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第4章 居酒屋とエロ電波男について その1

「なんで、ジャスミン(仮名)さんって、サクラ(仮名)さんからジャスミンって呼ばれてんの?」



 数日後のことだ。


 大学の近所の居酒屋で、私たちの班の「親睦会」とやらが行われていた。


 私はお酒を飲まないので、生まれてこのかた飲み会とかコンパとかいうものには参加したことがなかった。


 今日、ここにいる理由は二つ。


 一つは、サクラが、「親睦会」に出たいといったためだ。まさか、彼女ひとりを酔っ払った男どもと何時間も一緒にさせておくわけにはいかない。


 そしてもう一つは、「エロ電波」男の正体を突き止めるためだ。私一人だったらいままでどおりじっと我慢することもできた。でも、貧乳の私にですら、あれだけのエロ妄想をする変態野郎だ。サクラ相手なら、どんだけの劣情を催しているか想像もつかない。そしてそれが、いつ妄想の枠を飛び越えて現実に爆発するかわからないんだ。


「エロ電波」男の正体は、私が絶対に暴く。


 そのための秘策もばっちり立ててあった。


 とはいえ、飲み会ってのはなんてくだらないんだろう。いい年した若いもんが、狭くて汚い居酒屋の座敷にすし詰めにされて、ただだらだらとくっちゃべって、何が楽しいのか。



(でもまあ、そのくだらない会話の中に「エロ電波」男の手掛かりがあるかもしれないんだもんね。ちゃんと聞いておかなきゃ)



 そう思って、聞き耳を立てていたときに聞かれたのが、冒頭のセリフだった。



「なんで、ジャスミン(仮名)さんって、サクラ(仮名)さんからジャスミンって呼ばれてんの?」



 聞いてきたのはイエス。アメフト部でクリスチャン。男子四人のなかでは一番まっとうな人物だ。その彼が、他の男子から促されるようにおずおずと切り出してきた。そりゃ、驚くよね。バリバリの日本人がいきなりジャスミンだもんね。


 どう答えようか迷っていると、サクラが爆弾発言をした。



「そんなの愛しあってるからに決まってるでしょ。ねー」



 ウーロン茶を噴いた。みると、班の男子全員が何かしらを噴いている。



「な、何言ってるのよ。サクラ、あんた大丈夫?」



 サクラは乾杯の直後からかなりテンションが高かった。意外にも、お酒は嫌いじゃないんだそうだ。


 彼女は、胸元が大きく開いた丈の短いワンピースを着ている。色は淡いピンクで可愛いけれど、ちょっと大胆すぎやしないだろうか? 一応レギンスは穿いているけれど、胸の谷間はかなり目立つ。

 おかげで私はサクラを壁際に座らせ、自分はすぐ隣に座って男どもからがっちりガードしなきゃならなかった。



 とりあえず、弁解した。



「ええと、サクラが私のことをあだ名で呼びたいっていうからね。ジャスミンって、中学・高校のときのそう呼ばれてたのよ」



 すると、オヤジがそうじゃないと言わんばかりに口を挟んだ。



「だから、その、なんでジャスミン(仮名)さんは、サクラ(仮名)さんのことサクラって呼んでるの? いつのまに、そんなに仲良くなったの?」



 オヤジさんは、学士入学で私達より三歳年上の二十三歳。男子からも一人だけさんづけで呼ばれている。



「わたしはジャスミンの愛人になりたいんだけど、ジャスミンが冷たいからお友達で我慢してるの」



 また、ウーロン茶を噴いた。


 驚きで声も出ない私に、完全に酔っ払ったサクラは腕を絡めてくる。できるだけ接触テレパスを生じないようにエナメル素材のジャケットを着て、かつ直接肌には触らないように微妙に距離をとっているけど、ここまで接近されるとは予想外だった。



「さ、サクラ、もう酔っ払ってるの?」



 彼女のつけている香水だろうか。甘い匂いがして、ウーロン茶しか飲んでいないこっちまでクラクラしてくる。今日は、「エロ電波男」を突き止めるためにきたっていうのに、もうすっかりそれどころじゃなくて、誰が何を喋ったか追いかけるのでやっとだった。



