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第5章 お泊りとエロい彼女について その2

 突然、ケータイの画面が変わって着信音が鳴った。


 サクラからのメールだった。



「わたしの部屋のスプリンクラーが故障して水浸しになっちゃったの。ジャスミンお願い! 一晩だけ泊めて」



 来た。ど、どーする。


 フツーに考えたら、困ってる同性の友達を泊めるくらい当たり前のことだろう。


 でも、サクラは「エロ電波男」あたらめ「エロ妄想女」なんだよ。


 震える指で返信を打った。



「ウチ寝るトコないよ。布団も一組しかないし」



 私の部屋は、1DK。ダイニングキッチンが一部屋と、コタツとベッドのある部屋が一つあるっきりだ。まあ、コタツを片付ければそこに一人くらい寝れないことはないし、ベッドもセミダブルだから二人寝ようと思えば寝れないことはないけど……


 速攻で返信が来た。



「寝るのは床でいいし、布団なんて贅沢言わない。実はもう近くまで来てるんだ、テヘッ」



 テヘッて……え、えーっ!?


 そんな急に言われたって困る。もしかして布団一組ってのが、あの子のエロ妄想を刺激してちゃったのかな?


 それはともかく、なんて返信すればいいの?


 そうだ、男だ。彼氏が来てるってことにすればいいんだ。


 私はメールを返信しようとした。でも、焦ってるせいでなかなか文字を打てない。



「わるいけど、いま、かれしがいる」



 ピンポーン


 玄関のチャイムが鳴った。


(まさか……サクラはウチの住所なんか知らないはず)


 恐る恐るドアスコープを覗くと、そこには、Vサインで微笑むサクラの顔があった。


 え、ええーっ!


 どうしてウチの場所がわかったの?



 ピンポンピンポーン



 ええい、もうこうなったら仕方がない。部屋をぐるっと見回して特に変なものがないか確認する。あとは鏡を見て、うーん、ジーンズのボタンを留めれば……まあ、こんなもんだ。


 よしっ、準備OK。思い切ってドアを開けようとノブに手をかける。


 その時だった。


 金属製のドアノブを通じて、サクラのエロ妄想が一気に流れ込んできた。



(へっ、へっ、へっ、今日こそ、この女の○○した××に、俺の自慢の☆☆を□□して、ぐっちょぐっちょの$#に◎◎してやるぞ)



「エロ妄想」に耐えながら、えいやっとドアを開ける。


 そこに立っているサクラを見て、私は一瞬、言葉を失った。


 肌の透けるピンクのボレロに、パックリと胸元の開いたワンピースをきて、髪はユルフワに巻かれている。どこをどう見ても戦闘準備万端、おしゃれ度100%の可愛い女の子だ。


 こんなに小さな可愛い顔して、なんだって考えていることが「エロ妄想」なのよ!



「サクラ、あのさ、スプリンクラーがなんとかって、ウソでしょ」


 ドアを開けはしたものの、はたしてこの子を中に入れていいんだろうか? 

 私は玄関の前で仁王立ちになった。



「えっ、もうバレちゃった? はい、これお土産です、ケーキ。一緒に食べようと思って」



 こいつ、あっさり認めやがった。そして今度は食べ物で釣ろうってか。



「部屋が水浸しで大変だって時に、そんなばっちりおしゃれしてくる子はいないでしょ」


「これでも、気を使ったんだよ。はじめてジャスミンのおうちに行くのに、変な格好じゃまずいなって」



 なぜ女友達の家に来るのにそんな気を使う? そして、気を使った挙句、どうしてそんなに谷間が強調されるんだ?



「遊びに来たいなら、嘘なんてつかずに遊びに来たいって言いなさいよ」


「言えば、断らない?」



 出たっ! サクラの必殺上目使い攻撃。この子の攻撃は、前かがみになって谷間を強調してくるところがポイントだ。私は思わず目をそらした。



「……別に。ことわりゃしないわよ」



 その時、サクラのケータイがなった。アホっぽい陽気な曲が流れてくる。



「あ、この曲はジャスミンからのメールだよ」



 げげ、さっきのメール、書きのかけのまま送信されちゃったか。そういえば「彼氏がいる」なんて送っちゃったんだっけ。やばい。今の部屋を見られたら、彼氏がいるなんてウソだってすぐバレちゃうじゃない。



「何、これ、枯れ死ガイルって?」


「……なんでもないわよ」


「ねえ、ホントに断らない? じゃあ、お泊りも?」



 お泊りって、スプリンクラー云々がウソなら泊まってく必要なんかないわよね。


 私はキッパリと断る、つもりだった。



「……まあ、いいわよ」


「やったー。お泊りだー、お泊り会だー! もう、断られたらどうしようかと思ったよ。歯磨きセットまでしっかり持ってきたのにぃ」



 サクラは、はしゃぎながら家の中に入ってくる。



「こたつだー。まだこたつがあるー。ジャスミン、案外無精者だね」



 そのままこたつに入って寝転がった。


 ヒトんちのこたつに勝手に入るなっていうの。



「あー、こたつ最高。今日のわたしの寝床はここね。テレビ何見てたの?」


「別に、ただ、つけてただけよ」


「あ、それわかる。一人暮らしだとなんか寂しくて、ついつい見もしないテレビつけちゃうんだよね」


「そうそう、家族が死んで間もない頃は、よく学校行く時もテレビつけたままにしてたなー。家に帰ってきた時に誰かの声がするとホッとするんだよねぇ」


「ジャスミン、さらっと言ってるけど、それ寂しすぎだよ」



 それから私たちは、普通にケーキを食べ、普通にテレビを見た。


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