第2章 第3話 振り回す身勝手な大人たち
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
なんとかスランプを脱しそうです。
いえ、スランプじゃなかったです。お仕事でした!
落ち着いてきたのでこっちを更新していこうと思います。
と言うわけで、実に半年ぶりくらいの更新ですがよろしくお願いいたします。
「さあ、脱ぎ脱ぎしましょうね~? アリシアちゃん」
パリッシュさんにがっしり肩を掴まれて、それに加えて右手は自由にならないし、左手も衰弱していて力が入りづらいボクには抵抗する手段はあまりにも少ない……。
「いっ、いやだぁ……。やっ、やめてよぉ……」
きゅっと左手で掴んで貫頭衣の裾を引き下げる。
「嗚呼、年端もいかない幼く可憐な少女が恥らいながら、弱々しく貫頭衣の裾を引き下げてもじもじする姿……たまりませんねぇ……」
「あなた、なかなかいい趣味をしてるわね……。でも、その通りよ!」
カルティナさんとリタさんが良い笑顔でひっしと固く握手して頷きあう。
嫌がるボクの味方は……マルカさんだけだ……。
「じぃ~……」
カルティナさんの近くに控えているマルカさんを“助けて”って意志を込めて見つめてみる。
「はわぁ~……」
なにを勘違いしたのか、マルカさんがほんわりした幸せそうな顔をしてボクを見つめる。
上を見ると相変わらずパリッシュさんは鉄面皮……。いや、違う。ふいっと目をそらされた! 今ふいっと目をそらされたよ!?
やっぱり僕の味方はこの場にいなかったんだ……。
「さぁ、いざ見えん! 少女の露わになった美しき肢体を」
「さあさあ、御開帳といきましょう! えへへへ……」
わきわきと蠢かせながら両手を突き出し、迫りくるふたりが怖くてたまりません。
「あわわ……」
じりじりと迫りくる変態の恐ろしさにぎゅっと目を瞑る。
「いっ、痛く……しないでください……」
いや、こうね? 無理やり脱がされることになったら右手の怪我とか、痛くされそうだったから思わず言った言葉なんだけど……。
「はぅっ!? アリシアちゃん……どこでそんな言葉を……!」
「ぶふっ!? 鼻血がっ、鼻血がっ……食べてもいいですか? 食べてもいいですよね?」
「はわわわわ~~~~……」
大人が変な事を言いながら騒ぎ始めて、怖いけど薄目を開けて様子を見る。
「え゛……?」
カルティナさんは鼻を押さえながら身悶えて、リタさんは手の隙間からぼたぼたと鼻血をこぼしながら顔をそらして前傾姿勢、マルカさんにいたっては鼻血を垂らしながら昇天していた。
間違いないです。この人たちは――
「……変態だ……。変態がいるよぉ……」
その余りにも酷い眼前の光景に顔を引きつらせて呆然とする。
「さあ、今度こそ、今度こそよ……」
鼻血を垂らしながらにじり寄るリタさんが、ボクの貫頭衣の裾をゆっくりと引き上げた。
ボクはもう全てを諦めて、されるがままに貫頭衣を脱がされる。
「――ッ!?」
目の前で詰まらせるようにリタさんが息を飲んだ。
「……これは……」
貫頭衣を脱いで、下穿きと包帯だけになったボクの身体を見て、一瞬にしてリタさんが顔を曇らせる。
治療を受けたとはいえ、右大腿部は未だに紫色に変色したままで、右腕にいたっては血が滲んで変色した包帯できつく巻かれている。おまけに痩せこけて丸みも無ければ肋骨まで浮き出ているくらいの発育不良に加えての栄養不足だ。さぞや精神的な衝撃を受けたのだろう。
「おっ、お嬢様、調子に乗りすぎました……。申し訳ありません……」
顔色を悪くしたリタさんが盛大に頭を下げた。
別に、ボクはこれを見せたくなくて渋っていたわけじゃない。単純に女の人に裸を見られるのがすごく恥ずかしくて見せたくなかっただけで……。この人にこんな顔をさせたかったわけじゃない。
「そんな……謝らないでよ。ボク、恥ずかしいけど……そんなに裸が見たいなら我慢するから……」
ちょっとだけ恥ずかしくて伏し目がちに上目使いで見ながらそっと呟く。
「その言い方は卑怯よっ!」
いきなりぶばっと鼻血を噴くカルティナさんにドン引きだよ!?