ホスト「ジャスミン(仮名)さん、クールだからねえ」


 ホストは、イケメンの女たらし(という噂)。


オヤジ「サクラちゃん、それはしょうがないよ。ジャスミン(仮名)さんに撃墜された男は、四年間で両手超えてるから。」


ドM「オヤジ(仮名)さん、いまドサクサにまぎれて、サクラちゃんていいましたね」


 ドMは、実習大好き、課題大好きの真面目くんだ。


オヤジ「おまえ、そんなとこ突っ込むなよ。ここはサッと流してオレたちもサクラちゃんって呼ぶ方向に持っていく流れだろ」


ドM「僕はどっちかっつうと、ジャスミンと呼ばさせてもらえればと思うんですけど」


ジャスミン「呼んだら、殺す」


イエス「えー、いいじゃん。なんかそういわれると、ジャスミン(仮名)さんって、「ジャスミン」っていう感じしてくるよねー」


オヤジ「うん、むしろもうジャスミン以外の何ものでもないね」


ジャスミン「ふざけないでよ」


ホスト「わかったよ、じゃあ、俺のことはローリーって呼んでいいから」


イエス「それ、お前の高校の時のあだな?」


オヤジ「もしかして、ローリー寺西に似てるから?」


ホスト「うっさい。俺の黒歴史だ。ここまで曝露したんだから、いいよな。ジャスミンで」


オヤジ「うん、俺が許す。な、ジャスミン」


サクラ「ダメっ、ジャスミンのことジャスミンって呼んでいいのは愛人のわたしだけ」


ジャスミン「サクラ、酔っ払い過ぎだってば」


ドM「そういうジャスミン(仮名)さんは、飲んでないんだ、これウーロン茶だよね」


オヤジ「だから、お前、そこはジャスミンって呼ばなきゃ」


ドM「でも、殺すって」


オヤジ「ジャスミンに殺されて何の不満がある?」


ドM「そうか、何の不満もない。ってゆうかむしろ殺して欲しい」


 そう言ったドMの表情は、冗談とも本気ともどっちとも言えない。こいつ、まさかホントにドMだったとは。


イエス「ジャスミン、お酒飲まないんだ? 車なの?」


 どうやら、もうジャスミンと呼ばれることに決まったらしい。まあ、酔っ払いには何を言っても無駄だろう。私は肩をすくめた。


ジャスミン「大学でそう呼んだらホントに殺すからね。私、車じゃないけど、飲まないの」


ホスト「なんで? 飲めないの?」


ジャスミン「飲まないことにしてるの。理由は……聞くと、ちょっとひいちゃうと思うからやめておく」


サクラ「もう! ジャスミンはジャスミンの飲みたいものを飲むの。お酒な

ら、わたしが代わりにいくらでも飲みます。おかわりねー」


ジャスミン「サクラ、もう止めときなよ」



 さっきからずいぶんピッチが上がってるみたいだけど、自分で飲まないから彼女がどのくらいの状況なのかわかんないのよね。


 気を揉んでいると、いつのまにか周囲の視線が私に集中していた。



イエス「別に飲まない人に無理にすすめたりはしないよ。でも、なんでかなーってのは気になるよね」


オヤジ「そうそう、そのちょっとひいちゃうような理由っていうのを、どうしても聞きたいって、……ドM(仮名)が言うんでね」


ドM「何で僕がっ! あ、でも、聞きたいや」


オヤジ「やっと、おまえ空気読めるようになったな」



 うーん、ほんとに暗い話なんだよな。でも、なんだか言わずにはすまない様な雰囲気になっていた。



ジャスミン「つまんない話よ。中学の時にね、両親と妹が交通事故で死んだの。でね、その原因がウチの父親の飲酒運転だったのよ。父親はお酒好きな人でねー。なんか、そんな父親の遺伝子が私に半分入ってるかと思うと、ちょっと飲む気にならないっていうか……ほらー、やっぱりひいたでしょ」


ドM「ひいてません」


 ドMが引きつりながらそう言うけど、皆一応に押し黙っている。


イエス「……俺も、ウーロン茶にしようかな」


サクラ「じゃずびん、ぞんな、ばなしぎいでないよー」



 隣を見ると、サクラが大泣きしていた。うーん愛い奴。頭をなでなでしたいのをぐっとこらえる。変に触ると、心を読むことになってしまうからだ。



オヤジ「サクラちゃん、鼻水」


サクラ「だっで、だっで、じゃずみんがばいぞうだどー」


オヤジ「何言ってるのか、わかんないよ。ほら、鼻かんで」


ジャスミン「ほんと、ごめんね。言わなきゃ良かった。そうだ、おわびにね。面白いものを見せたげようと思ってたんだ。びっくりするよ」



 場がしらけたのをきっかけに、私は準備していた作戦を実行することにした。


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