読書/『ワイド版東洋文庫355 幸若舞1』 ノート20170327
『ワイド版東洋文庫355 幸若舞1』感想文
荒木繁・池田廣司・山本吉左右 編注『ワイド版東洋文庫355 幸若舞1 百合若大臣ほか』平凡社1979
創作の関係で、大陸神話関連資料を探していたところ、平安時代に成立したといわれる幸若舞の「百合若大臣」が、「ユリシーズ」の物語のタイトルからストリーまでそっくりだという。
この「ユリシーズ」というのは、ギリシャ神話の「オデッセア」のアイルランド語読みなのだそうだ。室町時代に日本に伝播したのではないかと、近代日本の学者たちは評していたのだが、比較的最近、平安時代からあるのだから、河村聖『百合若大臣と猫の王』において、逆に日本から西洋に影響を与えたに違いないという説もみかけた。まあそれはなかろうから、かつてユーラシア大陸全域にあった神話がドーナツ化現象を起こし、中央部で滅びて縁辺部で生き残っている状態なのだろう。無人島に置き去りにされた百合若大臣の放った鷹が、妻の元に無事を知らせる手紙を届けさせるあたりは、ケルト伝説『トリスタンとイゾルテ』で、アイルランド王女イゾルテの髪の毛を、コンウォール王マルクのところへ届ける場面とも重複している。
物語は、対モンゴル戦で敵を退けた英雄・百合若大臣が、美貌の妻に邪恋を抱く家臣によって無人島に置き去りにされたのだが、やがて島を脱出。海原を冒険した末に、家領へとたどり着き、奸臣を討ち果たすことで、妻と家領とを守り抜く英雄放譚である。
目次
入鹿………………………………001
大織冠……………………………031
百合若大臣………………………111
信太………………………………169
満仲………………………………239
築島………………………………283
解説・解題(荒木繁)…………335
2007年に再販された。各題の第1頁は表紙で、最終頁は偶数頁となる。共著者三名の執筆分担は不詳である。(図書912-1 2007年版3800円)
ノート20110327