もう、いちいちボクの身体の採寸の為に血をまき散らし過ぎ……。
「大丈夫なの? 貧血で倒れたりしないの? 倒れてもそこの棚に増血服飲薬があるから大丈夫だと思うけどさ……」
「……へ? マキュアーズがわかるの!?」
何気なく口にした言葉にカルティナさんが食い入るように見つめられて、身体が強張る。
「わかるもなにも、良く作って……たし? あれ? 作ってた? ボクが……あれを……?」
思わず口走ってたけど、記憶のないボクが当たり前のように『作っていた』と言い切ろうとしていた。
つまり、記憶をなくす前のボクは薬を作るような人だったのだろうか? こんな痩せ細った浮浪児のボクが……?
「う~ん……謎?」
首をかしげて考えていると――。
「へにゃあっ!?」
いきなりヒヤッとしたものが腰に触れて驚いて変な声をだしてしまった。
「腰の寸法は約41ヴィレット……」
下を見たらいつの間にかリタさんが巻き尺をボクの腰に巻きつけて計測していた。
「次は胸ね、下は――」
「ひゃっんっ、ちゅめたっ」
いきなり脇下に冷たい感触がして悲鳴を上げる。そして――、
「頂は――」
「ひゃいんっ!?」
胸の先っぽに冷たいものが擦れて悲鳴以上に恥ずかしい声が出て顔が熱くなる。
なんて声出してるんだよ? ボクは……。
どきどきばくばくとうるさく聞こえる鼓動が、周りの人にボクの心を見透かさせようとしているようですごく恥ずかしい……。
なにもしていないのに、悲しいとも嬉しいとも、そして痛いとも感じていないのに、視界が涙でぼやけているようだ。
羞恥でも涙が出るんだ……。
そう頭の中で冷静に分析している自分がいる。
当のボクは涙を浮かべてぐしぐしいってるんだけどさ……。
「おっ、お嬢様? 泣かないでください。お嬢様はまだ発展途上です。必ずやその胸は未来への希望で大きく膨らむことでしょう! カルティナさまを見てください! 大きいでしょう? きっとお嬢様も――」
「そういう問題じゃな~~~~い!」
なにを勘違いしてるんだ! この人は。
「そもそもボクはおと――……」
叫びかけた言葉をぐっと呑み込む。
ボクが呑み込んだのは『ボクは男だ』という言葉……。
今の自分の身体を見下ろしてため息をつく。
肋骨が浮き出るくらい痩せ細り、生っ白い肌で微かに……というか微妙に膨らみかけた胸。なにより男の子の股下にあるアレがあるようには見えない、すこし緩くだけど女性ものの下穿きに包まれた下腹部。
どう見ても男とは言えない。
「う~ん、胸の肉付きの問題は脇に置いておきましょう。そもそも栄養失調気味だからこのままでは解決できないし、まずは食事療法で体質改善ね」
ちょっとカルティナさん、無抵抗だからってボクの胸を触らないでください……。
「そうですね。お尻の肉付きも良くなっていくでしょうし、これから女性らしい体つきになっていくでしょうね」
ちょっとリタさん!? なにどさくさに紛れてボクのお尻を撫で回してるの!?
「はわわ~……でもお肌はすべすべですよ~?」
ていうかマルカさんはどうしてボクのお腹に頬ずりしてるんですか!?
考え込むボクを、抵抗を諦めたのだろうとでも思っているのか、好き勝手にもみもみとかさわさわとかすりすりとかしながら変態たちが議論を交わす。
「い~い~か~げんに~しろ~!!」
―― ばちんっ!
