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第4章 居酒屋とエロ電波男について その2

「この紙に、頭に思い浮かんだ二桁の数字を書いてみて。書いたら頭にあてて強く念じてから裏返しで私の前においてちょーだい。それを私が、裏返しのまま、テレパシーの力であててみせます!」



 そう言いながら、持って来たトランプ大の厚紙を皆に渡した。まるっきり本当のことなんだけど、こういう風に言うと手品としか思われないんだ。


「ペンは一本しかないのよね。誰から行く?」


「じゃ、俺からいくよ。」



 トップバッターを買って出たのはイエスだった。紙にさらさらとペンを走らせると、額に押し当ててから、裏返して私の前においた。



「これで当たったらすごいな」


「フフン、それが当たるのよ」


 裏むきのまま紙を触って、残留思念を確認した。伝わってくる数字は、


「34!」


 カードを裏返して数字を見る。そこには、大きく「34」と書かれていた。



「えーっ、ジャスミンどうやったの!?」


「うそだろ! どういうことだよ」


「あーイエス(仮名)、おまえジャスミンと二人で組んでるんだろ」


「ちげーよ。34って、これ彼女の誕生日、3月4日」



 みんな、びっくりしている。そりゃそうだ。タネもシカケもないんだから。



「じゃあ、今度は俺ね」


 次に名乗りを上げたのはオヤジだ。


「でも、いざってなると数字って思いつかないな……よしこれでどうだ」


 ぶつくさ言いながら彼が頭に思い浮かべたのは、


「ふふふ、オヤジ(仮名)さんは18」


 カードをめくると当然「18」だ。


「マジかよ、あたってる」


「スゲー」


 不思議に思って聞いてみた。


「18って何の数字?」


 するとオヤジさんは頭を掻く。


「……いや、そのくらいの歳の子が一番好みかなって」


 私は内心で頭を抱えた。もしかして、彼がエロ電波男なんだろうか?


「わかったわよ、もう。聞いた私が馬鹿だったわ、はい、次の人」



 今度は、ホストが数字を書いた。


「じゃあ、俺の番ね。これ、あててみて」


 なんだか、自信満々の笑みだ。紙に触って、残留思念を確かめる。そこに書かれていた数字は……


「ホスト(仮名)くんのは、69」


 カードをめくる。正解、69だ。


「すごいな、紙に仕掛けがあんの? で、69ってのは何かっていうと、俺が一番好きな数字ね」


「誰も聞いてないわよ、そんなこと」


 やっぱり、エロ電波男の可能性が一番高いのはこの男だ。


「じゃ、ジャスミン……さん! 僕も、お願いします!」


 ドMの思念はわかりやすい。


「キミのは、42」


「僕が一番好きな数字は、ジャスミンさんの出席番号です!」


 周りの男どもが囃し立てる。


「ヒューヒュー!」


「ドM、おまえ言いやがったな」


「それ告白のつもりか?」


 なんだか、だんだん数字をあてるという手品の主旨から反れてきてない? せっかく私がとっておきの技を披露しているってのに。


「あんたたち、もう少し驚きなさいよ。こっちはさっきから百パーセント的中させてるじゃない。不思議でしょ」


 私が抗議しても、みんなは聞く耳を持たなかった。


「でも、手品なんだろ」


「どっかにタネがあるわけだしなあ」


「なんか、前にテレビで見たような気もするし」


 なんて連中だろう。やっぱ男ってのは、どうしようもない生き物だ。こんな奴らを相手にしても仕方がない。


「いいわよいいわよ。今度はサクラの番よ」


「う、うん、……ジャスミン、はい」


 サクラが渡してくれたカードに手をかざす。浮かんだ数字は、27だ。


「えっと、サクラのは、27」


 自信満々に答えると、サクラは眉をひそめた。


「えっ? ……ちがうよ」


 めくったカードに書かれていた数字は、22。


「そんな、うそ」


「22って、私の歳なんだけど……」


 おかしい。はっきり27って浮かんできたんだけど……そうか、きっとサクラが酔っ払ってるせいだ。酔っ払って意識が朦朧としてる人の考えてることは読みづらいのよね。


「おいおい、失敗しちゃってるじゃん」


「きっと、その辺に手品のタネがあるんだろうな」


「へー、ジャスミンさんでも間違えることがあるんだぁ」


 男どもは、急に面白がって騒ぎ始める。チェッ、さっきまで興味ないって態してたクセに。



 まあ、いい。どうせここまではネタ振り。肝心なのはここからだ。


「じゃあ、今度はもっとすごいの見せてあげるんだから。いい? これからみんなに一枚ずつコインを渡すわよ。そうしたら、しばらくそのまま握って」


「しばらくって、いつまで」


「うーんと、この親睦会の終わりまで。そしたら最後に、あっ驚くテレパシー手品第二弾をして見せます」


 どういう原理かはわからないけど、金属製のものには残留思念が残りやすい。だからコインを握らせて後で回収すれば、飲み会の間にみんなの考えていたことを追跡することができるってわけだ。


「会の終わりって、それ長くねぇ?」


「僕、死ぬまで握ってます」


「死ねよ」


 我ながら、ナイスな作戦だ。惚れ惚れしていると、サクラが目の前に手を出してきた。


「ジャスミン、わたしのコインは?」


 あ、しまった。


 サクラに尋ねられて、わたしは思わず顔をしかめた。うっかり彼女の分のコインを用意してなかったんだ。だってこれは「エロ電波」男を発見するのが目的だから……。



「ええと、サクラの分はないっていうか、いらないっていうか」


「ジャスミン、ひどい! わたしだけ仲間はずれにするなんて」



 サクラは怒って立ち上がると、居酒屋のドアを開けて外に飛び出していった。


 居酒屋のサンダル履きのまんまだ。


「ちょっと待ってよ。どこいくの!?」


 慌てて彼女の後を追う。


「みんな、ちょっとごめんね。そのコイン握っててよ」


 背中にドMくんの声が響いた。


「死んでも握ってます!」


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