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第6章 もう一人の変態と洒落にならない危険について その1

 目が覚めると、朝十時だった。


 ヤバい! と思ったけど、今日は土曜日だ。まだ寝てられる。


 いや待て、サクラは!?


 昨晩の出来事を思い出して、布団から跳ね起きた。見回しても部屋には誰もいない。狭い部屋の中だ。隠れられるとこなんてあるはずがない。



(じゃあ、昨日の夜のことは!?)



 もしかして、あれは夢だったんだろうか? ていうか、どっちかって言うと夢であって欲しいんだけど……


 キッチンのテーブルの上に走り書きのメモがあった。



「ごめん。急用ができたんで帰ります。爆睡してるから起こさないよ。ジャスミンの寝顔かわゆいね。          サクラ 」



 ……やっぱり、夢じゃなかったか。


 気を取り直して、朝ごはんの前に部屋の掃除をすることにした。


 まず、こたつを片付けよう。昨日、サクラに無精者呼ばわりされてしまったしね。これがなきゃ、次からは最初から自然にベッドで一緒に……って違うぞ、違う。何考えてるんだ私は。


 こたつを動かすと、サクラが忘れていったらしいトートバックが出てきた。



「あわてんぼさんだなー。あの子は」



 トートから、文庫本がのぞいている。かわいいお手製のブックカバーがかけてあった。


 こういうところも、女の子らしいんだよね。


 どんな本読んでるんだろ。



「どれどれ、」



 ちょっとだけ、本をのぞいてみた。


 その本の題名は、



「ぬれた女医・夜の診察室」



 エロ小説かよ!


 しかも、女医モノ。これ一体どこで買ったんだろう。


 なんとなく、腹が立ってきた。


 こんなもの読んでるくらいなら、ちゃんとやることやれっちゅうの。


 それとも何か! 私がまだ女医の卵で、女医じゃないから手を出す気にはなれんと、そういうことか!? じゃなかったら、胸か!? やっぱり胸が足りないのか!?


 ……待て待て、なんで私は怒ってるんだろう? 昨日のことは、あれで良かった。変なことをされずにすんでメチャクチャラッキーだったんだ。


 最近どうも自信がなくなってきているんだけど、私は決して百合じゃない。いくらサクラが可愛いからって、好きだと思ったり、女同士でキスしたいとか触られたいとか思うなんて絶対に間違っている。間違いは正されなきゃならない。


 私に足りないのは、ズバリ男だ。


 まず、彼氏を作るんだ。



 とりあえずカフェでブランチを食べることにした。それから、大学にでも行ってみよう。


 土曜日だけど医学図書館にでも行けば、知り合いの男子の一人や二人いるはずだ。

 それからどうすればいいのかはわかんないけど、なあに、私の実力があれば彼氏ぐらいあっという間だ。なにしろ、親睦会のときもモテモテだったしね。ドMは私のことが好きみたいだったし……でも、


(……ドMくんか)


 でもまあ、誰でもいいって訳じゃないんだよなあ。一応、記憶の片隅に残してはおくけど、こっちにも希望とか理想ってモンがある。


 私の好みのタイプは、やっぱりぬる燗さんだ。


 優しくて、頼りがいがあって、飾らない人。そんな人いるかな? いるいる、絶対いるに決まってる。


 何事も、ポジティブ・シンキングだ。



 玄関を出ると、初夏の日差しが降りそそいでいた。


 今は五月、一年で一番すがすがしい季節だ。


 でも私は、どうしても五月が好きになれなかった。理由は簡単。あの交通事故がおこったのが五月だったからだ。


 黄金週間の初日、行楽地からのは帰りに私たちを乗せた乗用車は大事故を起こした。両親と妹は即死。私は奇跡的に一命を取り留めたものの、意識を取り戻したのは事故から一週間後のことだった。


 まぶしい陽の光が差し込む病室に、一人のお婆さんがやってきた。


 地味な着物を着た老婆は「星読み」と名乗り、私が事故の影響で特異能力者になったと告げた。彼女は、新しい特異能力者の出現を察知する能力の持ち主だった。


「星読み」のお婆さんは言った。


「オマエさんの力はなかなか厄介だね。その力を私利私欲のために使おうというものが、オマエさんのもとにわんさか押し寄せるだろう。しかもその力は、オマエさん自身の役には全く立たないしねえ」


 後で知ったことだけど、実は「星読み」というのは特異能力者の中でも最上級に位置する「三読み」の一人で、普通の特異能力者の前に現れることなど滅多にないんだそうだ。


 でも、私は家族を亡くしてそれどころじゃなかった。


 特異能力なんてどうでも良かった。


 だから、続く彼女の言葉を思い出したのはつい最近になってのことだ。



「だからね、オマエさんはこの力を役に立たせる道を探すんだ。それがオマエさんの、というより、私ら特異能力者の生きる道さね」




 そういえば、ぬる燗さんとケンカしたのも同じ季節だった。


 高三になって医大志望を決めた私に、彼は言った。



「この世の中には嫌な事や汚い事がたくさんある。知らずにすめばそれが一番だ。悪いことは言わない。僕の薦める大学に入るんだ。一般社会にでて仕事をすることになれば、きっと君は傷つくことになる。それだけじゃない。君の能力を狙った輩に危害を加えられることだって十分考えられる。実際、海外には特異能力者の人身売買を目的とした地下ネットワークだってあるんだ」



 たしかに、ぬる燗さんの言うことはもっともだった。彼の言うとおり特異能力保護育成課関連の大学に進学すれば、他人の好奇の目や悪意に晒されることはないし、身の危険も少ないだろう。



 デモ、ドレダケイウコトヲキイテモ、アナタハワタシノモノニナラナイジャン



 言いかけた言葉を、私はぐっと飲み込んだ。

本作もいよいよクライマックスです! が、少々加筆が入るせいで毎日更新ができなくなるかもしれません。2-3日おきには更新しますので、ご容赦ください。

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