「はきゃっ!?」「ぴぎゃっ!?」「はわっ!?」
破裂音と共にボクの周りに一瞬だけ紫電が走り、三人とも短く悲鳴を上げてびくんと仰け反り、ひっくり返る。
「……あれ?」
気付いたら、ボクをいじり倒していた三人が痙攣しながら床で寝ていました。
「……カルティナさま? 床でお眠りになりますとお風邪を召されますよ?」
上から無感動なパリッシュさんの声が聞こえて慌てて見上げる。
「……パリッシュさんは……どうして大丈夫なの?」
「慣れていますから」
平然と言い切るパリッシュさん。
慣れで顔色も変えずに平然と耐えられるものじゃない気がするんだけど……。いったいこの人は何者なんだ……。
■◇■◇
あれから半刻ほど経って、やっとボクの身体の計測が終わった。
「お嬢様の身体はお尻が約54ヴィレット、腰が約41ヴィレット、胸下が約49ヴィレット、頂が約51ヴィレットになります。身長は1レクス15ヴィレット、その他詳細については細評書にまとめましたので参照してくださいね?」
「ええ、これでこの子の身の回りの物を揃えられるわ」
艶々とした笑みを浮かべてカルティナさんとリタさんがなにかを取引し合っていた。
ボクはぐったりと寝台に横になりながら、枕を抱き締めて睨みつける。
まさか、股上の詳細を調べるために持ち上げられて子供がお小水するかっこうまでさせられるとは思わなかった……。いくら体に合った下穿きを作るためだったとはいえ恥ずかし過ぎて3回も雷が落ちたのは言うまでもない……。
恥ずかしくて顔が合わせられないよ……。
「とりあえず、体の肉付きが良くなるまでは緩い服を作り、頃合いを見て寸法を詰めましょう」
「そうね、いずれこの子も着飾ることを考えたら……」
そこまで言ってカルティナさんとリタさんがくるりと振り返り、寝台に横になったボクに詰め寄る。
「ひっ……」
「とっても可愛い服を着せてあげないと……ねえ?」
「そうです、カルティナさま! 可愛らしい娘さんには可愛らしい衣装をぜひにでも!」
再度がっしり握手を交わすふたり。
もうやだ~……このふたり、暴走しすぎだよぉ……。
詳細詰めるふたりを枕越しで呆れ交じりに見ていると、リタさんがこっちを見る。
「カルティナさま、お嬢様は抱き癖とかありませんか? お嬢様の身体に合った大型枕なども用意できますがっ!」
「良いわねぇ。いえ、むしろ、可愛い娘には縫い包みを抱かせてみたいわ!」
「それは……いいですねっ! 今度来るときはハイルロッド名物のファラディス熊の縫い包みを作ってきますので是非ご贔屓に――」
「しなくてもいいっ、のっ!」
ボクは力の入らない左手で枕を掴んで思いっきり2人めがけて投げつける。枕は歪な放物線を描いてぽてっとリタさんに当たって床に落ちた。
「ボクのこと……なんだと思ってるの!?」
心底怒ってるんだぞ! と言おうとしたところで――。
「照れ隠しに枕を投げるお嬢様、可愛いですよ~……はわ~……」
ほんわりした顔でマルカさんに言われて、恥ずかしいやら脱力したやらで、横になりながら蹲った。
もうみんな……大っ嫌い……。
その後、リタさんは苦笑しながら帰り、へそを曲げたボクのご機嫌を取ろうとしたカルティナさんやマルカさんが慌てて宥めすかしていた。
ただひとり、パリッシュさんだけがなにかを言いたそうにしては居たけど、無言のままにじぃっとボクを見ているだけだった。
――> To Be Continued.
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
なんとか調子が戻ってきた気がします。
そもそも、書きたいものがなんなのか分からなくなって迷走していたこの一年。やっとWeb上で連載したいものはなんなのか、という結論を見出した気がします。
原点回帰とか言いますけど、とりあえず書きたいものを書けばいいよね?
って感じに書いていこうと思います。
とりあえず作中解説。
『ヴィレット』と『レクス』は尺単位です。
1ヴィレット=約1.2センチ
1レクス=約120センチ(1.2メートル)
単位を比較すると、
アタ・ヴィレット=約1.2ミリ
1ヴィレット=約1.2センチ
1レクス=120センチ(1.2メートル)
タタ・レクス=120メートル
といった具合ですね。
これを基に計算すると、アリシアの体格も自ずとわかるものです。




