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第十話 その男、大野心家につき

 「して、義昭様はいずれこの美濃へまいられるのじゃ?」



 義秋が越前の地で元服して、名も秋の一字を縁起かつぎから改め義昭と名乗ったそうだな。開口一番、かん高い声で尋ねてきたその男の一声に光秀は答える間もなかった。冷たいものが背筋を通り抜けた気がした。


 恐るべき慧眼の持ち主。光秀は、目の前にいるまだやんちゃな風情の残るその男、織田信長をまじまじと見つめ返した。無論、信長の問いかけは当然といえば当然の帰結であった。


明智光秀が美濃土岐氏と縁深く、父道三を殺した斉藤義龍に一族を攻め滅ぼされ、浪々の身になったこと。その彼が越前の朝倉義景の重臣として取り立てられたこと。


同じように、前将軍の足利義秋改め義昭が身を寄せていること。ある程度の情報網を持った大名なら、大体このくらいは把握している。


 更に光秀が家臣として、義昭が将軍の座を狙う立場として、義景の優柔不断さにやきもきしていること。この点になると、よほど根の張った諜報活動を行なっている者でなければ知ることはできない。


甲斐の武田、越後の上杉あたりにはここまで筒抜けになっていよう。


 しかし、その上で単刀直入に義昭をいつこちらへよこすか。そこまで言い切るのは、情報につけ加えて果断といっていい決断力すら垣間見せることだ。


武田信玄ならば、毛利元就だとしたら空とぼけて光秀自身に言わせたであろう。だが、この男は―。



 (違う。義景殿など、問題にはならない)



 いや、日本中探してもここまで己の元に転がり込んできたチャンスに敏感な男もいるまい。決断の速さは直感の鋭さもある。


同時に、いつの日か上洛して天下に号令をかけるという青写真が、己の内でほぼ明確に組み立てられていればこそだ。そして、その具体的な形はここ美濃の地に刻印されている。


 斎藤氏を攻めたてて美濃を得た信長は、それまで井ノ口と呼ばれていた城下町を岐阜と改めている。元からあった地名から取ったともいわれている。


同時に、中国周の文王・武王が岐山という地を拠点に天下を統一した故事から得たという説も有力である。


 更に信長は、この地を中心に商人が彼らが組み込まれている組合や領主から法外な税金を取り立てられることを止めさせた。そして、組合も抜けさせて自由に商売ができるようにした。


いわゆる楽市・楽座であり、これによって岐阜の地は商人を中心に他国の者たちの往来が活発になった。


 彼らの往来で運ばれてくるのは物だけではない。各地の情報も自然と集まってくる。下手な諜報活動をするより合理的である。その先に意図するのは何か。天下取りである。


 ”天下布武”の印を信長が作ったと聞いた時、京の人々はなんと気の早いことよと一笑に付した。だが、宣言をするということは、いつでも動けるのだという意思表示にもなる。


自分はあるいは、そんな信長に誘導されたのかもしれない。油断はするまいと、光秀はほぞを固めた。

  

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