずなのに……。


 そんな、疑問も頭を振って追い出す。


「でも……」


 無理に思い出さなくても良いって言われたけれど、それは建て前なんじゃないだろうか。本当は思い出して欲しいんじゃないかな?


 少しだけ、視線を上げてふたりの顔を見る。


「そうですね。あなたと私の母が双子の姉妹、という関係であったとだけ付け加えておきます」


「ふぇ? 母さまが双子? でお姉さんが……えっと?」


「私とあなたはイトコという間柄に当てはまるでしょうね」


 ボクとこの人は肉親関係……。

 確かにこの人の髪の色はおんなじで、ボクの左目とこの人の両目の色もおんなじだ。顔つきも少し似ている、と言えば似ているかも知れない。


「半分ですけれどあなたと同じ血を引いているのです。それではいけませんか?」


 この人、にっこりと笑っているが雰囲気は有無を言わさない。


「……いえ……」


 期待から……だろうか? それとも他に何かの要因があったのだろうか? ボクはいつの間にかふたりの女性の言葉を信じる気になっていた。

 一拍置くとカルティナさんが徐に口を開いた。


「それで唐突な提案なのですが、あなた、私の養子になりませんか?」


「え……?」


 一瞬、何を言われたのか理解が出来なかった。

 この人はなんて言ったの? ヨウシ? え~っと、養子? この人の子供になる? つまり、家族になるってこと? ボクが?


「率直に言いますと、もう少し歯に衣を着せる事をお勧めします」


 パリッシュと名乗った女の人が呆れて溜息を吐いた。この人達が一体何を言ってるのか分からないよ……。


「何言ってるの~? どうせ切り出すんだもの。遅いも早いも無いじゃない? あなたもそう思うわよね~?」


 見た目からして、年甲斐も無く可愛く首を傾げて同意を強要してきてるけど、本当に同意していいの? とりあえず、カルティナさんの目をじーっと見つめる。

 うん、嘘は吐いていない……と思う。

 でも、どう判断していいかわからないよ……。

 一応小さく首を振っては見たもの、自信がなくてそのまま、こてんと首を傾げてしまった。


「ほら、カルティナ様。全く理解して居ませんよ?」


「みたいね」


 まるで当たり前のように、優しく接してくれるふたり。

 嬉しいと感じる反面、申し訳なくも思う。


「でもボク、いっぱい人を傷つけちゃったよ?」


 ボクはこの人達のことを散々傷つけた。逃げる為とはいえ、女の人を傷つけ、男の人達を苦しめた。

 今でも男の人達が苦しむ様を思い出すと身体が震えそうだ。思わず右手を掴んで痛みを堪える。

 きっとボクが今感じる痛みより、彼らのほうがずっと痛かったはずだ。


「大丈夫、気にしなくて良いわ」


 右腕をつかむボクの左腕にそっと手を添えて、カルティナさんが微笑む。


「みんなちょっと気絶しただけで大事にはなってないから」


「本当?」


「ええ、本当よ?」


 良かった、大した怪我はしてないってことを聞いて安心した。


 後は……ボクの処遇……について……か……。


 養子になるという言葉は確かにボクにとって優位な話。それでも無視できないことがひとつある。


「でも処分されるって……」


 廊下で聞いたその言葉、『処分する』。その言葉の真意が読めない限り、油断できないような気がする。いや、しちゃいけないんだと思う。

 しかし――


「処分? 何それ?」


返ってきた言葉は以外な一言で、目の前の女性はなにも知らないといった、あっけに囚われた表情をした。


「ろ、廊下の給仕さん達が『可哀そうだけど、処分』って……」


 確かにそんなことを言っていたはず……なのに、目の前の人は顔を引きつらせる。


「誰よ? そんな事言ったのは!?」


 行き成りの怒声。

 行き成り過ぎて、怖くて身体を震えた。


「ああ、ごめんなさいね。ついつい……」


 ボクを気遣うように笑って見せるカルティナさんに少し躊躇ったけど頷いてみせる。


「大丈夫、お姉さんがそんな事にはさせないから!」


「本当に……? ボク、信じてもいいの?」


「え、ええ……」


 控え目に見上げると、ふたりが顔を見合わせてこそこそと耳打ちをし始める。


「あの……?」


 こっちの反応お構い無しで、少しだけ興奮した様子で、時折こっちを振り向いてはこそこそと。おまけになんだか嫌な予感がして、寒気がするようなしないような……。


「あの~、カルティナさん? パリッシュさん?」 


「ああ! ごめんなさいね? むしろお母様って呼んでも良いのよ?」


「それは早すぎます!カルティナ様!」


 いきなりお乗りだすように叫ぶカルティナさん。顔がすごく近くて、血走った目が怖いんですけど……。


「それはそうとあなたの名前、まだ決めてないわね」


 名前を決めてない? それってどういうこと?


「ボクには名前がないってことですか?」


「いえ、有るんですけど……。あなたの本当の名前、訳有って使う事が出来ないの、ごめんなさいね」


 申し訳なさそうに言うカルティナさんに首を振る。

 ボクの身なりからしてどう考えても訳有りで、多分ボクの身を按じてのことなんだろう。そう思うことにする。

 ごめんなさいね、と言うカルティナに少女は首を振る。


「そうね~……う~ん……」


 カルティナさんが唸りながら腕組みをして考え始めた。


「そういえばあの時……確か……」


 そうね、と小さく頷くと、ボクをまっすぐ見据えてカルティナさんが口を開く。


「アリシア! アリシア、ってどうかしら?」


「ボクの名前は……アリシア……?」


 アリシア……。なんだか聞いたことあるようなないような名前……。


「うん、アリシアよ?」


 でもなんだかちょっと違うような? そんな気がするのは、本当の名前と違うから?

 ん……? アリシア? あれ? なんだかこの名前、女の子の名前に聞こえるけど……間違いなんじゃ……。


「良いお名前ですね」


 あれ? ちょっと、ボクの聞き間違いじゃなくて本当にその名前なの?


「あ、あの――」


「これからよろしくね。アリシアちゃん」


 カルティナさんがボクの頭を優しく撫でる。少しだけくすぐったくて、気持よくて、そして安心できる心地良さ。

 なんだかさっきの、母さまの心象(イメージ)と今のカルティナさんが重なって見えて、少しだけ、心の内もくすぐったく感じる。


「う、うん……? こ……これから、宜しくお願いします」


 困惑しながらも、これからお世話になるふたりに、頭を深く下げたのだった。






                    ――> To Be Continued.

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



初めは少し駆け足で、少しずつペースが落ちていきそうな嫌な気配(ぇー)

とりあえず次回更新分で第1章が終了する予定。

そこからは過去掲載分とは少し流れの違った新しいお話を差し込みながらの連載になります。

よろしくお願いします(ぺっこり

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