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第四話 二条御所の惨劇:前編

 三好長慶の死。義輝にとって一見朗報ともいえる出来事が、皮肉なことに彼の命を縮める結果となる。永禄七(1564)年、長慶は病身の上精神に異常をきたして寂しくこの世を去った。


 かつて直接の主細川晴元を、そして将軍義輝を追放し、京そして故郷の阿波(現在の徳島県)と畿内、四国にまたがって八カ国までを支配した男。


長慶に先を見る目があったなら、この時点で室町幕府に見切りをつけて自ら天下に号令をかけていただろう。そうなればその後の歴史は、また違った展開もあり得た。天下を取っていたかもしれない。


 長慶の不幸は、それでもなお幕府を中心とした権威を絶対の価値観にしていたことだった。主晴元を、義輝を追い出したのも、彼らでは幕府を支えきれないと思えばこそだ。だったら、俺が代わりに幕府を守り切ってみせる。そういう決意があったのだろう。


主君に逆らったということで何かと批判も多かった長慶だが、彼には彼なりの信念があった。たとえそれが、滅びゆく時代の価値観だとしても。


 松永久秀には信念など、なかった。主長慶に代わって、三好家の実権そのものを掌握していったこの男にあるのは、ギラギラした野心だけだった。いつか俺が、あんたに取って代わってやる。


長慶が存命中の頃からそんな想いを胸に秘めていた久秀は、政治に嫌気がさした主君に全てを任せられると思いのままに振舞った。


 長慶の実子義興、実弟十河一存そごうかずまさ、そして同じく長慶の実弟で長慶が腹心として信頼していた安宅あたか冬康などを、謀殺によって葬り去った。特に冬康の場合、疑惑の目を向けさせて長慶自身に殺させたのだからやることがあこぎである。


(十河一存の場合、単なる落馬によるものだという説もある)かくして三好一族を弱体化させた久秀は、主君が亡くなると待っていたかのように次の手を打った。義輝の殺害である。


 久秀にしてみれば、何一つできない飾りだけの将軍がことごとく逆らうのが気に入らなかった。考えてもみるがいい。長慶の支配力が衰えたのも、なまじ反抗する者を生かしておいたからだ。将軍だからといって、追い出すだけでは生ぬるい。


 「あの御方を亡き者にすることこそが、お亡くなりになった父君への良き供養となりますぞ」


 残された長慶の養子義継、長慶の親戚筋にあたる三好政康、同長逸ながゆき、岩成友通といった三好三人衆を前に、久秀は平然と言い放った。なんという恐ろしいことを。さすがに聞いていた者たちはゾッとした。


 しかし、新しい将軍を奉ずることが三好一族のためになり、ひいては幕府のためにもなる。詭弁としか言いようのない久秀の言葉に、欲で目の曇った者たちは心を動かされていった。


この時交わされた密約を反故にされたのが原因であろう。後に久秀と三好三人衆は、醜い勢力争いで戦火を交えることになる。


 騙した者、騙された者、立場の違いこそあったが彼らの目的は一致した。目指すは将軍義輝のいる二条御所。軍勢が夜陰に紛れて、確実に死への秒読みを打とうとしていた。

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