第2章 巨乳ちゃんこと高木さんと、その胸について その1
「すいませーん! ちょっと待ってください!」
突然、カンファ室のドアが開いて、女の子が飛び込んできた。
高木さんだった。
「大きな声を出さないで。この部屋は、仕切りひとつ隔てて待合室になってます。待っている患者さんがおおぜいいらっしゃいますからね」
ぬる燗2号は注意しようと彼女のほうを振り返って、声を失った。
遅刻した分、急いで走ったんだろう。脱いだ上着を小脇に抱え、髪はぼさぼさで、額から汗が垂れ落ちている。
そして何より、シャツの第二ボタンまでがはだけて胸の谷間が露になっていた。
彼女は背が低くて痩せ型、一見したところ中学生かと見まがうような小さい子だったんだけど……胸だけは異様にデカかった。私を含め、そこにいた全員の視線が彼女の、うっすら汗をかいた乳白色の谷間に集中したくらいだ。もうこれは即決するしかない。ニックネームは「巨乳ちゃん」だ。
「す、すいません。あのこれ、ボタンが飛んじゃって」
巨乳ちゃんは頬を真っ赤にして固まっている。
そりゃ、そんな乳だったらボタンも飛ぶわ。私にはそんな経験一度もないけど。
「ええと、とにかくこっちにおいで」
私はあわてて白衣を彼女にかけて野郎どもの視線をさえぎると、両肩を支えながらカンファ室の椅子に座らせた。
座らせる途中で、つい白衣の隙間から谷間をチラ見してしまった。
間近で見ると、またすごい迫力だ。
(な、何で、私は、男目線になってんの?)
私は、自分で言うのもどうかと思うけど、パーフェクトな人間だ。
美人でスタイルもいいし、頭もいい、特異能力だってレア級だ。そんな私にかけているものを敢えてあげるとすれば、家族と胸だろう。そしてこの二つだけは、努力とか根性とかではどうにもこうにもならなかった。
高校の時は悩んださ。ついうっかり特異能力を発動させて流れ込んできた友達の心の声が、
(うわー、ホントに「エグれ」てるー)
だったときには、死んでやろうかとも思ったもんだ。
でも、彼女のこれは何? 一体、この中に何が詰まってるの? 夢なの? 希望なの?
現実にこのくらい差があると、嫉妬のしようもない。私は、素直に巨乳ちゃんの乳を褒め称えた。もちろん、心の中でだけど。
その時だった。
アレが来た。
(白衣なんか着やがって、いかにも女医ってかんじだな。こういう奴に限って欲求不満が溜まってたりするんだよな。きっと夜の診察は激しいんだろうなぁ、俺も受けてみたいねえ。あの白衣をひっぱがして、○○を×××したら、よだれたらして悦んだりしてな、□□を☆☆にしてぇ、とかって)
この伏字の多さは、例の「エロ電波」だ。
出てきやがったか。
まあ、そりゃそうだ。犯人がどんな変態野郎か知らないけど、巨乳ちゃんのこのあられもない姿をみて興奮しないわけがない。
急いで辺りを見回した。ここにいるのは、班の四人と甘谷講師。ただし、薄い壁一枚隔てて患者や職員たちは大勢いる。
「ジャスミン(仮名)さん、そんなに睨まないでよ。俺たち、別にそんなつもりじゃ」
「そうそう、ちょっと驚いただけださ。ガン見してたのはドMだけだから」
「アレは普通見ちゃうだろ、って違う! 見てないって! ちょっとだけだって!」
いつも間にか、私はすごく怖い顔になっていたらしい。男子たちは、私が怒っているものと勘違いしたようだった。
あわてて笑顔で取り繕った。
「ごめん、ごめん。別に、みんなを怒ってたわけじゃないのよ」
巨乳ちゃんは顔を真っ赤にしたまま、白衣の襟をおさえて椅子の上に縮こまっている。
ぬる燗2号が我に帰ったように仕切り始めた。
「ええっと、ポリクリをはじめるんで、三人ずつの二つに分かれてもらおうと思ってたんだけど……まず男性四人一チームで、そのあと女性陣二人ということにしましょうかね。じゃあ、男性陣から出発です。えっと、君」
それから彼は私に向かって微笑んだ。
「ジャスミン(仮名)です」
「じゃあ、ジャスミン(仮名)さん。彼女をよろしくね。十五分くらいで入れ替わりですから」