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もう一度妻をおとすレシピ 第7冊  作者: 奄美剣星
随筆・覚書
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随筆/鎌倉のリアル吸血鬼 ノート20150430

随筆/鎌倉のリアル吸血鬼 ノート20150430

 学校を卒業するころまで、幽霊……らしきものをみていた。若い男や女、子供やら老人。幼馴染や恩師というときもあった。起きているときもみるが、どちらかといえば寝ているときのほうが多く、そのときは金縛りになっていた。腹の上に乗っていてこっちの顔をみている場合もあれば姿がみえない場合もあった。だいたいは何も喋ってはこない。

 ――事情を家族に訴えると、迷信深いとかストレス的なものだと一蹴されたものだ。……幽鬼は別段危害は加えてこないため、試行錯誤して、私は金縛りを解く方法を覚えた。足の親指を動かすといい。そこだけは動く。

 余裕ができた私は来訪する幽鬼たちこう告げた。

「私に絡んできてもなにも解決しないよ」と。

 説得? のようなものが効いたか、以来、幽霊というのをほとんどみなくなった。たぶん近くにはいる。しかしいないのも同然。彼らは私の世界とは接点を持っていない。ゆえに怖がる必要もなければ、お祓いなどしなくてもよい。――その時点での結論だ。

 そして……。

 卒業・就職・結婚という運びとなった。

 出不精なもので、学生時代はそう遠くもないのに、魅惑のスポット・鎌倉にゆくということがなかったため、入籍して、まだ日が浅かった家内と一泊旅行にでかけた。季節は盛夏を外したあたりではあるのを覚えてはいるが、春だったか秋だったかは定かではない。湾岸をドライブして着いた宿泊先は浜辺のバーみたいな二階建てのホテル。料金はシーズンオフ設定。他の客は、海水浴ではないところのサーフィンがお目当てだ。

 私たち夫婦は名刹をいくつか巡った。大仏や八幡宮といったメジャーなところもいったが、鎌倉幕府・北条氏を滅ぼした後醍醐天皇が供養のために建立した寺とか閻魔寺といったマイナーなところにもいった。そして極めつけが縁切り寺だ。――なんでも、江戸の徳川家が大阪の豊臣家を滅ぼした際、豊臣秀頼の娘が、徳川家に嫁いでいた大叔母・お江の方を頼って落ち延び。剃髪して籠ったのがそこだった。

 絶壁に拠ったところにある縁切り寺は、昔、尼寺だったが現在は男性住職が運営しているようで、寺の奥で写経している姿がみえた。茶会をやっていたらしく、赤い敷物を掛けた長椅子と大きな日よけの唐笠が庭にあった。

 寺を一巡し、私は、秀頼の娘・東秀尼のことを家内に話した。ちょうど先ほど上った階段のところまで戻ったときだ。

 そこで。

 エナジードレイン――伝説的な洞窟探検ダンジョンのテレビゲーム〝ウィザードリー〟で、敵の怪物たちが主人公チームに仕掛けてくる、生命エナジーすなわち〝精気〟を吸い取って死に至らしめる技……を体感した。

 十段そこらの石段だが、数メートルの高さだ。落ちれば頭を骨折してしまうだろう。気絶しそうになるところで、私は肩に手をやって、埃を払う仕草で邪気を払った。――幽鬼というのは滅多に人を襲わない。しかしここででくわした奴は、戯れかもしれないが、間違いなく私を捕食し殺そうとした。しかしなんとか踏ん張って転落を免れた。

 階段を降りた道路むかいに喫茶店があり、家内と入った私は、スイーツを口にして小一時間休憩をとると体力を回復させることができた。

 伝説でいうところの吸血鬼が人の血を吸うのはなぜか? そもそも実体をもたない幽鬼が物質である人の皮膚を牙で食い破って血をすすれるのか? 後日、なにかの吸血関連記事を読んでいたら血というのは、〝精気〟の象徴であるのだという。ゆえに連中が、実際には血ではないところの〝精気〟を吸い取るということを知った。……雪女や牡丹燈篭にでてくるような美しい幽鬼は日本版吸血鬼といえる。――そんな話を家内に話した。

「吸血鬼がカミーラみたいな美女だったなら首筋チューチューで殺されてもいいね」

「変態!」

 悪かったよ。

     ノート20150430



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